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#ミステリー小説が好き

ミステリー
1.神秘。ふしぎ。怪奇。
2.推理小説。怪奇小説

三省堂 現代新国語辞典 第六版より

なるほど。
意味するものは広い。

津原泰水(つはら やすみ)
「蘆屋家の崩壊」(あしやけのほうかい)

表題を含む8編からなる短編集である。
エドガー・アラン・ポーによる「アッシャー家の崩壊」を彷彿とさせる題名であり、内容もそれを漂わす箇所はあるが、内容はじとりと和風。
なんと洒落た命名であろうか。
もちろんポーを知らなくても楽しめる。

物語は三十路を過ぎても定職を持たない語り手「猿渡」と長身で黒ずくめの服装、局地的な知名度を持つオカルト作家「伯爵」この男達が遭遇する、時に怪奇とも呼べる事件を記したものである。

反曲隧道(かえりみすいどう)
蘆屋家の崩壊(あしやけのほうかい)
猫背の女
カルキノス
超鼠記(ちょうそき)
ケルベロス
埋葬虫
水牛群

幽明志怪  蘆屋家の崩壊 目次より

なんということでしょう。
その題名を正しく読むことさえ難しい。
しかし、その語りは飄々と、そしてテンポ良く時にユーモラスに進められる。
「何か」が起こるまでに交わされる2人の博識すぎる会話はその後の展開を暗示するものでもあるし、読んでいると自分の無知さを恥じ入りそうにもなるが、その内容といえば、人魚の肉を食べたという八百比丘尼はっぴゃくびくに、神話、古事記の息長帯比売命おきながたらしひめのみこと、美味しい豆腐の話なので、そう反省もいらないのかも知れない。

猿渡、伯爵2人の共通点は無類の豆腐好きであること。
美味しい豆腐があると聞けば旅にまで出る。
するとこちらまで食べてみたくなる。
津原泰水の書く小説は食べ物の描写も素晴らしいのだ。

おさめられた物語はミステリー、ホラー、民俗などを華麗に行き来しひとつのジャンルに縛ることなどできない。共通して言えることは、話の仕舞い方がどれもほんとうに素晴らしいということ。
時に猿渡の見た幻想かと思うような内容でも夢幻に逃げない。


「津原泰水」は以前「津原やすみ」名義で書いており、当時はいわゆる少女向けのレーベルから作品を出していたので時に推理ものもあったが、やはり恋愛ものが多かった。
ひらがな名義でのデビュー作は「星からきたボーイフレンド」である。

それから10年ほどして大学の図書館で見かけた「津原泰水」の名。
もしやと思い手に取るとやはりかつての「津原やすみ」氏で、作品名は「ペニス」。

同じクラス、気になってたアイツ。バスケはとっくにやめたって聞いてるけど今は何してんだろ。
と十数年ぶりの同窓会で出会ったら古田新太になっていたようなものだ。

人混みに流され過ぎたのか、

だけど私は叱りはしない。
古田新太もまたタイプなのだ。

それが津原やすみ、もとい津原泰水との再会であった。

好きな作家は余さず読みたい。
推理小説、SF、料理店、人形屋、ブラスバンド等々…その題材は振り幅が大きく、どれだけ読んだとて分かり切ることなど出来る気がせず「なんだったんだ…」と呆然と読み終えた物も多い。

そんな中で「蘆屋家~」は津原泰水の不思議さと読み易さが丁度良くブレンドされている小説の一つであるように思う。
猿渡と伯爵が出てくる物語はその後「ピカルディの薔薇」「猫ノ眼時計」に続く。

秋など待たずに読書の時間を楽しんでみて欲しい。




気に掛けてもらって、ありがとうございます。 たぶん、面白そうな本か美味しいお酒になります。