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スウェーデン国営酒店で朝の散歩を

日本から海外ロケのチームがいらっしゃると、撮影許可をとってもらえないかと打診をされる場所がある。

さて、どこであろうか。

 

 IKEA (正解)。病院(正解)。老人ホーム(正解)。学校(正解)。私のアパート(時々)、等々。自然および街並みを撮るためには大抵は許可はいらない。

 そして、もう一か所、皆さまが感嘆される[観光地]がある。


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 表題の通り、国営酒店である。

 国営酒店などと固く和訳すると「そういえば、スウェーデンって共産主義だったよね」、などと仰られる方もいらっしゃる。

 「スウェーデンの公用語って確かポーランド語だったよね」、というバージョンもあった。

 一応は、角が立たないように、スウェーデンは共産主義ではなく、公用語はスウェーデン語であると訂正はさせていただいた。

 

 国営酒店は現地の言葉ではSystembolagetと呼ばれる。

 

 何故、国営酒店の店内で旅行者が感嘆するのか?

 
 品揃えが半端ではないのである。ため息ものである。その気になれば(一瓶一瓶の説明を読んでいれば)、店内で一日は軽く過ごせる。


 以下の国営酒店の動画の最初の方で店内が垣間見られる。




 キリンビールとサッポロビールの瓶はデフォルトでいつも置かれてある。山崎ウィスキーも人気がある。

 

  ある日の朝、訳があって、近くの国営酒店に足を運んだ。おそらくそこは、ストックホルム街中の国営酒店の中でもかなり大きい方であろう。

 

 さて、国営酒店と民間酒店の違いは何であろうか?

 違いは無い。

 大雑把に言えば、スウェーデンには民間酒店は存在しないからである。ただし、アルコール分3.5パーセントまでは一般のスーパー等でも購入が可能である。


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 家庭内でワインなどを醸成することは許可されているが(別に許可を取得する必要もないと思うが)、それを外に販売すること許可されていない。

 

 私も以前、一番失敗の少ないと言われるカベルネ・ソーヴィニヨン (Cabernet Sauvignon)と呼ばれる葡萄でワインを自分のマンションの台所で、発酵、醸成していたことがある。その時は、台所では常にポンポンと心地良い(うるさい)音と、異様な香り(匂い)がしていた。合計150本ぐらいは作ったと記憶している。

 ある晩招待したスウェーデン人の客に「不味い!不合格!」、と評価を頂いてからは、ワイン発酵用の巨大な桶は洗濯物入れに変わってしまったが。

 

 ワインは、本来なら南欧で本物をゆっくりと味わいたいものである。

 ちなみに最近はアメリカ、南アフリカ産のジンファンデル(Zinfandel)と呼ばれる葡萄のものを買う時が多い。肉料理の時には相性が良い。

 

 さて、何故、スウェーデンには国営酒店などというけったいなものが出来て、スウェーデンを共産主義と思わしめたのであろうか?

 ちなみに、デンマークではスーパーマーケットでもワインが買える。

 

 最大の目的は国民の健康のためである (と、当局は説明している)。

 以下の政策に依り、アルコールへの規制を厳格にしている。


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アルコール税を高率にする

アルコール度に依って税率が変わる。強い酒であれば南欧の二倍ほどの価格になることもある。

私は、南欧を訪ねた時は必ず強い酒を買って帰ることを心掛けていた。

 

アルコールの入手を難しくする

酒の購買は国営酒店のみに限られていることと、開店時間も限られているため、土曜日の晩に急に来客があった場合などに困ることもある。

またレジにおける年齢の確認も徹底している。

 

アルコール販売に関しては、モノポリー体制を採っている

そのため管理がしやすく、価格競争もない。

 

  これらの政策が功を成したためか、2016年のWHOの統計に依ると、15歳以上の一年間の年間アルコール消費量は、ヨーロッパの主要国においては、以下の順で、比較的低い方に位置付けされている。

  

 リトアニア

 チェコスロバキア

 ドイツ

 アイルランド

 フランス

 ポルトガル

 ポーランド

 イギリス

 フィンランド

 デンマーク

 スペイン

 スウェーデン

 オランダ

 ノルウェー

 

  国営酒店では二十五歳以下の人は、身分証明書を提示しなくてはならない。

 これがまた国営酒店を一つのドラマにしている。

 

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 先週、同僚が身分証明書の提示を強制されたと非常に憤慨していた。

 しかし内心、私をはじめ同僚達は彼に対して、羨望に近い感情を覚えた、正確に言えば嫉妬である。

 彼は五十歳を越えている、私や同僚達よりは年上である。

  

 国営酒店で身分証明書を求められるという現象は、スウェーデンでは若さの証明のようなものになっている。

  

 しかし、若すぎることにも不都合があるわけで、この日の朝は、若すぎる末娘に「お願い、お願い」と嘆願され、仕方なく酒店に足を運んだのだ。

 誕生日を迎えた次女のためにびっくりパーティーをしたいと、末娘が前々から準備をしていたことは知っていた。

 そして、次女のお客のために白ワインとビールを買ってきて欲しい、と末娘に嘆願されたのだ。彼女は未成年であるのでワイン等は購入できない。


 

 私は、子供にはアルコール消費は推奨したくはない。

 理由は数点あるが、危険回避能力が低下することがその中でも比重が大きい。

 しかし、厳しすぎる規制も逆効果を産む。

 知り合いの娘は、未成年であったため闇でウォッカを購入し、その結果、救急病院へ運ばれた。

 

 「お姉ちゃんは子供じゃないよ。お酒飲んでもいい年齢なんだよ!」

 と末娘は言いはるが、親が生きている限り子供は子供だ。

 

 気の進まぬまま酒店に行って、頼まれた酒を買おうと思ったが、ビールのところの買い物リストを見て彼女のファンタジーの無さに失望した。

 Carlsberg Export 10本と書いてある。

 これほど豊富なビールの種類があるのに一種類のビールだけ?何というつまらなさ。

 私はリストを無視して、10本の違う銘柄のビールを買い物かごに入れた。

 そのあと次女の友人のほとんどがヴィーガンであることを思い出し、かごに入れた半分以上を戻し、エコロジービールに取り替えた。

 買い物かごには無造作に入れたため、どの棚から見つけたかを探すだけで非常に時間が掛かった。


 人の居ない朝っぱらの国営酒店で一時間も徘徊していた怪しい東洋人である。

  

 パーティーをするといっても物理的距離を開けなければいけないため、パーティーは外で開催するらしい。

 

 外は土砂降りであった。

 

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 「酒は、お洒落に楽しめる年齢になるまで待った方がいいんじゃない?」

と、身分証明書を提示する必要のない大人(私)はつぶいてみたけれど、あの土砂降りの中では彼らの耳には届かなかったであろう。

  

ご訪問いただき本当に有難うございました。

紹介させていただいた写真は、レストランPiren、ストックホルム中央鉄道駅構内のフランス料理店、旧市街前の埠頭でした。