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未亡人の詩

水面(みなも)を伝う哀しい波紋
また幾千もの人の縁が断ち切られていく
卑怯な私は
耳障(ざわ)りなニュースの聴こえない
深い水底で息を止めた
Asphyxia(アスフィクシア=仮死)
神様お願い
滞って淀んだ時間に浸っていさせて
地上から四つの季節が失われるまで

「自分には何も無い」
可哀相な呪文を唱える人たち
世界中の悲劇を知らずにいても
みんなの幸せの量は変わらない
仄かに蜜の味のする逆さまの実感に
胸を撫でられれば満足?
私はお断り

あの灯台が照らしてくれるのは
安らぎと平凡の方法だけ
そこから遊離して遠くへ行ってしまった
貴方(あなた)のもとへは導いてくれない
波打つ“会いたい”の情動を抑えないと
この想いごとこの今すらも
喪(うしな)ってしまう
地平線の彼方へ漂流してしまう

Firmament(ファーマメント=大空)
願いの雫が滴(したた)り
私の足もとに汀(みぎわ)が迫る
船着きの桟橋に佇む貴方は優しく微笑む
駆けだした人形
私の姿をした泣き顔の誰かさん
きっとここに在るすべては
蝶の羽ばたきひとつで崩れて塵となる
そんなにもふたりの世界は脆かったの
たとえすべてが胡蝶(こちょう)の
夢だとしても
私という人形に宿った想いは現実

失くした私を取り戻す
そばに貴方が居なくても
帰る場所ならあるから
想い出を束ねたロープ
沖へ流されぬようにときつくきつく結んで
もしも貴方の欠片(かけら)が
浜に流れ着いているのなら
砂粒をさらに砕いていってでも
捜しだしてあげる

別れ話にはいつだって続きがある
Voyage(ボヤージュ=船旅)
残された腹を抱いて頬に潮風を感じる
神様お願い
私たちの物語を終わらせないで

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