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北海道が好きになったわけ⑥

次の日、昨日の先輩達がまたやってきた。
「よう、昨日は悪かったな。このアパート、懐かしくってさ。つい何も言わないで上がり込んじゃってさ。ごめんな」
あら、先輩達、意外といい人。そういえば昨日「このアパートには皆んな嫌な思い出があって」って言ってた。何のことだろう?

先輩達が教えてくれた。
「実はさ、このアパートって、昔から代々の番格達が住んでたアパートでさ。要するに学校で1番悪い人達が引き継いで住んでたんだよ」
「俺らが1年の時の先輩達もおっかなくてさ。俺ら住んでるの隣じゃん?よく夜中に呼び出されて『オイ、酒とツマミ買ってこいよ』って言われてさ。こんな田舎で夜中やってる店なんて無いでしょ?でも買って行かないと何されるかわかんないからさ。仕方ないからそこの酒屋さんのシャッターをガンガン叩いてお店の人起こして。で、ひたすら謝りながら酒とツマミ買って、な?」
「そうそう。しかも支払いは自腹だぜ?酷い時なんかは『あの〜、お金はどうしたら。。。』って聞いたら、紙に1万円て描いたの渡されてさ。なんとか酒とツマミ買って帰ったら『オイ、テメェ釣銭どうしたんだよ?』ってめっちゃ怒られて。さすがに別の先輩から止められてたけどな」
「あとさ、ソコの階段のとこから足持ってぶら下げられたヤツ、学校辞めちゃったよな」

はい、もういいです。お腹いっぱいです。

納内町には僕らのアパートのように、ただ住むだけの普通のアパートの他に、食事も提供してくれる下宿タイプがあった。学生で成り立っているような町で、常に若い人が町中にたくさんいた。そのほとんどは、本州各地から初めて北海道に来た人ばかり。そして9割方男子学生しかもバカばっかりだったので(しつこいようですが当時です)、授業は適当に出て、あとは酒ばっかり飲んでた。

とにかく毎日暇だったし、テニスサークルにでも入れば女子もいるだろうと思って、テニス部に入った。でも、コートに行ってみても女子の姿は皆無。代わりに一癖も二癖もありそうな先輩達がお待ちだった。隣のアパートの先輩達から聞いた話が頭をかすめた。

僕らが中学生や高校生の頃は、リアルに「東京リベンジャーズ」みたいな世界があった。というか「湘南爆走族」の方が近いか?改造バイクに特攻服着て暴れ回るのがカッコいいとされていた。中でも、全国各地に支部のあるメチャクチャ大きな暴走族と、そこに対抗する少数精鋭の族が二大勢力として有名だった。他にも名の知れた族はたくさん存在した時代だった。

でもさ!その少数精鋭の族の人がこんな田舎の大学の、しかもテニス部にいるなんて思わないじゃん!!

「タケちゃん怒らせんなよ?タケちゃん、昔、渋谷の交番に爆竹投げ込んだようなヤツだから。な?タケちゃん、そうだよな?」
「爆竹じゃねーよ。火炎瓶」

男いや漢だらけのテニス部で、しかもタケさんの他にも名の知れた族のメンバーが2人。。。何で族の人がテニスなんてやってんだ?ちなみに一つ上の代の部長さんはパンチパーマだったそうです。やー、テニス部ってそうじゃないよな〜。もっとキャッキャッキャッキャッ楽しそうな雰囲気じゃないんかい!
無事に卒業できるかとても心配になった。

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