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3月27日「チャーハン山にハイキング」

手書きで「登山は楽しい」とだけ書いてあるチラシがポストに投函されるようになって一週間になった。

なので、登山に行った。

サブリミナルのように刷り込まれたからではなく、
僕が登山に行くことによってチラシを作った人にどういうメリットがあるのか、気になったから行くことにした。
それと、日に日に丸くなっていく文字が、すごい味があるからというのも理由だ。

まず山選びをした。
あまり人がいない所、かつ、登るのがそんなに苦じゃない所がいい。
図書館で借りた「あまり人のいなくて登るのが楽な山100選」を読んで、
一番近い炒飯山に登ることにした。

登山に必要なものを考えるのが面倒くさかったので、
動きやすい服装とタオルとバンソーコーだけリュックに入れて出た。

葉吸駅からバスで45分乗ると、炒飯山が姿をぽーんと現す。
由来は昔から炒飯の匂いがするかららしい。

バスを降りると、本当にする。
油に炒められたネギの香り。隠し味のごま油の匂い。
うーん。
空気がおいしいってこういうことかあ。
錯覚なのか満腹になってきたので、登ることにした。

標高200mくらいで、全長1㎞なので本当にハイキングのような感じだ。
ただ、高度が上がるにつれて炒飯の匂いが濃くなってくる。
それが疲れとは別の気怠さを誘う。

だらだらと、頂上に着くと中華屋の厨房の中にいるようで、
景色が開けていても、清々しさというか、達成感がない。
持ってきたおにぎりも食べる気が起きない。

それでも小さい神社があるというので参拝することにした。
賽銭箱に12円入れて、消費税10%になっても心に余裕を持てますように。
とお願いをした。

帰ろうとしたら、神主さんに話しかけられた。
「おひとりですかな?」と言われたので、
「そうですよ」と少しきつく言ってしまった。
すると
「ほほっほっほほほおほおほほおほおおほおほっほ」と笑ってるのか。咳込んでるのかわからない状態になってしまったので、
とりあえず背中をさすってあげて落ち着かせた。

神主さんは「いやーすいません。炒飯の匂いがどうも苦手で」
ええぇっーー!と口に出してしまった。
「普段はガスマスクをしているんですが、珍しく人が来たもので嬉しくて…」と申し訳なさそうに照れ笑いを浮かべている。

神主やめたらいいんじゃないですか、とはとても言えなかった。
2人でツーショットを撮ってインスタも交換して別れた。

帰りのコースで何回か吐いてしまったけれど、無事下山できた。

完全に性根尽き果てて家にたどり着くと、
また例のチラシが挟まっていたが、
「登山は」と「楽しい」の間に、「友達と行くと」が挟み込まれていて、
「やかましいわ…」と
チラシを折り畳んで口を拭った。


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