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ステキブンゲイで、小説書いてます。(魔人狩りのヴァルキリー 第十六話)


第十六話 死者の街   ③


「サトコ、しっかりしろ!」

黒須は紐を引っ張る手を強めた。
サトコの身体全身に熱いマグマのようなものがメラメラ湧き上がるー。

無垢なる羽を引きちぎられ、法悦の表情で獣のような叫びを上げている少女。醜怪なる身を光らせて、全ての光を飲み込みながら奇声を上げている。怪物の触手は天使を浸食する。闇は光を浸食する。内部を侵蝕する邪悪な魂は、少女の内部に侵食しようとしていた‥‥。

そして、邪悪な黒は徐々に白をも侵食していくー。

『サエコ…お願い…』

サトコは、身体の中の芯からじわりじわりと暑さが増していき、熱を帯びて来るのが分かった。そして、サトコの周りに桜色の炎が取り囲んだ。桜色の炎は花火のような威力で辺りをメラメラ焼き尽くした。周りの死霊達は、青磁色と桜色の炎に覆われ雄叫びを上げながら炎に包まれ消えていった。
間を見失い、すべてに逡巡し、自分の事さえも分からないサエコの魂は、ゆらりゆらりと浮き沈みそして静かに消えていったのだった。

そこにあるのは深い修羅だった。。
至極、当たり前のように…。

魔物は、不幸な子が好きなのだ。不幸だけれど、健気に運命に立ち向かっている弱々しく脆い魂の隙間に入り込み、満足するー。

サトコは夢を見ていたー。
あたり一面、薄暗く深い木々に覆われていた。周りには人の姿を象った木々が散在しているのが見えた。
そして、10メートル先の目の前に、中学のセーラー服をきたサエコが立っていた。

ーサエコ、サエコなの!?ー

ーそうよ。私は、サエコよ。ー
サエコは、優しく微笑んだ。

ーサトコ、こっちおいで。ー

サエコは、ゆっくり手招きした。

ーサエコ、ここは何処ー?

ーここは、修羅の森よー。私は、自殺したから、こんな所に落ちちゃったの。

サトコは、自然と涙が頬を伝った。

ーサエコ、ゴメンね…来るしかったね…気づいてあげられなくて…助けてあげられなくて…ゴメンなさい…。ー

サエコは、首を横に振った。

ーいいえ。これは、私自身の問題なのよ。ー

ーねぇ、何の問題か、教えて!ー

サトコの目には涙で一杯になっていた。

ーサトコ、には言えないの…ー

ー何で?ー

ーじゃあ、何でも受け入れてくれる?ー

サエコは、申し訳なさそうにもじもじしながら話した。

ーうん。ー

サトコは、首を縦に振り強くうなづいた。

ーサトコ、怖がらないでね…私、実は身体全身が奥まで侵食されてるの…そう、謎のウィルスよ。ー

ーウィルス?サエコ、何言ってるの?ー
サエコは、死んでいる。死者の魂は、綺麗に浄化されるのでは無いだろうかー?自殺は、こんなに重い罪だとでも言うのだろうかー?第一、生前耐え難い苦しみにあったから、致し方ないのではないのかー?

ーサエコ…大丈夫だよ。私達は、親友でしょ。ー
サトコは、首を振りサエコに近づく。

ーサトコ…ありがとう。

サエコは、涙を流した。すると、サトコの身体は、自然に磁石のように10メートル移動し引き寄せられていった。

ーサトコ…私達、ずっと友達だよ。

ー何言ってるの?当たり前じゃないの?私は、ドン臭くて気が利かなくていつも自分の事ばかりで…いつも、サエコのお荷物で…

サトコの目に、涙がハラハラと溢れ出てきた。

ーさあ、サトコ…こっちに…。

サエコも、涙を流す。瞳孔が震え、頬が桃のようにピンク色に染まった。
サエコは、両手を広げた。すると、両手は大蛇のようにうねり、そしてサトコにまとわりついたー。そして、微かに香る、硫黄の匂いー。
その匂いから、サトコはアリアだと悟ったー。
いや、アリアじゃない…アリアはここまで表情豊かではないー。
サエコに扮した魔物は、口が顔面一杯にぱっくり開きそして、目が糸のように細くなっていった。
ーサトコ…なんていい匂いー。凄くみずみずしい、美味しそうな魂ー。

ーだ、誰…?

