『China Dream』 Ma Jian

1つ前のノートで予告した通り、今週はMa Jian(馬健)氏の『China Dream』を読んだ。少し検索してみたが、陳冠中氏の作品と違ってまだ和訳版がないようす。

まずはタイトルの話。China Dream(中国夢)は習近平が就任したあとに発表した思想と執政理念であり、概要は中国検索エンジンBaiduが公開しているBaidu百科(ウェキペディアのようなもの)から引用させていただく(和訳は自ら):

中国夢は、中国共産党の第18回全国大会にて習近平総書記が提唱した重要な指導イデオロギーと重要な執政概念であり、2012年11月29日に正式に提案された。 習総書記は、「中国の夢」を「中国国家の偉大な復興を実現すること、それは中国国家の最大の夢である」と定義し、この夢は「実現できる」と述べた。 「中国夢」の主要目標は、2つの「100年」目標として要約することもできる。つまり、2021年に中国共産党が設立されて20周年、2049年に中華人民共和国が設立されて100周年になるまでに、中国国家の偉大な復興は徐々にそしてようやくスムーズに達成し、国の繁栄、民族の復興、人々の幸福を具現化する。これを達成する方法は、中国特色を備えた社会主義の道を歩み、中国特色を備えた社会主義の理論システムを堅持し、国の精神を推進し、中国の力を団結させること。実施手段は、政治的、経済的、文化的、社会的、 エコロジカルな文明の「五位一体」の国家建設である。

小説の主人公Ma Daodeは架空の中国夢局局長で、ミッションは中国夢を全国人民に「インストール」すること。人の脳に入れるインプラントで思考をコントロールする「中国夢デバイス」や、不都合な記憶を抹消する「中国夢スープ」などSF的な話も出てくる。物語の中心となるのが、主人公自身が経験した文化大革命のときに発生した数々の悲劇:右翼とされた父・外国スパイとされた母が弾圧された後に自殺、自分と同じ紅衛兵派閥にいた初恋相手が派閥闘争で命を落とすなどが鮮明な記憶として、今の知覚に混ざりこみ。。。苦痛と恐怖から逃れるために、記憶を抹消するスープを追い求めることにー。

文化大革命のドキュメンタリーや記事に触れたことはあったが、フィクションを通じて触れることは初めて。一人のキャラクターが語るストーリーとして文化大革命に触れるのは、過酷なエピソードの描写だけではなく、エピソードを経験した(場合によっては自らの手で実行した)人の感情描写もあったし、そして個別なエピソードではなく一人の身に時系列で発生する出来事の連鎖もわかり、かなり生々しかった。特に作者は1953年生まれで(習近平と同い年)実際学生時代に文化大革命を経験したので、説得力がある。

馬健氏は芸術畑出身で、80年代にチベットに関する小説を出版したが、運が悪く同時に全国における文芸を含む芸術の取り締まりが行われており、「資本階級自由主義」に当たる書物のため没収・破棄され、その後馬氏が執筆した本はすべて中国国内で禁書になった。陳冠中氏よりも厳しく制限されたようで、検索エンジンBaiduで「馬健」を検索してもなかなか本人と作品の内容が出てこない。90年代に故郷を離れ、ドイツを経て、今は家族と一緒にイギリスで暮らしている。

この小説についてもうひとつ触れないといけないのは、ブックカバーデザイン。デザイナーはなんと世界的に有名なアイ・ウェイウェイさん。本来馬氏はロンドンロイヤルアカデミーにあるアイ氏の作品、木のインストレーション(以下関連リンク)の写真をカバーにしようとしたが、許可を求めたら、ブックカバーデザインがオファーされた逸話があり、似た状況同士のコラボレーションとなる。

次は引き続き馬健さんの小説を読むー。

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