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君を忘れない。

お気に入りメゾンに勤めるスタッフさんから、退職のご挨拶のお葉書が届いていた。

先日、口頭で
「母校の専門学校で教諭として働くんです」
って聞いたばかりだけれど、
改めて寂しくなってしまった。

先週末、そのメゾンの近くに用があったので、
立ち寄ったとき、

「昨日お葉書を投函したんですけど、
かぐやさん宛てのお葉書を最初に書きました」

と元気よく言われて、その時は

(イベントか何かのお葉書かな?)

なんて思っていたのだけれど、

退職のご挨拶を最初に書いてくださったなんて。

お葉書の文末に

「またお会いできると嬉しいです」

って書いてあったのも、

「じゃあ、退職したら、お祝いにお茶しましょう★」

って言葉に頷いてくれたのが嘘じゃなかったとわかって、嬉しい。

彼女とは実は、オペラシティアートギャラリーで偶然会ったことがあり、
お茶をするのは初めてではないのだけれど。


彼女が秋から住む街を、わたしは訪れたことがない。

昔旅したときに
新幹線を乗り換えただけの街。

映画でしか観たことがない場所。


今日もそのメゾンに立ち寄った。

イベントをやっていたので気になったのだ。

すごく混んでいる店内で、
今月で辞めてしまうその彼女を捕まえて
「このお菓子、どれがおいしいですか?」
と、お行儀良く並んでいるかわいいお菓子たちを指差して訊くと、

「わたしはこの、猫とお花のクッキーが好きです!」
と元気よく返ってきたので、それを二つ買った。

帰りがけ、見送ってくれた彼女に
「はい、これは●●さんの分ね」
と、お手紙と一緒にひとつ渡したらひどく驚いて、

「えっ、どうして」

と云うので、

「だって、スタッフさんだと買えないでしょう。
お客様優先だから。
だからどうぞ?」

と、笑顔で返した。

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彼女は、ちょっと待っててくださいね、と一旦奥に引っ込んで、
『ほんのお気持ちです』
と書いてある、かわいいイラストで有名な、カレルチャペックの紅茶をわたしにくれた。


キャラメルフレーバーの、おいしそうな紅茶。
かわいらしい彼女のようなパッケージ。

もしかして貰うかもしれない贈り物のお返しを
しっかり者の彼女はちゃんと準備していたのだろう。



きょう彼女に接客をしてもらったとき
初対面の、名前も知らないお客様と二人で、

「●●さんの退職日を手帳に書き込みましたから!」

「午後休、取りましたから!」

なんて、笑いながらかけあいをして、

わたしは、その名前も知らないお客様に、
「じゃあ、25日にまた逢いましょうね!」
なんて云われて、

みんなでうふふと笑って、
なんだかしあわせな気持ちになった。

プライベートでも、仕事でも
色々あっても
しあわせな気持ちになった。

彼女はというと、ちょっと泣いていた。

みんなでそれをにこにこと見守って、
守れるかちょっとわからないゆるい約束を、
ふっと生まれた混まない時間に交わして

なんだか、「人生っていいな」と思えた。

いままで、何年も何年も、
気持ちよく接客してくれた彼女が
遠く離れた見知らぬ街に引っ越してしまうことは
みんなが胸に持っていた、彼女への愛を
表現する素敵な機会になったのだ。

その場に居合わせて、
彼女にお手紙とささやかなプレゼントを渡せたこと、
わたしもとても嬉しかった。

何年か前、短い期間だったけれど、それまで縁がなかった地方都市に暮らしたことがある。

会社が用意してくれたアパートメントを仮住まいに、
東京のアパートメントはそのままにして、
ぬいぐるみとかお洋服だとか、大事なものを少しだけ持って、わたしはその見知らぬ街に数ヶ月だけ住んでいた。

そこは運良く、お気に入りのメゾンがある地方都市だった。

インスタグラムで新作を見るたびに、百貨店の中にあるそのメゾンに立ち寄った。

ありがたいことに仕事の悩みはそのメゾンのスタッフさんが聞いてくれて、
その都市のことも、そのスタッフさんたちが教えてくれた。

その街を旅立つ土曜日の朝、起きるとポストにハガキが届いていた。

すべてのお知らせをわたしは東京に届くようにしていたのだけれど、何かのきっかけで書いた仮住まいのアパートメントの住所に、そのメゾンのスタッフさんからお別れのご挨拶のお葉書が届いていたのだ。

びっくりしたし、嬉しかった。

けれどそれよりも
急に寂しさに襲われて、わたしの目からは涙がぽろぽろとこぼれた。

最後に逢ったとき、みんなで並んでにこにこと笑顔で見送ってくれてありがとう。

けっこうしんどかった地方都市での生活を、肯定してもらった気持ちになった。

温かい手書きのメッセージと、かわいいお花のイラスト。

そして何よりも、その気持ちを、本当にどうもありがとう。


よろこびも、
かなしみも、
遠くから見ると、きっといろとりどりのグラデーションになる。

きれいな虹みたいに青空にふわっと架かって
「バイバーイ」
って笑顔で手を振るように、
別れも、出逢いも、
いろんなことを愛おしく思えたらいいな。



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