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聞き書きワークライフ~編集~

世の中にある色々な仕事・職種の話を聞くのが好きです。
「営業は会社の顔!」とか「経営企画は社長の参謀!」とかの、印象的だが実際のところよくわからないフレーズでも語られがちな「職種」について、肌身で分かる話を人から聞いて、溜めていくのを細々としたライフワークにしたい。
今回は20代女性から、出版社2社での編集経験についてです。

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――すごく大掴みの質問ですけど、編集って何をする仕事なんですか?
■本を企画して、文章をもらって、仕上げていく人ですね。
文芸・学術・ビジネスなどのジャンルによって動き方が違います。
文芸書だと、作家さんの作品を本にするのが仕事なので「ここに小見出しをつけましょう」「次の章ではこれを語りましょう」のような会話はあまりしません。作家さんが中心のイメージですね。
一方、新書やビジネス書だと「こういうテーマの本を出そう。筆者の候補はこういった方々じゃないか」という話から始まったりします。
――編集としてどういう書籍に関わったんですか?
■色々やりましたね。文芸・エッセイ・ライトな学術書・翻訳とかです。
――出す本のジャンルによって動き方が違う、と言っていました。それだけ色々な本に関わった分、それぞれ違う動き方をしたということ?
■そうですね。社内でも、色んな人が色んな動き方をしていましたね。出版社によっては、「雑誌はこの人」「学術書はこの人」と役割が分かれることもあるそうですが、私の一社目は人数も少なくて、みんなが作りたい本を作っていました。

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―本のジャンルごとに聞きたくなってきました。例えばエッセイってどうやって作ったんですか?
■飲み会で面白い人に会いまして。。。その人が作家としても活動されている方だったので「この人が書いたエッセイを出版したいです」と会社に提案したところがスタートですね。
――飲み会なんですね。編集者と作家さんがコネクションを作るために、そうした飲み会を出版社が定期開催している、とかそういうこと?
■いえ。まったく出版社は関係ない飲み会でした。
――なるほど。裏を返せば、編集者自身に人脈や交友関係が無いと、エッセイの企画を出すのは難しいということでもありますか?
■そんなことはないと思いますよ。雑誌や本を読んでいて「この人の文章好きだな。この人にエッセイ書いてもらいたいな」と感じた時に「〇〇社の編集者です。うちでエッセイを出してもらえませんか?」と連絡とるケースもよくあります。

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――ちなみに「こういうエッセイを出したい」という企画を会社に出して、その後どうやって企画の良し悪しが判断されるんですか?すごく感覚的な話かと思うんですが。
■そうなんですよねー。テーマや特徴が似ている類似書籍の売上をすごく丁寧に見る会社もあれば、上司がOKと言うか言わないかという会社もあると思うんですが。。。「こういう切り口でこういうことを語るエッセイで、こういう読者に読んでもらえると思います」という話をして、読者がある程度いるよね、と想像できたら企画を進められるのはどの会社でも同じだと思います。今在籍している2社目では、類似書籍の売上をみたり、事前に目次などを用意して複数人で議論したりしますね。
――1社目では、企画を通すのにそんなに苦労はしなかった?
■そうですね。大人数の会議で企画を通す場合と比べたら、通りやすかったかもしれないです。

――企画が通って、いざ出版するとなったら作家さんとどういう話をするんですか?
■書いてほしいテーマ・文章への要求事項、などなどをまとめた企画書を作って作家さんと相談します。
――そういう場面で作家さんと編集の意向が食い違ったらどうするんですか?
■話し合いですよね。作家さんが書きたいものはこれ、出版社として書いてほしいものがこれ、が食い違ったときは話し合いです。
――でも、どちらの言い分が正しいかって、感覚的な世界である分、話し合っても答えなんかでなくないですか?
■それはそうなんですよねー。「私はあなたのこの視点が面白いと思うから、こういうテーマで書いてほしいんです」なのか「確かにそっちの方がより面白いですね」なのかを、読者のことも考えつつ話し合っていきます。。。
――なるほど。そういう話し合いを経て、出来上がった文章を受け取って、次は手直しですか?
■エッセイなので手直しはあまりしなかったかな。「ここどういう意味ですか?」と質問したり、「この話は面白いのでもっと詳しく書いてほしいです」とお願いしたりするイメージですね。

――そうやって中身のテキストが完成したら、いざ本にする部分は印刷会社さんにお願い、ですかね?
■そうですね。でも本のデザインは、著者とデザイナーさんと話し合って「こういう内容の本で、こういう読者層だから、こういうデザインにしよう」と決めます。
■ちなみにデザインの話が出てくるのって、執筆の終盤になってからです。私がデザインの話をする前に頑張ったのは、作家さんに締め切りを守ってもらうことですね。絶対に刊行日をずらせない雑誌で連載する場合とは違って、単行本書き下ろしは締め切りが緩くなりがちなので、著者も編集者も締め切りをちゃんと意識しないとどこまでも刊行が遅れちゃうんですよ。
■作家さんから「人に見られていたほうが書ける」と言われて、作家さんの仕事場で執筆活動を見守る…ということをしましたね。

――文章とデザインが出来上がったら、一旦編集としての仕事は終わり?
■大体そうですね。本を作ってもらっている間に、amazonの紹介文を作っておいたり、的な販促活動はしていますが。
■あと、書店さんから注文をもらうための注文申込書作りとか。実際に書類を作るのは営業さんなんですけど「こういう内容の本だから、こういう売り文句が良いかも」を編集から営業さんに伝えたりはしました。で、出来上がった注文申込書をひたすら書店さんにFAXで送ったり。。。

