(五十四)落語『狂歌合せ』の狂歌を味わう

落語に『狂歌合せ』という演目がある。太閤秀吉が諸侯などを集めて「大きな狂歌」を作らせて競わせ、最も大きな法螺を狂歌にした者に、差料として、太閤が差している刀を与えるという趣向である。
 参加者は片桐且元、福島正則、加藤清正、曽呂利新左衛門、そして細川幽斎である。片桐且元、加藤清正は秀吉の直参家臣で、福島正則は秀吉の伯母の子、曽呂利新左衛門は狂歌を良くする寵臣、細川幽斎は剃髪後、秀吉側に付いた当時きっての才人である。つまり、四人共、秀吉の側近である。
 順に作り、後の方がより大きな狂歌となっている。それらを順に並べた。
  且元:武蔵野の原一ぱいの梅が枝に
       天地に響く鶯の声
  正則:富士山を枕のなして寝た人の
       足の辺りは浪花にぞあり
  清正:須弥山に腰打ち掛けて青空を
       笠にきれども耳出でにけり
  新左:天と地を団子に丸めて手に載せて
       グッと呑めども咽喉に障らず
  幽斎:天と地を団子に丸めて吞む人を
       くさみの風で吹き飛ばしけり

太閤殿下は幽斎に差料を与えた。ここから先、落語の口上に従えば
「殿下は新左衛門が口惜(くやし)いと思っていると、殿下は御覧遊ばし て、そこはお悧巧でございますから、これが遺恨にでもなってはならないと思召して」、

今度は小さい狂歌を出させる趣向を催した。そして、褒美は太閤殿下の印籠である。
 指名された新左衛門は次の狂歌を作り、それに対して幽斎も歌を差し出した。
  新左:粟粒の中くりぬいて家を建て
       間毎(まごと)々々に手習いをさす
細川:蚊の溢(こぼ)す涙の海の浮島に
     砂子捨てて千々砕くなり

これも、幽斎が勝ちになり、印籠を手にした。ここで、更に大きな狂歌で、幽斎と新左衛門が再度勝負する。
  幽斎:山根附け海の巾着川の紐
       緒〆めは三五十五夜の月
  新左:百万の来たるとも驚かず
       小指の先で弾ね羽飛ばしけり

新左衛門は分が悪いとみて、狂歌合わせを挑んできた。
  新左:火事が凍りて冷たかりけり
を提示。これに幽斎が応じる。
  幽斎:焼酎の武者絵が寒の水に入り
       火事が凍りて冷たかりけり

又、新左衛門は「 毛のあるないを探りつつあり」の上の句の附け合いを提案。幽斎が応じる。
  幽斎:山寺の和尚頭を剃りながら
       毛のあるないを探りつつあり

そこで、新左衛門は、更に「丸く四角で長し短し」を下の句にして上の句をつける附け合いを提案した。
  新左:丸く四角で長し短し
  幽斎:大小の鍔に四つ目の紋所
       丸く四角で長し短し

すると、今度は幽斎が同じことを新左衛門に要求した。
  幽斎:丸く四角で長し短し
  新左:丸盆に豆腐をのせて行く跛足
       丸く四角で長し短し

この狂歌も幽斎が一枚上で勝ちであろう。この落語では、新左衛門は歌の道で有名な幽斎にはどうしても勝てないという設定になっている。とても、面白い落語であり、太閤秀吉の新左衛門に対する配慮も理解出来る。落語『狂歌合せ』については、次の文献に収録されている。
口演速記 明治大正落語集成 第六巻 狂歌合せ(柳亭左樂 口演、今村次郎 速記)講談社、1980年

さて、当方も大きな狂歌と歌合せを作ってみた。ご鑑賞あれ。
大きなことを言う狂歌
   日月を腰に吊るして一休み
     足を伸ばせば宇外にぞ出ず

 「丸く四角で長し短し」を下の句にして
   空に虹川に大橋掛けにけり
     丸く四角で長し短し


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