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【作品#37】『泣きたくなるような青空』

こんにちは、三太です。
 
3学期の始業式から1週間が過ぎました。
始まった当初は、色々と行事がたてこみバタバタとしていましたが、少し落ち着いてきた感じがあります。
ただ、やるべきことはたくさんあるので、しっかりと腰を据えて取り組んでいきたいと思っている今日この頃です。
 
では、今回は『泣きたくなるような青空』を読んでいきます。

初出年は2017年(10月)です。

木楽舎の『泣きたくなるような青空』で読みました。


あらすじ

本書はANA機内誌『翼の王国』での連載を25篇まとめたエッセイ集です。
基本的には旅に関するエッセイで、博多、上高地、マレーシア、ベルンなど様々な土地での出来事が描かれます。
また旅に関する話だけではなく、小説に関する話も出てきて、少し小説の種明かし的な要素もあります。
サクサク読めて、色んな場所を旅しているような楽しいエッセイ集です。

公式HPの紹介文も載せておきます。

日々を懸命に生きている大人たちに贈る、どこまでも前向きで心に沁みるエッセイ集です。
ーー沖縄を離れる時、僕らは数日間の沖縄に別れを告げるのではなく、妄想の中で暮らした美しく豊かだった日々に別れを告げなければならず、その喪失感は青い空を見てつい涙が流れてしまうほどになる。
(本文より)
大人たちを縛る「記憶」との上手な付き合い方がしみじみ伝わってくる25篇です。
※高良健吾さんの朗読で、audible版も同時発売!

出てくる映画(ページ数)

①「横道世之介」(p.19)

このようなことをつい書いてしまうのには二つ理由があって、まず今が三月という節目の時期であるということ、そして自作の宣伝のようで申し訳ないが、『横道世之介』という拙著が映画化され、それを試写で見た印象が未だに頭から離れないせいが一つだ。
この『横道世之介』、簡単に説明させてもらうと、大学進学のために上京してきた十八歳の青年の一年間の物語で、誰もが体験する新生活でのとまどいと成長を描いている。映画の方の話でいえば、高良健吾くん演じる主人公の横道世之介が、大きなバッグを背負って一九八七年の新宿駅東口に現れるシーンからスタートする。 

②「ニュー・シネマ・パラダイス」(p.68) 

もちろん中には邪険にする人もいる。それでもハグの数は増える。
昔、『ニュー・シネマ・パラダイス』というイタリア映画で、大人になった主人公がキスシーンだけを繋ぎ合わせた映像をスクリーンで見るという感動的なラストシーンがあったが、この動画を見ていると、まるであのシーンを見た時のような感動がある。

③「それでも夜は明ける」(p.88) 

ちょうどその頃だったと思うが、SMAPの稲垣吾郎さんがある映画の感想をテレビで話されていた。
その映画はアカデミー賞作品賞を受賞した『それでも夜は明ける』というもので、簡単にストーリーを紹介すると、十九世紀の中頃、奴隷制度が廃止される前のニューヨーク州で、自由証明書で認められた自由黒人のバイオリニストとして、愛する家族とともに幸せな生活を送っていた青年が、ある白人の裏切りによって拉致され、奴隷としてニューオーリンズに売られてしまうという物語で、南部の容赦ない差別と暴力に苦しみながらも尊厳を失わずに生きる主人公の姿が感動的に描かれている。 

④「シェルタリング・スカイ」(pp.116-117) 

次にエンジンを切ってみた。月もなく、辺りは真っ暗だった。数メートル先も見えない。唾を飲み込む音が響いた。
最近、見返した『シェルタリング・スカイ』という映画には、原作者のポール・ボウルズが舞台の北アフリカのホテルに滞在する旅人として出演している。
彼はこの映画の最後に次のようなことを語る。
「あと何回、満月を見られるだろう?
実際には二十回くらいだろう・・・
だが、人はその機会が永遠に訪れると思っている」 

⑤「Water」(p.119) 

