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【本の紹介】『カメラの前で演じること - 映画「ハッピーアワー」テキスト集成』

(100円設定ですが全文無料でお読みいただけます)

『カメラの前で演じること - 映画「ハッピーアワー」テキスト集成』
(濱口竜介、野原位、高橋知由(共著)、左右社)

映画『ドライブ・マイ・カー』『偶然と想像』などで、世界中の映画ファンや批評家を驚かせ続けていて、映画の歴史を書き換えている映画作家、濱口竜介さん

彼が2015年に発表した映画『ハッピーアワー』にまつわる文章を集めた本です。
『ハッピーアワー』のシナリオ(最終第七稿)全文と、『ハッピーアワー』の物語世界の"パラレルワールド"としての「サブテキスト」と濱口さんが呼んでいる脚本形式の文章を中心に、本書のために書き下ろされた濱口さんの演出論「『ハッピーアワー』の方法」などから成っています
3人の共著になっているのは、この3人で「はたのこうぼう」という脚本執筆ユニットを組んでいるためです。

ここまで、巻頭の「『ハッピーアワー』の方法」を読んでいるのですが、この本の中で濱口さんは、ここに書かれた演出方法論はあくまで『ハッピーアワー』のための一回きりのものだと断りを入れています。しかし、『ドライブ・マイ・カー』『偶然と想像』を何度も何度も観て、その「新しさ、今までになさ」に驚かされている私にとっては、濱口さんの基本的な考え方を知るにはとても良い文章であり本だと思っています。

「"聴くこと"から"演じること"へどう接続していくか」
「ときに"意に添わずに"語ってしまう身体(からだ)」
「"未来の無限の眼差し"としてのカメラ」

……など非常に興味深いテーマで、濱口さんが自身の演出哲学を語っています。

僕は『ハッピーアワー』は未見ですが、この映画は第68回ロカルノ国際映画祭で、それまで演技経験が一切なかった4人の主演女優が、4人セットで最優秀女優賞を受賞したとのことで、上映時間は「5時間17分」なのだという。間に1回の休憩が入る。2回かもしれない。

3時間近い上映時間の『ドライブ・マイ・カー』を観た人なら、こういう感じがもしかしたら分かるかもしれないのですが、堅固で安定した運転技術を持つ渡利みさきが運転する赤いSAAB900Turboに乗っているかのような、我々が知覚できる以外のところで、みさきさんが的確にアクセルを踏んだり離したりして加速/減速がなされている。だから3時間という長さを感じない。

(ここからちょっとだけネタバレあり注意)


というより、『ドライブ・マイ・カー』という映画そのものが、普段の日常的な時間感覚とは異なる、多次元・複次元的な時空なのかもしれません。その時空では、"高槻君"の口や身体を通して、もうこの世の存在ではない"音さん"が物語の続きを語り出す…ということも普通に起こる。

それが、"こちらの時間尺度"で5時間17分となったときに、何が起きるのか。名古屋ではシネマスコーレで4月以降に上映が予定されていとのこと。非常に愉しみです。

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