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#250 「奈良県(医師時間外手当)事件」奈良地裁(再掲)

2010年1月6日に配信した「会社にケンカを売った社員たち」第250号で取り上げた労働判例を紹介します。

■ 「断続的労働」に該当する宿日直勤務について

時間外または休日労働の割増賃金支払義務に関する労働基準法(以下「労基法」という)37条の規定は、監視または断続的労働に従事する者で、使用者が行政官庁(所轄労働基準監督署長)の許可を受けたものについては、適用しないこととされているが(同法41条3号)、同法41条3号のいわゆる「断続的労働」に該当する宿日直勤務とは、正規の勤務時間外または休日における勤務の一態様であり、本来業務を処理するためのものではなく、構内巡視、文書・電話の収受または非常事態に備えて待機するもの等であって、常態としてほとんど労働する必要がない勤務をいうものと解される(平成14.3.19 厚生労働省労働基準局長通達基発第0319007号)。

そして、同法41条3号にいう行政官庁たる労働基準監督署長は、(1)常態としてほとんど労働する必要がない勤務のみであること(原則として通常の労働の継続は認められないが、救急医療等を行うことが稀にあっても一般的にみて睡眠が十分とりうるものであること)、(2)相当の睡眠設備が設置され、睡眠時間が確保されていること、(3)宿直勤務は週1回、日直勤務は月1回程度を限度とすること、(4)宿日直勤務手当は、その勤務につく労働者の賃金の1人1日平均額の3分の1を下らないこと、という許可基準をみたす場合に、医師等の宿日直勤務を許可するものとされている。

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■ 【奈良県(医師時間外手当)事件・奈良地裁判決】(2009年4月22日)

▽ <主な争点>
病院医師の宿日直勤務は断続的労働にあたるか、自宅等における宅直勤務が
労働時間にあたるか等

1.事件の概要は?

本件は、県立X病院の産婦人科に勤務する医師であるAおよびBが、Aらの行っている宿日直勤務および宅直勤務は時間外・休日勤務であるのに、平成16年1月1日から17年12月31日までの割増賃金が支払われていないとして、奈良県(以下「」という)に対し、割増賃金等の支払いを求めたもの。

2.前提事実および事件の経過は?

<県、X病院およびA、Bについて>

★ 県は、X病院を設置運営するものである。X病院は、1次、2次、3次救急すべてを取り扱う総合病院であり、産婦人科医師が複数人在籍し、麻酔科医師もおり、救命センターや新生児のNICU(集中治療室)施設があるため、県北部だけでなく、県全域および京都府南部からの救急患者が運ばれてくる病院である。

★ AおよびBは、X病院産婦人科に勤務する医師である。

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<Aらの勤務時間、宿日直勤務、宅直勤務等について>

★ Aらの正規の勤務時間(所定就業時間)は、月曜日から金曜日までの各午前8時30分から午後5時15分までである。

★ X病院はAらに対し、本来の勤務以外に交代で宿日直勤務を命じており、Aらはこれに従事している。その勤務時間は、宿直が平日休日を問わず、午後5時15分から翌朝8時30分まで、日直が休日(土曜、日曜、祝日)の午前8時30分から午後5時15分までである。

★ 宿直医師は、入院患者ならびに救急外来患者に対する診療にあたるために、X病院に宿泊して業務を行う。宿日直勤務中は勤務位置をできるかぎり明確にして常時ポケットベルを携帯し、呼び出しに速やかに応答することが義務付けられている。

★ 宿日直医師は助産師や看護師と協力して分娩に当たるが、分娩には必ず医師が立ち会い、異常分娩の場合には分娩前後にもさまざまな医療行為等を行い、助産師や看護師は異常があればすぐに宿日直医師に連絡することになっている。

★ Aらを含むX病院の産婦人科医師は、宿日直勤務以外に、自主的に「宅直」当番を定め、宿日直の医師だけでは対応が困難な場合に、宅直医師が病院に来て宿日直医師に協力し診療を行っていた。なお、X病院の他の診療科には宅直勤務はない。

★ 県がX病院産婦人科における、19年6月1日から20年3月31日までの宿日直勤務中における通常業務(原則として、外来救急患者への処置全般および入院患者にかかる手術室を利用しての緊急手術等)の割合を調査したところ、Aら産婦人科医師は、宿日直勤務時間中24%の時間、通常勤務に従事していた。

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<県における条例等の規定について>

★ 県では、職員の勤務時間、休暇等に関する条例(以下「勤務時間条例」という)9条1項において、「任命権者は、人事委員会の許可を受けて、第3条から第6条までに規定する勤務時間(正規の勤務時間)以外の時間において職員に設備等の保全、外部との連絡および文書の収受を目的とする勤務その他の人事委員会規則で定める断続的な勤務をすることを命ずることができる」と規定されている。

★ 職員の勤務時間、休暇等に関する規則(以下「勤務時間規則」という)7条1項には、「勤務時間条例9条1項の人事委員会規則で定める断続的な勤務は、次に掲げる勤務とする」と規定され、同項3号(6)に「県立医科大学付属病院または県立病院における入院患者の病状の急変等に対処するための医師または歯科医師の当直勤務」と規定されている。

★ 宿日直手当に関する規則3条1項4号は、勤務時間規則7条1項3号(6)の勤務に関し、その勤務1回につき、2万円の宿日直手当を支給すると規定している。

▼ 16年1月1日から同年10月25日までの間の、Aらの県に対する時間外・休日割増賃金債権については、消滅時効期間が経過した(労基法115条)。

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