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読書日記:Kindle Unlimitedへの課金を動力に(2)

『犬にきいてみろ 花咲舞シリーズ』池井戸潤(Kindle Unlimited)

 TBS日曜劇場『半沢直樹』シリーズでおなじみの池井戸潤の小説を初めて読みました。『半沢』以外にこの「花咲舞」も映像化しているのかな? 『下町ロケット』シリーズのいくつかもKindle Unlimitedにあるようでした。
 まさに「水戸黄門」! 現代の勧善懲悪時代劇なのは『半沢』以外も同じだったのかな。真面目で実直な人物は救われ、不正を働く悪い人物は失脚する。街中の中小企業が日本経済および日本社会を支えてきたのだ──。
 というのをメガバンクの社員の視点から語るのがおもしろいですね。なんとなく銀行、都市銀行ともなればどちらかといえば「不正を助ける側」としてフィクションに出て来やすいイメージでした。その日本最大級のメガバンクが信用金庫の守備範囲であろう中小企業を助けるのも予想外です。
 そういう斬新さがあるように感じました。
 ただ、ドラマだと演出で明確に「時代劇だよ」と謳っているにもかかわらず、『半沢』の勧善懲悪の世界観を真に受けて現実に応用しようとする視聴者が少なからずいる事に危険を感じる──。誰も時代劇見て「不正と真正面から戦おう」とは思わないでしょう。「お話」「人情物」だという距離感を保てる人が大半だと思う。
 でもこれが現代のサラリーマンの話だと途端に現実に取り入れようとする。しかも中小企業や零細企業でも一人の社員のがんばりでなんとかしようと呼び掛ける。
 ものすごく発想が新自由主義的かつ、新自由主義のもとで搾取するのに都合の良い理屈だ。この辺について私はもう少しマルクス主義の階級闘争の発想を再検討してもいいのではと思ってしまう。一人ひとりの労働者に出来ることにはそれなりに限界がある。

『夜は短し歩けよ乙女』森見登美彦(Kindle Unlimited)

 これもアニメ映画化した有名作品の原作小説ですね。こちらは読み切っていないです。通勤とランチに何日か掛けて読む予定。
 始まりから独特の森見節で読んでいるだけで楽しい気持ちになる。文章の密度が素晴らしい。続きを読むのが楽しみです。

『凪のお暇』2巻(Kindle Unlimited)

 こちらもドラマ化された人気コミック。2巻までがKindle Unlimitedに収録されている模様。
 こうしてみると私はメディアミックス(懐)作品を次々に読んでいるのか。まあ私はKindle Unlimitedの月会費の元が取れれば良い。
 1巻で凪が抱える「空気を読んでしまって自己主張が出来ずに、ついには呼吸困難になった」という問題が提起された。とどめを刺してきたのは恋人の慎二の「利用しているだけで恋人じゃない」「貧乏くさいお前が嫌い」などの心無い言動。
 2巻は凪の節約生活が面白かった。私の知らなかった節約技術が色々出て来る。しかしこうして見ていると、資生堂の『ダルちゃん』といい、「どこにでもいる普通のいい娘さん」がとんでもない心の闇と戦っている話が多いんだな。そんなに病んでいる人多いのだろうかと、いちおう同性の私でさえ気付かないほど、結構皆闇と戦って生きているのか。
 足立さん的な悩み方の人も多いのかもしれない。
 そういうのを含めて、一時期はやった「コミックエッセイ」的だとも思う。コミックエッセイはいちおう著者の体験を元にしたノンフィクションをベースにしたフィクショナルな漫画(と私は認識している)。私小説の漫画版のようにも思う。
 「ダルちゃん」も「凪」もフィクションだけど、「どこにでもいそう。そして何の問題もなさそう。割と上手に生きている」雰囲気の女の子が、今にも駄目になりそうな話、という点でコミックエッセイぽい。私小説は……、私の読んだ私小説は、作品の中でそれがうまく作用している例が多いとはいえともかく強烈なナルシシズムが耐え難かった。何が耐え難いって、そのナルシシズムに首肯して聞き手になる役を担わないといけない感じに「すみません、今は無理です。体力のあるときにお願いします」と言いたくなるかんじであります。コミックエッセイはそれに比べるとナルシシズムは控えめ……でもないか。大体「特別な私」の視点が入って来るか。
 山田詠美の『跪いて足をお舐め』の優れている点に「作家のチカ本人ではなく、彼女の友人の忍さんの視点で作者がモデルと思われるチカの話を書いた事」というのがあった。それだと思う。
 2巻では、さらにろくでもない慎二の胸の内が明かされ、凪は自己主張出来るようになっていく。面白い。反撃の仕方に個性が出ますね。凪には幸せになってほしいわけですが、私は世間に押しつぶされて弱い生き物になってしまった女の子の回復の物語としては、『わたしの幸せな結婚』の方が好きかな。完全ファンタジーで。
 私的には、「自己主張が出来ない」「空気を読んで合わせてしまう」がつらいのはわかるし、そうでなくなったほうがいいと思いつつ「何のために空気読んでるの?」というところが、最大の論点。
 凪を見ていると、自己防衛の手段として「空気を読む」ように思える。他人のためというのはほぼ考えていない。結果的に彼女は周囲のためになることばかりするので、普通に生きているだけで他人を思いやれる優れた人物と思えるが、出来すぎである。大抵の人は空気読んで悪気のないままに誰かを虐げている。凪はむちゃくちゃ優秀な人物だよ。周りの人が彼女の表向きの大人しい雰囲気に見事にごまかされて気付かないだけで。
 そう考えると、この漫画に心惹かれているのは「優秀な人々」なのかもしれない。素だと優秀すぎて引かれるので、なんとか周囲に溶け込もうと頑張っている女性の話なのかも知れない。優秀人材が……凪というフィルターを被る事でこんなに共感を呼ぶ……。(私は優秀ではないのであまり興味を持っていなかった)
 表面に騙されるなということだな。太宰治しかり。


 
 

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