というのも、この時パリに滞在していたのは、前年の夏に撮影した短篇映画『Water』の編集作業のためだった。
さっそく言い訳させてもらうが、僕はこれまでに一度だけ監督をして映画を撮らせてもらったことがあり、それが自身の処女作を原作にしたこの『Water』という二十八分の短篇映画で、一流の映画監督と仕事をする機会も増えた今から思えば、何を調子に乗ってというか、何を血迷ってというか、とにかく全映画関係者に「申し訳ありませんでした」と謝りたい気持ちにもなるのだが、とにかく若気の至りというか、そういうことから始まったものとはいえ、一つだけ自信を持って言えるのは、ズブの素人なりに、恥をかきながらも必死で作ったものではあったということだ。 

⑥「スイミング・プール」(pp.119-120) 

では、何故そんなズブの素人の作品の編集がパリでだったのか?
理由は簡単。カメラマンがヨリックというフランス人だったからだ。
ちなみにヨリックは当時すでにフランソワ・オゾン監督の『スイミング・プール』などを撮っていた有名なカメラマンで、最近ではジム・ジャームッシュとも組んでいるのだが、では何故ヨリックのような有名カメラマンが、無名監督の短篇映画のためにわざわざ撮影地の長崎くんだりにまで来てくれたかといえば、原作のフランス語訳を読んで興味を持ってくれたのも確かだが、ひとえにプロデューサーの力だと思う。 

⑦「舞妓Haaaan!!!」(pp.122-123) 

あれから十年が経つ。
ヒロインを演じてくれた早織さんは、その後、大ヒットした映画『舞妓Haaaan!!!』で準主役の舞妓を演じるなど、映画、テレビドラマに大活躍しており、先日は知り合いの映画監督が出演したトーク番組で司会まで務めていた。

今回は7作ありました。
「横道世之介」「ニュー・シネマ・パラダイス」「Water」は既出なので、その他の4作を見ていこうと思います。(まだ「Water」は見られていませんが・・・) 

感想

これまで吉田修一さんの作品やそこに出てきた映画などを追ってきた身としては、とても興味深いエッセイ集でした。
例えば、「遠いパリのこと」というエッセイでは「Water」の映画を撮った時のことが語られ、吉田さんは映画監督になりたかったのかも・・・というとても重要なエピソードが語られます。(ただ、結局、自分は映画監督にはなれないと思い知らされることになるエピソードなのですが・・・)

また、他にも良いエピソードや好きなエッセイもたくさんありました。
中学校からの親友がお亡くなりになり、精霊流しをするというエピソードは(p.50)、親友とともに長崎という街への愛も感じられとても良いエピソードでした。
自分は精霊流しというものはしたことがないのですが、でもその「長崎という町に生まれて良かった」(p.50)という感覚は少し分かるような気もしました。

エッセイとしては「朝の種類」「百年後の笑っていいとも」「人間の声」が特に好きです。
「笑っていいとも」は自分も見ていたので、あのオープニングの音楽や当時の昼間の日常が思い出されて少し涙が出そうです。
こう感想にまとめていると、とても良いエッセイ集だなとしみじみと感じました。
本当に「泣きたくなるような」感じといえばいいでしょうか。

吉田さん行きつけの長崎の店がいくつか出てきて(p.25)、ここにはぜひ行ってみたいです。

いいともの音が流れる冬の昼

その他

・小説のネタとなっているような(あるいは小説のどこかで見たことがあるような)エピソードがたくさん出てきます。
→吉田さんがバイト先の博多のホテルで「東京」というあだ名で呼ばれる(p.7)

→吉田さんが地図好き、俯瞰好きというエピソード(p.36)
 =『パーク・ライフ』で日比谷公園を上から見えるイメージに通じる

→『路』のエリックが住むアパートにはモデルとなる場所があった(p.59)

→吉田さんは学生時代に写真好きとなりそこから現代美術へ関心を広げていった(p.73)
 =世之介がカメラマンとなる設定に通じているかも

→スイスの首都ベルンで川を流れた経験が『空の冒険』に収録されている短編「緑の光線」に生かされている(p.97)

→『あの空の下で』に収録されている短編「小さな恋のメロディ」にはモデルとなる実話があった(p.133)

→友人たちが集まって行われるサンフランシスコでの結婚式(p.168)=これもどこかの小説で見たような・・・

・樋口毅宏『タモリ論』に『パレード』の話が出てくる(p.87)

以上で、『泣きたくなるような青空』の紹介は終わります。
タイトルのように、泣きたくなるようなエッセイ集でした。

では、最後まで読んでいただき、ありがとうございました。

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