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自分の本音を見失ってしまいがちな日常を生きる人へ贈る物語〈作品file.01〉

自分のこと、大切にしていますか


これは、〝私〟が生きる人生のひとつを描いた物語。

言葉一つ、文一つから思考を巡らせ、想いを馳せてみてください。

自分の本音を見失ってしまいがちな日常を生きるあなたに、少しでも寄り添えたなら幸いです。

そのままが、いいよ という想いを込めて…

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〈作品file.01〉おばあちゃんと居間

最後の出勤日から一週間。まだまだ新しいカーテンの端に夜の気配が残っている。
何ができるの? 
誰かによる問。自分による問。反芻する問。
答えようとするたびに口籠る自分が嫌で、情けなくて、歯がゆくて、
だからここまで奮闘してきた、けど…。
私は布団から出て、押し入れの奥から大型のカバンを引っ張り出した。
開けてみたけれど、空っぽだった。まあ、わかってたけど。
顔を洗おうと階段を降りると、薄明の空が窓の向こうに見えた。
居間で膝を抱え、おぼろげな月を眺めた。しばらくそうしていた。
はあ、と一息つくと、染みや汚れで古ぼけた障子とすぐ横の柱が目に入った。
「これ、あんたも食べんかい」
振り返ると小豆のおはぎを置いて台所へ戻る祖母の姿があった。
些細な話をみんなで笑って、誰かの放ったツッコミにもっと笑って。
近所に住む人たちと三角巾を揺らしながら、味をたしかめながら
いつの間にか皺の増えた顔と手に、もっと皺を増やしてできる朝市の商品。
美味しい。
ご飯とあんこ。けんかしない、おはぎ。どっちも強くない、おはぎ。
おばあちゃんのつくる、おはぎ。
一口食べるごとに、しょっぱさが加わって、桜餅みたいになった。
それもいいじゃん。
夢中で口いっぱいに入れた二つ目のおはぎを最後まで味わって、
はー、と一息ついたら、しぜんと力が抜けた。体を床につけて、はっとした。
何ができるの?
それは大事な問いじゃなかった。
私は頑張って誰かに認められたいんじゃない。
ただ今を生きている 
そのままの私を
私が、愛したいんだ。
私って今のままで生きていれば、それでいい。私はそれがいいんだ。
ただそう思った。それだけなんだ。そうなんだ。
あまじょっぱい口の中。乾いた涙で張る頬。柱をつくる複数の線と数字。
肌むき出しのスギの木が今も背中を押してくれている。 


(作品より引用)

最後まで読んでいただき、ありがとうございました。

作品づくりに邁進していきます。また、あちこちで活動していく際に役立てていきたいです!いいなあ〜と思いましたら、よろしくお願いします^^