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李琴峰の2021年振り返りと展望

 早いもので、2021年が終わりを迎えようとしている。

 2020年2月、コロナ禍が始まったばかりの時、まさかこれほど長続きすることになるとは誰も思っていなかったに違いない。あっという間に2年間が経とうとしている今も、疫病の終息の兆しが見えない。

 「緊急事態宣言中の日数」が「緊急事態宣言が出されていない日数」よりも多い(東京都の場合)2021年、ありがたいことに李琴峰は大きな躍進を遂げた。

 まずは2月、昨年刊行した連作短編集『ポラリスが降り注ぐ夜』が、第71回芸術選奨文部科学大臣新人賞文学部門を受賞した
 『ポラリスが降り注ぐ夜』は2020年2月末に上梓した。ちょうど新型コロナウイルスが日本で猛威を振るい始め、「ダイヤモンドプリンセス号」への政府の対応が批判を浴び、最初の「イベント自粛令」が出され、「一斉休校措置」が突如取られた時期だった。そして1回目の緊急事態宣言――もし皆さんがまだ覚えているならば、後のゆるゆるの緊急事態宣言とは違い、1回目はガチだった――が出され、人出がめっきり減り、書店を含む大型商業施設が軒並み営業中止した。『ポラリスが降り注ぐ夜』のPR黄金期はそんな時期ともろにかぶり、書店回りも刊行記念イベントもできず、恐らく書店の新刊棚に載ることなく新刊じゃなくなってしまった。そんな不運な船出を強いられた『ポラリスが降り注ぐ夜』が他でもない日本政府の賞を頂いたことで、ようやく報いられた気持ちになれた。ちなみに、今でも『ポラリスが降り注ぐ夜』は私の中では初期の代表作No.1である。

 そして7月、新作小説『彼岸花が咲く島』が第165回芥川龍之介賞を受賞した。
 芥川賞にノミネートされたのは2回目だった。1回目は2019年、『五つ数えれば三日月が』が第161回芥川賞候補になった時だが、あの回の候補に上がった面々(今村夏子さん、古川真人さん、高山羽根子さんほか)を見ると、李琴峰が受賞する確率が千に一つもないことが明らかだった。実際、選考会の当日の午後は一応「待ち会」をやったが、その夜に他のイベントの予定を入れていた(@新宿二丁目)。帝国ホテルに駆けつける必要は恐らくないだろうと踏んでいたのだ。
 今年は帝国ホテルに駆けつけることになった。コロナ禍の関係で「待ち会」は飲食店ではなく版元の小さな会議室で行い、私を含めて3人しかいなかった。待ち疲れて、会議室を出てトイレに入った瞬間、電話がかかってきた――その後の展開はご存知の通りだった。

 作家にとって最も大事なのは賞ではなく、作品を世に送り出すことだ。しかし残念ながら、送り出された作品が読者に届くためには、賞の力を借りなければならない。そういう残酷な現実が、どうやら私のような現代の(特に純文学分野の)作家が向き合わざるを得ない大きな壁の一つのようだ。色々な意味で節目となった2021年、改めてそんな事実を噛み締めることになった。

 以下、2021年の振り返りと2022年の展望(予定)まとめてみる。
 これはまだ読んでいない! と気付いた方は、是非年末年始で読んでみてはいかがでしょうか。

 仕事関係の皆さま、2021年お世話になりました。
 2022年も、引き続き宜しくお願い致します。

【小説】

彼岸花が咲く島』(『文學界』2021年3月号初出、2021年6月に文藝春秋より刊行)
観音様の環」(電子書籍限定、U-NEXTより刊行、Kindleなどでも購入可)
生を祝う』(『小説トリッパー』秋号初出、2021年12月に朝日新聞出版より刊行)

【エッセイ・書評・評論など】

始まりの場所――下関紀行」(ニッポンドットコム)
男女のまなざしを逆転」(李昂『眠れる美男』書評、共同通信)
ミーハー的百人一首の旅:ゆかりの地を巡る」(ニッポンドットコム)
「最後の海外旅行」(『小説トリッパー』2021年春号)
精一杯の秘境・祖谷——初めての四国・その一」(ニッポンドットコム)
百花繚乱の中国語世界への誘い」(新井一二三『中国語は楽しい』書評、『ちくま』2021年5月号)
神々の島・小豆島――初めての四国・その二」(ニッポンドットコム)
香川の空と海――初めての四国・その三」(ニッポンドットコム)
「「多様性」にまつわる重層的な声」(朝井リョウ『正欲』書評、『小説トリッパー』2021年夏号)
受賞翌日 予兆もなく崩壊」(芥川賞受賞記念エッセイ、朝日新聞)
「心の故郷、新宿で祈願」(芥川賞受賞記念エッセイ、共同通信)
十年間、日本語に恋して」(芥川賞受賞記念エッセイ、産経新聞)
アニメから漢詩、筆名に」(芥川賞受賞記念エッセイ、毎日新聞)
「十年一たび覚む 文学の夢」(芥川賞受賞記念エッセイ、『文學界』2021年9月号)
「フィクションの力」(芥川賞受賞記念エッセイ、中日新聞)
道徳な世界の道徳ならざる光」(映画『片袖の魚』評)
「星明かりの映画祭」(『ユリイカ』2021年8月号)
荒れ野に咲く栄華の旧夢――平城京と長安城」(ニッポンドットコム)
「ロクな恋」(『すばる』2021年10月号)
生き延びるための奇跡」(芥川賞贈呈式スピーチ)
「珍しい日本の「一党優位」」(朝日新聞)
「思い出し反日笑い」(『文學界』2022年1月)
「李琴峰が読む『紅楼夢』(前編)」(ニッポンドットコム)
「李琴峰が読む『紅楼夢』(後編)」(ニッポンドットコム)
「筆を執ること四春秋――振り返りと展望」(『S-Fマガジン』2022年2月号)

【記事化されている対談】

石沢麻衣さん、岩川ありささん、温又柔さん、宮城みちさんと対談させていただきました。

【2022年に出る予定のもの】

・短編小説一本
・李琴峰の初エッセイ集
・『ポラリスが降り注ぐ夜』中国語版
・『独り舞』英語版
・李屏瑤著・李琴峰訳『向光植物』日本語版

【2022年に出るといいな、のもの】

・『独り舞』文庫版
・『ポラリスが降り注ぐ夜』文庫版
・『彼岸花が咲く島』中国語版
・その他もろもろ

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