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#251 「八戸労働基準監督署長事件」東京地裁(再掲)

2010年1月20日に配信した「会社にケンカを売った社員たち」第251号で取り上げた労働判例を紹介します。

■ 【八戸労働基準監督署長(以下、H労基署長)事件・東京地裁判決】(2008年11月13日)

▽ <主な争点>
業務とうつ病発症との間の相当因果関係等

1.事件の概要は?

本件は、薬剤師として青森労災病院(以下、A病院)に勤務していたXの妻Yが、Xの自殺による死亡につき、H労基署長に対し、労働者災害補償保険法(以下「労災保険法」という)に基づく遺族補償給付および葬祭料の支払いを請求したところ、不支給決定処分がされたため、同不支給処分の取り消しを求めたもの。

2.前提事実および事件の経過は?

<X、YおよびA病院について>

★ X(昭和36年生)は、昭和58年に労働福祉事業団(以下「事業団」という)に入団した薬剤師で、平成9年4月からA病院において主任薬剤師として勤務していたが、12年12月、自殺により死亡した。

★ XとYは、昭和60年に婚姻した夫婦であり、XとYとの間には長女および二女がおり、A病院の宿舎に4人で住んでいた。XはYから、真面目でバカ正直であり、責任感のある性格であり、失敗したことにはこだわりを持ち、原因を突き止める性格であると評価されていた。また、Xは職場の同僚からも真面目で仕事熱心であり、頑固な面もあると評価されていた。

★ 事業団は、A病院(青森県八戸市)等、全国各地で労災病院を運営している。

★ A病院は、11年11月現在、労働者数524名、22診療科、474病床を擁し、業務上災害および通勤災害による労災患者を中心に、医療からリハビリテーションに至るまでの総合的な医療を行っていた。

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<Xが自殺に至った経緯等について>

▼ Xは12年4月19日、八戸赤十字病院において、脳梗塞と診断され、同日、勤務先であるA病院において、脳梗塞(の疑い)と診断されて入院し、同年5月9日、退院し、経過観察となった。

▼ Xは同月19日に職場復帰したところ、同月21日、A病院の薬局にあった薬物を多量服薬したため、救急外来前にふらふら状態で立っているところを発見され、同病院の神経内科に再入院し、急性薬物中毒と診断されたが、6月2日、退院した。

▼ Xは同月8日、A病院神経科において、抑うつ状態(うつ病エピソード)と診断され、同月12日、入院し、8月15日、退院した。

▼ Xは同月17日から9月19日まで、実家のある釧路市内の病院等で療養した後、同月25日、八戸に戻り、同月27日からA病院神経科において、外来治療を受けることとなった。

▼ Xは11月7日、復職し、12月8日まで、休日を除き、午前中のみの半日勤務を継続した。

▼ Xは同月10日(日)、八戸市内のホテルに宿泊した。Xから不審な電話を受けた者からの連絡を受けたXの上司であるB薬剤部長らは、同ホテルに駆けつけてXの状態を確認し、Yに対し、Xの呼吸、脈拍等の乱れはなかったと連絡した。

▼ Xは翌11日、睡眠薬を含む向精神薬の過量服用による急性薬物中毒を原因として、自殺により死亡した。

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<Xの死亡後、Yが本件訴えを提起するまでの経緯等について>

▼ YはH労基署長に対し、13年3月、Xの死亡は業務上の事由によるものであるとして、労災保険法による遺族補償給付および葬祭料を請求したが、同労基署長は15年2月、これらを支給しないとの決定(以下「本件各不支給決定」という)をした。

▼ Yは青森労働者災害補償保険審査官に対し、同年4月、本件各不支給決定を不服として、同処分を取り消すとの決定を求めて審査請求をしたが、同審査官は、同年12月、同審査請求を棄却した。

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