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【漢詩和訳】シリーズ

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李琴峰が好きな漢詩を現代日本語の散文に訳し、短い文章を添えるシリーズです。
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二十年ぶりの再会

 こんにちは、李琴峰です。  緊急事態宣言解除、県をまたぐ移動解禁、いよいよ日常が戻ってきている感じですが、満員電車もまた現れたと仄聞します。  私はといえば、最近は仕事の依頼が少ないので、本を読んだり映画を観たり、たまに小旅行に出たりといった生活を送っています。7月に新刊小説『星月夜(ほしつきよる)』が発売されますので、その校正作業もやりつつ。  久しぶりにまた「漢詩和訳」のエッセイを書いてみようと思います。1回目の「月に問う」も、2回目の「世界の終わりまで愛してあげよ

世界の終わりまで愛してあげよう

 最近はいやなことが続きますね。  ただでさえコロナ禍でイライラしているのに、政府が国民の批判を無視して法案を強行突破しようとしているとか、傑作小説を書いているのに文学賞の候補に挙がらなかったとか、腹が立つことが多いです。  そんな時こそ、美しい物事に癒されたいものです。  前回の「月に問う」に続き、今回で紹介する漢詩は、中国語圏でめっちゃくちゃ有名な恋の詩です。たくさんの恋愛小説が引用しているせいで、もはや知らない人の方が少ないのではないでしょうか。何を隠そう、私は小学

月に問う

 昔はかなり中国の古典文学を読み耽っていた。中学生の頃から中国文学専攻を志望していたくらいだ。  日本に来て、日本語で創作し始めたこともあり、中国古典文学から少し離れていったが、最近、とある台湾の女性エッセイストのエッセイを読んでいて、中国古典文学ってやはり美しいなと改めて噛み締めた。  小説の中でちょくちょく中国の古典的な詩文を引用するのが、私がこれまで書いてきた小説の特徴の一つと言えるだろう。『五つ数えれば三日月が』なんかには、自作の七言律詩をぶち込んだくらいである。こ