ー私はサエコよ。

ー違う…!サエコは誰かを巻き添えに何かしない!
触手はグルグルサトコの身体に巻きついてくる。そして、触手は徐々に硬くなり始める。
ーあら嫌だ。笑っちゃうわ。
すると、急に魔物の身体は樹木のような素材になっていきみるみる茶色になっていったのだった。

ー苦しい!

ー貴女も、修羅の中を永遠に彷徨うといいわ。貴女のようにこんなに恵まれてる子を見てると、私、虫唾が走ってくるのよ。

自分が恵まれてるー?どういう事?自分は、家庭環境が悲惨で、しかも、今まで愛を知らずに育ってきた。私の何処が恵まれているというのだろうか?
ーまあ、いいわ。今、私の一部になるのよ。貴女は…。
すると、魔物は全身が黒くただれそして、白目が金色に変化した。
サトコは息が苦しくなり、目眩を覚えた。

ーもう、駄目だ…。

全身が痺れ感覚が麻痺していく…。目の前にいるのは、死神なのだろうかー?黒く禍々しい死神は、目を細めて邪悪にほくそ笑むー。


すると、辺りに青磁色の光で、包み込まれた。

ー眩しいー!

その眩し光に、サトコは目を隠した。

ーな、何なんだ!?この光は…!?嫌いだ。光が嫌いだ。‥‥。

魔物は、狼狽えた。
光が邪悪な者を包み込む。その強い光は、邪悪にな者の深い内部にまで浸透していくー。
光は全てを暴き、そして濃さを増していくー。

ーぎゃあああああああああ!!!!!!!!

魔物はけたたましい獣のような悲鳴をあげる。それは、悪魔のようなおぞましく甲高い悲鳴であった。

サトコは目を開けると、視界に天井がひろがっいた。サトコは辺りを眺める。2人は、建物の座敷の中にいるのだった。

「黒須…私、どうなって…あと、あの不気味な人達は…?」
サトコは驚き、そして上半身を起こした。
「サエコが消したんだ。」
「サエコが…?どういう事?」
「お前の中に眠っている、サエコだよ。」
「黒須は、時々何してるの?いつも居なくなるから…いつも、重要な時に居なくなるから…」
「ちょっと、野暮用だ。お前には、関係ない。」
夕空は、はっきりとその暗さを増している。
陽が落ち、そして辺りに不気味さで覆われた。
夜がやってきて、暗闇に沈んでいく。
「私…実は、暗い暗い森の中にいて…」
「分かってる。話さなくていい。」
黒須は、横に正座しながら何か思いふけったかのようにじっと前を向いていた。
2人は座敷を出ると、元来た道を歩いていった。
「サエコ、もうここで帰れるよな。彼女達も記憶を何とかしたから、あとは来た道を帰るだけだよ。」

「ありがとう。桜庭さん達は、今どこ?」

「彼女達なら、先を歩いてる筈さ。あと、御守りだ。お前の魂を護ってくれる。」

黒須は、サエコに真紅の御守りを投げ渡した。

「ありがとう。黒須は、いつも裏で何してるの?」
サトコのその言葉に、黒須は面倒くさそうに目を細めた。
「だから、それはお前に関係ないんだよ。じゃあ、そこで、お別れだ。」
黒須はぶっきらぼうにそう言うと、右手を空に向けて挙げた。する時、青磁色の炎が彼女を取り囲み、そして炎は急上昇し消えた。
サトコは、毎日が退廃としていた。誰にも心を許さず、そして魂はスカスカですり減り、何もかもどうでもよくふわふわ浮いていたー。
サトコは、思った。魂は脆い。邪気に汚染され、簡単に感化されそして魔物へと進化していくー。綻び始めると、簡単に拡がり醜い怪物へと変貌を遂げる。どんなに崇高な人物も、それは変わらないー。どんな偉人もそれは、変わらない。
そう悟った時に、どんな生き方を選んだらいいのか自分には、分からなかった。

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