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コロナ禍前の最後の観劇は、暗雲が垂れ込めていた ~「ヘンリー八世」~

コロナ禍ですべての興行がキャンセルになる前に見た最後の演劇は、彩の国シェイクスピア・シリーズ第35弾「ヘンリー八世」だ。日記によるとその日、2020年2月23日は晴れていたようだが、記憶に残っているのは鈍色の空だ。その数日後、公演を何日か残してすべて払い戻しになったはずなので、あの日の開催も苦渋の決断だったのかもしれない。私自身も、直前まで”ここで出かけて感染したらどうする?”と悩んだ。

日記には「こちらに雑念があるので、役者さんが唾を飛ばしても咳き込んでも、ギョッとしてしまう」とある。
新型コロナウイルスは飛沫感染だと言われ始めた頃だった。開演前に配られた旗を、観客が一斉に降るというラストシーンでも息をつめていたと思う。
それでも阿部寛さんと吉田鋼太郎さんの声量は素晴らしく、劇場の空気が震えた記憶がある。全観客がマスク姿の中での初めての演技は、どのくらいやりにくいものだったのだろうか。

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