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舞台「魔銃ドナー かんなぎ」感想・考察

「魔銃ドナー」の名前は知っていたが、初めて観たのは前回の「真約・魔銃ドナー」。そのため、それまでの作品での”真実”は知らない。真約が自分にとって全てであり、その世界の理が示されたのが今作だった。

続編と聞き、これは観に行かないといけないと思った。事情があり、思ったほど回数を重ねられなかったのが悔しい。それでも最初に観た時から、ある程度の納得感は得られた。

そもそも、バイツという存在は何か。吸血鬼とは何か。
現代でも吸血鬼は伝説として存在している。しかし身近にいる訳ではなく、あくまで伝説の域を出ない。それが存在している世界。人間はバイツを敵視し、それらを殺す役を担うのがRH-L型血液を持つ人間たち、ドナーである。いわば人類の救世主なのに、「穢れた血を持つ者」として扱われる。
今作中でも触れられていたが、その血液による痛みを抑える鎮痛剤のために、ドナーとして危険な役割を担っている。人口比率では0.00001パーセント。もっと称えられても良いのに穢れた血を持つものと言われ、命を掛けて戦わされる。まさに非業の運命。

しかし今回の作品で、全てが繋がり腑に落ちた。
今回出てきた聖域。聖域を管理するのは、神の存在。それを管理しているのはバイツだと言う。今の世界とは少しずれたところに存在する。そして、バイツは何年もずっと生きることが出来る。吸血鬼は不死の存在ともされるが、それが「神の一族」であれば納得できる。
そして、今の世界が終わってその次の世界ということも示されている。
これは色々なところで言われているこの世界が、人類の何番目かの世界かということも通じる。古代文明の跡や、マヤ歴などでも示唆されている何番目かの世界。それをバイツは見てきた。
それが作中で中盤で示された時、バイツが血を吸って人を殺すのは、神による間引きとしたら・・という怖い考えがよぎってしまった。人は増えていく。そしてそれはやがて、世界の終わりへと繋がってしまう。だから間引きしないといけない。そのために、上級のバイツたちは、間引きとしての役割など知らない兵隊として、現世にバイツを落とした。そしてそれらのバイツが人の血を吸うことで、間引き要因は増えていく。
作中では描かれていないし、バイツは忌み嫌われているが、あの世界では、バイツを信仰する組織や集団もあるのではないだろうか。

そしてその存在を政府は知っていた。それは全世界の政府レベルなら知っていることなのかもしれない。そう考えた時、「穢れた血」という呼称にも納得がいく。なぜなら、神の遣いを殺す存在なのだから。
そして気になるのが、彼岸子が全てを壊そうとした時、どうやってもまたその穢れた血を持つものも生まれてくるという話。それはなぜか。それも、神であるバイツが生み出したからではないか。バイツは人の血を吸い、バイツにすることが出来る。そうなった時、暴走するバイツも出てくるかもしれない。破壊と殺戮を繰り返すだけのバイツも出てくるかもしれない。そうなった時、そういう者たちを処分するために、「穢れた血」を持つ人間を生み、そして痛みを付加することで強制労働へ持ちこむ。
人間の身体の摂理から、両親のどちらかがRH-L型でないと生まれないはず。その描写も確かにあった。だけど、それが時代に合わせて神が与えていたとしたら・・これもまた納得がいく。

そして時間を戻すという事にも納得が行く。
本来、時間軸は宇宙が始まってからずっと過去から未来へと繋がっていて、それは相対性理論でも導き出されるという。時間が逆行するには、宇宙が収縮でもしないとありえないと。
そこで、別次元である聖域は、現在の世界の宇宙とは別の宇宙というようなものという考えが繋がってくる。聖域から、その神の力で現在の世界の宇宙を収縮させることで時間を戻すことができる。そして自分たちも宇宙を収縮させれば、永遠の時を繰り返すことが出来る。そんな風にとらえられる。

こんなことを1回目の観劇後に、1人で考えていて、その意識を持って2回目を観劇。
そうなってくると、彼岸子は「堕天使」という扱いになると感じた。
彼岸子を演じていた白石まゆみさんは、前作が舞台デビューで主演。ドナー、彼岸子と言えば、自分の中では白石さんしかいなかった。今回、コード・アルティアリアとして役名がついていて、彼岸子としては書かれていなかった。蓋を開けてみれば、彼岸子であるから、また白石さん演じる彼岸子を観られたのは嬉しかった。
そしてその役に目を向けると、彼岸子はかつて聖域にいて、そこから地上に降りた。巫女であった彼岸子は、その役目に退屈さ・窮屈さを感じて地上へ下りた。本来であれば、神職である人間が退屈だからと地上へ降りてしまうなど信じられないことだが、それが判明した時点で「彼岸子じゃ仕方がない」と思わされていた。天真爛漫なメルとはまた違う。でも、どこか大胆で無邪気な一面もある。神職というようなものでは縛れない。そんな彼岸子を、白石さんが巧みに創り上げていた。だからこそ、少しだけ出てきた七原茜は全く別の性格に見える。七原茜を演じていた彼岸子にも違和感がない。
改めて、彼岸子を演じていたのが白石さんで良かったと思った。
「面白可笑しく暮らす」
前作での彼岸子の言葉。このために、何とかして友達を救いたい、そう思う心は確かに神に向いていないかもしれない。妹のためならばと、手段を選ばなかった神酒と通じ合ったのは、そこなのではないかと思う。

