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星の輝き

家の外から怒号が聞こえる。
夜の11時。
少し前にサイレンを鳴らしながらやって来たパトカーがあったな、とベランダに続く窓から外を見るとオレンジのシャツを着た男性が一人、制服の警察官が二人見える。

オレンジシャツの男性はうちのベランダから斜め下に見える居酒屋ともスナックともつかない赤い提灯がかかる飲み屋から連れ出されて来たようだ。
「俺は間違っていない」
「近所のみなさんは被害届を出して下さい」
と元気に謎の言葉を叫ぶオレンジさんに警察官たちは
「そんなに大声をださないで」
など語りかけている。

「これは、これは」
と思いながらそれまで見ていたNetflixの番組を中断し、同じくそれまで飲んでいたお酒を片手にベランダの窓を開け寒さが和らいだ夜をいいことに窓枠に腰掛けながら騒動を眺めることにした。

大声なのとうちが2階なのとで会話にもなっていない話の内容は十分聞き取れるのだが、オレンジさんはとても酔っているのか同じセリフばかりを繰り返し変化がない。十分じゅっぷんもしないうちに飽きてきて、警察官とは大変なお仕事だな、と室内へ戻ろうとしたら
「誘導だ、誘導だ」
と新しいセリフとともにオレンジさんがちょっとずつ横移動を始めるという新たな展開が見えはじめたので
「これは、これは」
と再び眺めることにした。

だけどやはりそこから
「誘導だ、誘導だ」
の繰り返しになり、和らいだとはいえ長時間の外気はやはり寒いし何より手に持ったお酒をもう飲み干してしまったのでよし戻ろうと立ち上がり、ふと夜空をみた。

今の今まで気づかなかったが星がでていて、キッラキラに輝いていた。
オリオン座だろうか。
そのままつかめば放射状に伸びたその光の線が指に刺さりそうだし、掴むことに成功して胸に飾れば世界で一番のブローチに出来そうだ。


実家にある私のベット脇の窓からは田舎なものでたくさんの星が見え、横になりながら見上げる空には極稀に流れ星さえ見えた。
嫌なことがあった日やつらい時期には星に目をやりながらどこかにいるであろう宇宙人に
「迎えに来てください」
と願った。
昨日も今日もずっとまだ来てくれないのは、何億光年むこうにいる宇宙人が私の願いをキャッチして地球にやってくるまで少し時間がかかっているからだ、と思いながら過ごした。

過ごしているうちにつらい時期は埋まっていって願っていたことも忘れていた。


久し振りに星をじっくり見たな

そんなことを思い室内へ戻りNetflixの続きを見ながら新しいお酒をグラスに注いだ。

外ではそれからもしばらく怒号が聞こえていたが、一時間ほどしたら来たときと同じようにサイレンを鳴らしならパトカーは去って行った。
静かになったのはオレンジさんも連れて行かれたからかもしれない。

夫も子どもたちももう眠っている。

あの頃の願いが何億光年の向こうに今届いて私を連れて行くものがあったなら、
今の私は行くのだろうか。

そんなことをあの日から時々考えている。


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