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手のひらを合わせた日

この記事が公開される頃、この日の事を私自身も懐かしく思うであろう日の出来事。過去を振り返ってもこんなスマートな人に出会ったことがない、と感じた紳士との出会いがあった。それはほんの数分の出来事だった。

あるホテルのエレベーター前のこと。エレベーターに乗り込もうとした時に目の前に並んでいた紳士が、さっと目の前からいなくなった。エレベーターのドアに手を添え、「お先にどうぞ」と通してくださった。慣れない私は「いえいえ、私がドアを開けておきますからどうぞ!」と反対のドアを反射的に抑えていた。エレベーターのドアを両サイドから2人でおさえる不思議な状態。

紳士はゆっくり、にっこり微笑んで「いいえ、レディからどうぞ。」と仰った。私は恥ずかしくなった。次回こういうことがあったら、スマートに「ありがとうございます、ふふふ」という雰囲気で乗り込もうと決めた。

「何階ですか?」と紳士は聞いて下さったが、これがまたわからない。ロビーなのか1階なのかが、わからないのだ。「えっと・・地上に出て行きたいのですが、どこで降りたらいいのでしょう。」と思わず頼ってしまう安心感があった。

「では、同じ階で降りましょう。」という返答と立ち振る舞い。品の良さと気高い印象が隠し切れない。親世代とはお見受けしたが、おしゃれなスーツとスタイルの良さ、立ち姿と笑顔には明らかな風格があった。少しだけ何気ないお話をさせていただいた。ほんの数十秒だったと思うが、会話を楽しむセンスも抜群だった。

エレベーターを降り、玄関から地上に出るまでに、紳士の関係者や挨拶をする方が徐々に集まってきた。私はさすがに通りすがりの人間としても邪魔だと思い、「ご親切にありがとうございました、失礼します。」と会釈をした。

すると、「こちらこそ楽しかったです。わたくし、“お手てのしわとしわを合わせてしあわせ~”の、はせがわでした。」と手を合わせて挨拶をいただいたのだ。なんと。

創業94年になる『お仏壇のはせがわ』の長谷川会長だった。

「!!大変お世話になっております。」という言葉しか出てこなかった。私は、仏壇がある家で育ったのでこれが咄嗟の一言だった。反射的に長谷川会長に向かって手を合わせていた。お互い手を合わせ向き合うその状況がなんだか面白く感じて、2人とも笑った。

ほんの数分の、まったくの偶然。ただそれだけで、もちろん前後含め面識もない。だからこうやって書けるんだけど。メディアで拝見するよりも、もっともっと若くて艶があって、気さくで優しさが溢れていた。経済紙に出るときとの顔が違うのは当然かもしれないけれど、こんなにステキ紳士とはビックリした、というのが正直なところ。大変失礼ながらもっと厳かで、正義感に溢れているリーダーシップ感から、とても怖い人かと思っていたから。

これは私が観たこと、聞いたこと、感覚だけのこと。私に親切にしてくださったという事実と感謝だけ、ここに記録しておきます。その後、家の仏壇用仏具を買いに行ったことは言うまでもないかな。

喜びます、ありがとうございます。