そしてその彼岸子から後を託された桜子。今回は山來ゆうさんが演じていた。
桜子はバイツになったという設定。そして町田を破壊もしたとのこと。そうなれば、その風貌や雰囲気も変わっていても何ら違和感もない。むしろ、今回は強大な力を持っている。そうなると、山來さんの演技が活きてくる。
山來さんを知ったのは、コロナ前の2019年の舞台「013」。その時に名前は憶えていたし、その後の出演舞台も縁があって数本観ている。印象は、とにかく少し迫力があったり、怖いイメージのある役。そのイメージもあり、また劇場で直接会ったこともないため、密かに応援していたという感じだった。
今回、舞台公演前に、ある配信での、彼女の選択したアバターを見て、そのセンスに「イメージと違って面白い人かも」と思い、観劇へ。
そして今回の役。バイツとなった桜子がハマっていた。怖いだけではなく、時に子供のようにもなり、相手によっては素直になる・・そんな役。
作中では終始、その力を振るう女帝のような振舞いであったが、それも山來さんの目力があってこそ。前述したことを色々考察すると、桜子は破壊神のような扱いではあった。破壊は、本来、彼岸子が望んでいたものではない。ただ、面白可笑しく生きるためには、それも仕方がないという想いもこの作品では見て取れた。その負の部分のみを背負ってしまったのが桜子だった。彼岸子の代わりとされるのを嫌がり、彼岸子に託された夢の実現をただ遂行するのも本能では嫌がっている。そんな複雑な感情が、桜子の表情から見て取れた。
合鍵と言われた時、あのシーンで自分の存在意義を否定されたと感じた時の表情は、いまだに印象に残っている。
そんな今回も怖いイメージだったが、観劇前に「会いに行きます」とリプも入れたことだしと、決意を固めて特典会で初挨拶へ。
話してみたら、そのマスクの下の笑顔が見えるような優しい目で、話し方も役とは全く違う。むしろ、バイツになる前の桜子じゃないかと思うほど。分かりやすいようにと、会った
らSNSもフォローしようと思っていたら、3年近くが経過してしまった。改めて、これからも楽しみな役者さんだと思った。

そしてその山來さんを2019年に知ったキッカケを作ってくれたのが、ハンナを演じた大野愛さんだった。今回、アリスインプロジェクト作品は、「ダンスライン!」に続いて、2作品目。今回は細川さんの作品、それもドナーということで嬉しかった。
細川さんの作品は、これまでも色々観てきたけれど、大野さんが出てくれないかなと思ったことがあった。大野さんの声も細川さんの作品のキャラクターに合いそうと思ったこともあった。なにより、一つ一つ、丁寧な演技を心がけているので、セリフがなくても動きが派手でもしっかりと創り上げる。今回は観る機会なかったが、即興劇にも多く出ているのでアドリブ力もある。
今回演じたハンナは、相棒のエレノアとほぼ同じような役柄・・と思いきや、後半に特殊な力を見せる。この少し秘密めいた力は、最後まで明かされる事がなかったが、これを考えると、もし次回作があったら、ハンナだけ復活するのではないかと思ってしまう。ハンナだけ特別な力を与えられたとしたら、それも神となるはずだったウルスラから力を与えられたとしたら・・・。
大野さんの意外なところは、その見た目による可愛い役よりも、少し謎があったり、妖艶な役の方がその魅力が増すこと。これはなかなか観ないと分からないけど、演じさせたら印象に残る。今回隠されたままのハンナの能力が解明される日は来るのだろうか。

そういえば、榊が自分の念を飛ばして「幽霊なようなもの」という表現をしていた事に関しても、前に聞いたことがある幽子というもので納得がいった。
聖域は現代とは違う次元に存在している。でも幽子という存在になれば、過去にも未来にも行ける。時間軸を無視して飛べる。そしてそれは、時に人の姿をして現れることもできるという説があった。そこからも、榊が幽子であれば聖域が現代と違う次元にあるということも納得の材料になった。

最後に、もう一つ。
聖書の終わりの一節に、最終戦争(神と悪魔との闘い)の後、神が勝利を収め、その後、至福の千年王国が築かれるというものがあるとのこと。
千年王国。まさに彼岸子が目指していたものと合致する。
もしこの一節と符合させるとしたら、一体、どちらが神でどちらが悪魔なのだろう。人間視点からすれば、悪魔はバイツになるが、魔銃ドナーの世界では神はバイツで穢れた血を持つのは人間。
彼岸子は今回、闘いに敗れたような最後で終わった。彼岸子は世界を、宇宙を、全てを壊すものとして同じバイツである聖域の者たちからも狙われたことになる。バイツと手を組むなどと言っていた人間たちも、結果的には手を組んだことになる。
そもそも、七原茜は、彼岸子の予備の身体としてセイラが用意したものということだった。そして彼岸子自身は、眠りについていたはず。その本来の肉体がどこかにあるとしたら・・最終戦争があるのではないかと感じる。
前回のパンフレットを見たら、その前の魔銃ドナーは三部作構成を考えていたと‥。なら、今回の真約からの流れも、最終戦争が期待される。それは、ずっと先の世界かもしれない。ウルスラが目覚める頃、ハイネが目覚める頃、ハンナも目覚めて・・名前似ているけど、実は関係してたりして・・なんて、書いてて思うほど、楽しみはつきない。
今回の主題歌も音源が欲しかったし、やっぱりあの曲を聞くとテンションが上がる。未だに聞いているけど、まったく飽きない。そのくらい好きな作品。
とりあえず、ニコニコ動画でまた前作を観て、DVD届いたらそれも観て、次に期待したい。特典会出てたら物販閉まってしまい、最後に車山神社とのコラボ写真が買えなかったことだけが心残り。主題歌音源と合わせて、通販してくれたら絶対買うんだけど。今更ながら、チェキも他にも何人か欲しくなってきたし。でも、作品は本当に大満足で、大変充実した時間になりました。

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