ロック 所有の哲学 を考察する


まず認識論(epistemology)

ロックは、冬のある日、五六人の友人たちと、道徳と宗教の問題について話し合ったが、多くの難問が出てきて、途方にくれるという経験をした。これによって、こうした問題を扱う前に、自分たち自身の能力を調べ、そもそも我々の知性が、どういう対象を取り扱うのに適し、どういう対象には適さないかを調べる必要がある、ということに気づいた、と言う。(これは、『人間知性論 (An Essay concerning Human Understanding)』(1690)の序文に述べられている。)
ロックは、これを知性(understanding)の対象である観念(idea)の分析という方法で行なおうとした。(「観念(ideas)」とは、この場合、最も広い意味で、心的表象一般を意味する。)

タブラ・ラサ(tabula rasa)
「心は、いわば、文字を全く欠いた白紙であって、観念を少しも持たないと想定しよう。心はどのようにして、かくも多くの観念を手に入れるのだろうか。…これに対して私は、一言で、経験から(From experience)、と答える。この経験に、我々の一切の知識は基礎を持ち、究極的には、この経験に我々の一切の知識は由来する。」


Let us then suppose the mind to be, as we say, white paper, void of all characters, without any ideas ; Whence comes it by that vast store? …To this I answer, in one word, From experience : in that all our knowledge is founded, and from that it ultimately derives itself

五感で得られるものが印象、その場限りの印象が定着することが観念。
たとえば「白」「甘い」「ざらざら」などは単純観念
これらが集まり「砂糖」となると複合観念になる。

「これは甘い」の「これ」は実体だがこれを経験することはない。ロックは実体は「不可解なもの」と規定。
さらに、モノの客観的性質(個体性や運動)が第一性質、色、味、手触りなどが第2性質とした。


次に政治哲学

アメリカ独立宣言に大きな影響
  「アメリカ国民には、生命、自由、幸福の追求に対する
   不可譲の権利がある」(独立宣言より)

人はすべて所有権を持っている。
使用権、占有権、可処分権の3つが「自然権」である。
そしてこの自然権を侵害できないことは、理性の法「自然法」で各自がわきまえている。

自然状態
 1.政府や法律がまだない状態(≠無法)←自然法の制約
 2.人間は自由で平等な存在

自然法に制約される行動
 1.自然権を自ら手放すこと
 2.他人の自然権を奪うこと

ロックの考え方

人は神の所有物なので、自己決定権は制約される。
「人間はすべて、唯一神、全知全能なる創造主の作品であり、
 彼の所有物であって、他の誰のためでもなく、
 彼が喜ぶ限りにおいて生存するように作られている」
  →リバタリアニズムの「自己所有の原則」を否定

自然権は不可譲である。
「自然状態には、それを統治する自然法があり、何人もそれに
 従わなければならない。その法である理性は、人類に、
 すべての人は平等で独立しており、他人の生命、健康、自由
 または財産を害するべきではないと教えている」
  →自然法=人間の理性の産物
   ロックの議論は実質的に無神論者にも適用される

労働が財産権を基礎付ける。
「人は誰でも自らの一身に対する所有権を持っている。
 これについては彼以外の何者も権利を有しない。
 彼の身体による労働、手による仕事は、彼のものだ」
「自然が備えておいた状態から取り出すものは何でも、
 自分の労働を交えたものであり、彼自身の何かを
 付け加えたものであるから、彼の財産となる」
「人が耕し、植物を育て、改善した土地から得られた
 ものを利用する限り、その土地は彼の所有物である。
 彼の労働が加わることで、それは一般とは区別される」
  *ただしロックは有限な資源の独占を否定する

ロックとリバタリアンの分岐点
 1.民主的な手続きは個人の自然権の侵害を正当化しない。
 2.「自然権が守られている状態」の定義は政府が決める。


社会契約について

自然状態(自由で平等な人々がバラバラに暮らす状態)
 →個人が自然法の執行者となる
   →侵略と処罰の繰り返しは暴力による支配に至る
     →大多数の人々の生命、自由、財産に対する
      不可譲の権利=自然権が脅かされる
       →人々の同意により社会を形成する必要

社会契約に参加するため、人々は自然状態の執行力を放棄し、
多数決原理で意思決定する政府に同意しなければならない。

自然状態の不都合は明白なので、文明社会では実質的に全員が
社会契約に暗黙の同意を行っているとみなせる。

ジョン・ロックの言葉
「人は社会において所有権を持っており、物に対する権利は、
 コミュニティの法律により、彼らのものとなる。
 ゆえに、最高権力ないし立法権によって、人々の財産を
 意のままに処分したり、ほしいままに取り上げたりする
 ことができると考えるのは間違いである」
「政府は大きな負担なしに支えられるものではない。政府の
 保護を享受する者は皆、その維持のための割り当てを自分の
 財産から払うべきである。しかしそこには、本人たちまたは
 彼らに選ばれた代表者によって与えられた本人の同意、
 すなわち多数派の同意がなければならない」

自然権と政府の関係
1.自然権は不可譲の権利ゆえ社会契約に参加しても存続する。
  →特定の個人・団体に対する恣意的な権利の侵害は不可。
2.多数の人々の自然権を守るために形成された政府は、
  社会契約に参加した人々の集合的な同意に基づき、
  権利を擁護するため、その協定的な側面を民主的に定義する。
  →一般的なルールにより権利の一部を制約できる。
    Ex. 統一ルールによる課税
    Ex. くじ引きによる徴兵制

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