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他人に本を貸しましょう〜私では辿り着けないレシピ〜

私は断然ホームズ派。
なにがと言われたらジャンル説明に困るがルパンやポアロ、金田一や右京さん界隈の話である。

小学生の頃、図書室でシャーロック・ホームズを読んだあの日、その風貌(描写と挿絵による)、クールな性格、推理力に胸撃ち抜かれ恋をした。
まだその言葉はなかったが、彼が私の最初の『推し』であることは間違いない。

集団下校中、友と一言も喋らず
「この折られた木の枝…折れ目が荒い。
ということは道具を使わず素手で…」
「私では背が届かない位置」
「犯人は幼稚な行動からこども、背の高さから男子だ!」
などと頭空っぽなことをホームズになりきって忙しく考えていた。

中高生になると表紙が好みの新潮文庫に狙いを定めシリーズをこつこつ揃え、ますますホームズを楽しんだ。

一番好きな話は『瀕死の探偵』で「何て事件だ」と混乱したのは『ライオンのたてがみ』。
誰かとホームズを語らいたいというのが当時の私の夢である。

なもので、ホームズと名が付けばドラマや映画などチェックをしたが本だけはコナン・ドイルが書いたものしか読もうとしなかった。
小学生の頃『ルパンVSホームズ』に手を出して「これは違う」となってしまってから私が読みたいのはドイルの書くクールで斜に構えた彼なのだと知ったからだ。

ところが今年に入り
『シャーロック・ホームズ家の料理読本』
という書籍が再販されるという情報を目にした。
「書泉と、10冊」という企画の第7弾とある。

「書泉と、10冊」。この企画は、過去に出版された書籍で既に在庫がなく手に入りにくい名作を、株式会社書泉と出版社のみなさま、著者のみなさまに協力いただき重版・復刊してお届けしていくものです。

24.3.1PRTIMESより

今まで全然知らなかったけど、そんな素敵な企画があったとは。

昨今、さまざまなネットサービスで過去に出版され、探しても見つからない数々の本が法外な値段で取引されています。「欲しい人が払える分の値段を払う」ということは一見、今の世の中の「当たり前」に見えますが、私たちは「そうではない」と考えます。
ファンの方が熱望するあの名作、私たちも是非お勧めしたいあの名著を「適切な価格」でお届けすることに私たちは挑戦していきます。

24.1.5PRTIMESより


料理本なのにホームズ。
書き手はかつてホームズにごはんを作っていたハドソンさんで事件ではなくホームズが食べていた食事のレシピを綴っている、という設定らしい。
「読んでみようか」
1月6日、ホームズの誕生に予約が開始されると早速申込みをしてやってくるその日を待ちに待って3月に入りようやくこの手にした。

そして読むのにとても時間がかかった。

なぜならこの料理本、写真はもちろん挿絵すらなく文字だけでレシピの説明をしていこう、って腹で完成しても尚その図すらない。
馴染みのない材料が馴染みのない方法で調理される様子を想像しながら読み進める。

例えば『臓物料理』の章の『うまパンのクリーム煮』の材料はまず「大きな喉のうまパン」。
うまパン…
動物の(特に仔牛・仔羊)のすい臓(腹のうまパン)または胸腺(喉のうまパン)。
これを小麦粉とまぜたりペーストにしたり鍋に入れたり一晩寝かせたらスライスできる物になるって、どうして?
他にも『ラムの脳味噌のすましバター漬け』とか『ビーフ・ティー』などなど私の見てきたことや聞いたこといままで覚えた全部を動員しても想像した完成品が正解かどうかわからないものが多数出てくる。
想像の完成品がでたらめかもしれないが、そうかどうかも確かめられない。

イギリス料理、しかも当時のもの、となればいくら物を知らぬ私でも
「家庭で再現できないかもしれない」
という予想はしていたので予約は本だけでなく有償特典の再現レトルト食品付きの方を選んで購入していた。

それがこれ
ワトスンを見るハドソン婦人の目がたまらない

マリガトーニースープ。
書内に登場し、もちろんレシピもあるのだがまず必要なものが「羊の首肉」とあるので、もう私の家で作れる気がしない。
なので一緒にやってきてくれたレトルトを食べることにする。

マトン肉がゴロッ、カレー風味

マリガトーニーが開けてみるまでどんなものか全くわからない代物なので器は無難に白を用意。
書内で「調理された米と食べる」とあったので白米よりもなんとなく雰囲気出そうな“30穀米”を入れて炊いた茶色の米を左に用意しお昼ご飯に。

美味しい。

カレーというにはサラリとした、かと言ってスープというにはややとろみのある何かにゴロッとマトン肉が2、3個ほど。
私は好きだな、ワトスン君、美味しいよ!

と一人盛り上がりながら食事を終えた。



そして多分、これがこの本のレシピから私が味を知る事が出来たただ一つの料理になると思う。
この本のレシピ、材料から工程から読むほどやれる気がしない。そして作ったとて、家族が美味しく食べてくれるか疑問なのだ。
労力と成果が見合う気がしない。

私が唯一作ったのは料理ではなく
『お飲みもの』の章の『王者の一杯』
ゴブレットに大匙2杯の上等(家にそんなに上等なものはないけど)なブランデーを入れ、よく冷やしたシャンペンを注ぎ入れる。
これをすすれば緊張の極に達した神経もたちまち鎮めることができるらしい。
ヤバめの発想のような気もするが、まぁ良い素晴らしい。


食事とは最高のプライバシー。
なのに推しのそれを知れるとはなんという贅沢。
食べてみる事ができるのであれば尚良い。
他人に本を貸すのは好きではないが、仕方ない。料理好きな誰かが作ってくれるというのならまずは私の本をお貸しするので是非。

ちょっとずつ読み進め想像を巡らし、作れるかどうか楽しく悩み、時折語られるホームズとワトスンとの思い出に「あの事件のことかしら?」とにやりとしたり。

久し振りにホームズに会った気がした。そういえばホームズの本は実家に置いてきたのでずいぶん読み返していない。
次の帰省時には久し振りに読み返そう。
彼への思いが蘇りレシピを再現する情熱が出てくるかもしれない。

帰省、それはまだ先のこと。
何の緊張もしていないけど、とりあえず今夜は乾杯。

おつまみの焼いたししゃもと合いました

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