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――今のがエッセイを作る流れだとして、たとえば翻訳書だとどうなります?
■海外の版元から「翻訳してもいいですよ」という許可をもらい、契約するところからですね。翻訳権が空いているかどうか、空いていたらどういう条件で契約したいか、等を日本のエージェントと話し合います
――そこのネゴシエーションを代行する、翻訳書エージェントみたいなお仕事があるんですね。翻訳書の企画を通すのは、エッセイとそんなに変わらない?
■そうですね。翻訳書の場合は、海外での売上が既に見えているので、それを参考にしたりはしますね。
――テキストを作るうえで、やり取りをするのは作家さんじゃなくて翻訳者さんですよね。「この本を、手の空いている翻訳者に翻訳しておいてもらいたい」なのか「こういう特徴のある本だから、翻訳者の〇〇さんに是非翻訳してもらいたい」なのかでいったら、どっちのケースが多いですか?
■後者ですね。翻訳者さんによって得意不得意、読み心地が全然違うので、どなたに翻訳をお願いするか?はちゃんと考えます。

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――ライトな学術書はどうですか?エッセイの流れとどう違います?
■ケースバイケースですけど、カフェで先生にインタビューして、インタビューした内容を書き起こして、章立てしたアブストラクトを作って、先生にまた見せて…という作り方をしたこともあります。
――「本に何を書くか?」をわりと編集側がコントロールしているようにも聞こえるんですが、合っています?
■うーん。そんなこともないんですよね。著者の考えていることが一番大事で、編集は読者の目線で気になったことを相談する立場と思います。例えば、先生に書こうとしていることの目次を出してもらって、それを編集側でも確認して、議論すべきところは議論して、最終的にOKとなった目次になるべくのっとって、後は自由に書いてもらう、みたいなイメージです。

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――ちなみに、「こういう本を作りたいです!著者はこの人が良いと思います」という企画書ってどのくらいのペースで出すものなんですか?
■思いつきレベルでもいいので、(正式に通す前段階の)企画のタネも含めて話し合う会議が月に2回ありましたね。その会議に1本は企画を持っていく感じです。
――なるほど。月に2回のペースで企画を出すって、結構大変なように聞こえるんですが。
■意味の分からない企画を出しちゃうことも正直あります笑
――企画書の歩留まりってどのくらいでした?10本企画を出して、何本通るか?的な割合が知りたいです
■うーん、4割くらいでしたね。
――そういう企画のタネを常に探す一方で、企画が既に通って、出版に向けて作られ始めている本もあるじゃないですか。同時並行で、何冊くらいの本を担当していたんですか?
■15冊から20冊くらいを同時並行で担当していましたね。
――多くないですか?
■まあ、まったく作家先生と話がまとまらなくて、実質凍結している企画も加えての冊数ですけどね。忙しい時は毎日終電帰りでした。

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――ちなみに本が出た時に、「新刊紹介!」みたいな感じで雑誌に載ることがあるじゃないですか。そういう販促・PR的なことは営業さんがしてくれるんですか?
■そうですねー。リリース文作って流してくれたり、色んな著名人の方々に献本したり、とかですね。きっと献本を受けた人が、何かしらの形で宣伝してくれるだろうと信じて。。。

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――ここまで話してもらって、編集という仕事の魅力は何ですか?
■まず、新しいことを知れることですね。色んな文章を読んだり、人と話したりして、新しい発見を探して企画にまとめていくのが仕事なので。
仕事を通して自分の考え方が変わっていくのは面白いです。
■少し似た話ですけど、良い企画を見つけた時の喜びのほかに、出来上がった原稿をじっくり読んでいるときにも発見があります。
■あとは、デザインができあがった時が好きです。思いもよらない形で、文章の魅力を芯から捉えたようなデザインをしていただいたときは感動します。いろんなプロの人と一緒に一つのものを作っていく過程の驚きが、魅力の一つだと思います。

――なるほど。大変なことは?
■良くも悪くもケースバイケースの仕事なので「できるようになる」瞬間があんまりないんですよね。作家さんごと、本の内容ごとにやり方が変わっていくので、何かに熟練していく感覚はそんなにないですね。
一つ一つの企画をそれぞれ進めていくイメージです。

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――ありがとうございます。さくっとだけ、2社目の文庫出版社についても聞きたいです。文庫化の企画ってどういうことをするんですか?
■図書館などを巡って、絶版になった宝の本を探すことですね。
■著者の方が存命であれば、その方に文庫化の相談をするし、そうでなければ遺族の方。遺族の方が良く分からなければ、探偵のような仕事をします
■あと、解説をつける仕事が文庫の特徴ですね。誰に解説を書いてもらいたいか考えて、文章を依頼します。

――企画が通ってから出版されるまでのスピードは、文庫化の方が書き下ろしより圧倒的に早いですよね?
■そうですね。書き下ろしが1年としたら、文庫だと早いケースは4か月で出せることもあります。

――前の会社と今の会社で働き方は変わりました?
■かなり変わりましたね。前の会社では、ゲラ作成やゲラの確認、営業的なことも色々やっていました。とにかく毎日時間に追われてたのですが、その分自分の裁量で気軽にできることも多かったと思います。今の会社は、そうした仕事を分業してもらっているので、時間に余裕ができて、その分いろんな人と相談しながら進めることが増えました。会社によってだいぶ働き方は変わるんじゃないかと思います。
――今の会社で一番していることは?
■企画の種さがしですね。図書館をめぐって、文庫化したい本を探しています
(語り手 20代女性 出版社編集 ⇒出版社編集)


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