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マスクが教室内のエアロゾルを大幅に減らすことが実験により判明

これまでマスクが飛沫およびエアロゾルの排出を減らすことは、『実験環境において』確認されてきました。

今回、『実環境(中学校の教室)において』そのような確認がされた論文を見ましたので、抜粋引用し所感を記したいと思います。


◆論文引用

概要のみ引用します。
長いのでお時間の無い方は飛ばしてください。
リンクは以下です。

Published online 2023 May 18. doi: 10.1371/journal.pmed.1004226

スイスの学校におけるマスク着用や空気清浄機の有無によるSARS-CoV-2の伝播: 疫学、環境、分子データのモデリング研究

Nicolas Banholzer, Kathrin Zürcher, Philipp Jent, Pascal Bittel, Lavinia Furrer, Matthias Egger, Tina Hascher, Lukas Fenner,
Aziz Sheikh, Academic Editor

概要

背景
重症急性呼吸器症候群コロナウイルス2(SARS-CoV-2)の感染拡大には、特にエアロゾルと呼ばれる小さな粒子を介した空気感染が重要であることを示す証拠が増えつつある。しかし、SARS-CoV-2の感染に対する学童の寄与はまだ不明である。本研究の目的は、空気中の呼吸器感染症の伝播と、学校における感染対策との関連性を、複数測定法を用いて評価することである。

方法と所見
スイスの2つの中学校(n = 90、平均18人/教室)において、2022年1月から3月までの7週間(Omicron wave)、疫学データ(コロナウイルス病2019(COVID-19)の症例)、環境データ(CO2、エアロゾルと粒子濃度)、分子データ(バイオエアロゾルと唾液サンプル)の収集を行いました。異なる研究条件(介入なし、マスク着用、空気清浄機)間の環境および分子特性の変化を分析した。環境変化の解析は、異なる換気、クラスの生徒数、学校、平日の影響について調整した。半機械論的ベイズ階層モデルを用いて、欠席生徒と地域伝播について調整し、疾病伝播をモデル化した。
唾液(21/262陽性)と空気中サンプル(10/130)の分子分析により、研究期間中SARS-CoV-2(週平均ウイルス濃度0.6コピー/L)、時には他の呼吸器ウイルスが検出された。全体の1日平均CO2濃度は1,064±232ppm(±標準偏差)でした。介入なしの1日平均エアロゾル数濃度は177±109 1/cm3で、マスク義務化で69%(95%CrI 42%~86%)、空気清浄機で39%(95%CrI 4%~69%) 減少した。無介入と比較して、感染リスクはマスク着用義務化で低く(調整オッズ比0.19、95%CrI 0.09~0.38)、空気清浄機で同等だった(1.00、95%CrI 0.15~6.51).

研究の限界としては、感受性の高い学生の数が時間の経過とともに減少したため、期間による交絡の可能性があることです。さらに、空気中の病原体の検出は、曝露を意味するが、必ずしも伝播ではない。

結論
空気感染およびヒトSARS-CoV-2の分子検出により、学校における持続的な伝播が示唆された。マスクの着用は、空気清浄機よりもエアロゾル濃度の低減につながり、伝播の低減につながった。我々の複数回測定法は、学校やその他の集会場における呼吸器感染症の伝播リスクと感染制御策の有効性を継続的に監視するために使用することができる。

SARS-CoV-2 transmission with and without mask wearing or air cleaners in schools in Switzerland: A modeling study of epidemiological, environmental, and molecular data - PMC
[2023.06.05 引用]
www.DeepL.com/Translator(無料版)で翻訳しました。
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC10194935/

◆まとめ

マスクと空気清浄機の効果を測る研究です。
スイスの中学校で7週間行われました。

観測対象は、空気中のエアロゾル(微粒子)濃度、エアロゾルおよびヒトの唾液サンプル中のウイルスとされています。

結果ですが、マスク着用、空気清浄機ともに非介入と比べて明らかな効果を出しています。

次の図表に結果がまとめられています。
マスク着用により、空間中のエアロゾルを70%減少させたとされています。
(『b』の『CN(エアロゾル数濃度)』が該当するかと思います。)

図5 粒子濃度の解析と調査条件による比較。
(a) エアロゾル数濃度(CN、1/cm3)と粒子質量濃度(PM、それぞれ<1~<10μmの粒子、μgm-3)の日平均値をボックスプロットしたもの。CO2やその他の環境変数に関する結果は、S1 AppendixのText Jに記載されています。
(b) 介入によるエアロゾル数と粒子質量濃度の減少の推定値(事後平均はドット、50%、80%、95%CrIはそれぞれ線)。

◇◇◇

上の内容を見ると、粒子径が大きいほどマスクと非介入の差が小さいです。
これは、ヒトが排出する飛沫・エアロゾルの大きさを考えると妥当かと思います。(大きなものは落下するので滞留しない。)

使用されたマスクはいわゆる普通の不織布マスクであり、コミュニティマスク(おそらく布マスク)も含まれていたようです。推測ですがマスクに関しては運用を含めて特別な条件ではありません。


◆所感

ヒトが排出した空間中のエアロゾル量は、感染リスクの大きな指標だと考えて良いでしょう。

この結果はユニバーサルマスキングの有効性を示すものだと考えます。

実際に論文中では唾液サンプルによる陽性の割合が、非介入に比べて1/2程度だったことが確認されています。

なお、ベイジアンモデルを用いた分析によりマスク着用の優位性(オッズ比 0.19)が示されていますが、私は専門家ではないので判断しかねます。

◇◇◇

ちなみに、こういう比較研究で重要なのは『介入要素を除く条件をいかに一致させるか』だと思います。

そのような意味で『マスク着用により感染対策意識が高まり発声頻度自体が減る』みたいな影響を排除出来ていたのかは気になるところ。

また、測定可能な最小粒径が175nmのようなので、それよりも小さな微粒子の影響は不確かです。
(唾液サンプルの結果を考えると負の影響があったとしても大きなものでもないと考えますが。)


◆おわりに

マスクが飛沫・エアロゾル排出量を減らすという効果については、コロナ後に説得力のある研究データをあまり見ることが出来なかったように思えます。

今回の研究は興味深い内容ですがサンプル数は少ないですね。
今後、類似の研究でデメリットなど合わせて分析されることを期待したいです。

◇◇◇

ちなみに私は、子どもがマスクを着用することは健康面や運用面から疑問があり、常時着用はあり得ないと考えています。

しかし、明らかな流行期や校内で学級閉鎖が出た際などについては、一時的な選択肢として活用していいのではないでしょうか。

それとともに、完全ノーマスク化への取り組みとして、効果的な空気清浄機の導入を検討して欲しいところです。

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