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素直さの魔力

「うわあ、うまそうー!俺チャーハンにしよ!」

正午少し前、最寄り駅に向かって歩いていたときのことである。近所の小さな中華料理屋を通り過ぎようとしたとき、その店の前にいた20代前半と思しき青年が言った。「私はラーメンかなー」「俺もお腹ペコペコ。全部うまそう」と一緒に店先のメニューを眺めていた男女も言う。そんなことを話しながら店内に入っていく様子を背後に、私は思わずニヤニヤしてしまった。

また別のある日、仕事終わりの時間帯のことである。疲れた足取りで歩いていると、近所のラーメン屋が視界に入ってきた。寄り道してラーメンでも食べて帰っちゃおうかなあ、なんてぼんやり考えていると、ちょうど中から大学生くらいの男性2人組が出てきた。店の戸を閉めると、そのうちの1人が言った。

「はあー、うまかったなあ!」

本当に、本当に心から満足している「うまかったなあ!」であった。もう1人も同意しながら、また来ようという話をしていた。あまりにも素直で純粋なその光景に、私は顔をほころばせてしまった。どうかあの声が店内の厨房まで聞こえていてほしいと思った。そして私は先ほどまでの疲れなど忘れ、気づけばそのラーメン屋に吸い込まれていた。あの日食べたラーメンは、いつもよりも何倍も美味しかった。

素直に自分が思ったこと、とりわけポジティブな内容をすんなりと口に出せる人は好感がもてる。同時に、自分の思ったことをすぐ口に出せるタイプではない私は、このような人間を至極羨ましくも思うのである。面白そう、楽しそう、美味しそう、聞いた人も思わず笑顔になってしまうようなそういうことが、するりと口をついて出る人に悪い人はいないと思っている。

こういう素直な若者のもつ明るさというのは、現代の社会においてとても必要なものであると思う。先行きの見えない中で、一抹の希望をもたせてくれる。まだまだこの社会も捨てたもんじゃないぞ、そう感じさせてくれるのである。

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