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思い出のハサミ

20歳
カナダのトロントに留学中のエピソード。


語学学校の同じクラスに
同い年くらいの
サウジアラビア人の男の子がいました。

お調子者で
先生の話を聞かなくて
授業中勝手にトイレに行ったり
スマホをいじったりしてよく注意される子。

いわゆる"ボンボン"かと思われる
おぼっちゃま気質の男の子でした。

ある日
授業で何かのワークがあったんです。

内容はよく覚えてないけれど
紙を切り貼りして英語のゲームをするような
そんな感じ。
(語学学校の英語の授業
意外とそういうの多いんです。)


サウジアラビア人の彼は
ハサミを持っていなくて
たまたま隣の席にいた私は
ハサミを貸したんですね。

そしたらね
貸したまますっかり忘れて
その日は授業が終わっちゃって。

家(=ホームステイ先)に帰ってから思い出し
イヤな予感がしました。

これは一生返してもらえないかもしれない、、、。


大変失礼な偏見ですけど
日本以外の国では
落とし物はほぼ手元に返ってこないイメージがあって。

日本でスマホを落とした外国人観光客の方が

親切な人が拾って警察に届けてくれたお陰で
手元に戻ってきたことを

こんなことってあるんだ!
日本ってスバラシイ!と
大変感動されているのをテレビで観たこともあったから。


翌日
昨日のハサミ返して
と彼に言ってみました。

あ、ごめん
家に忘れてきちゃった
とのこと。

明日は持ってきてね、と私。


しかし次の日もその次の日も

ハサミ持ってきた?

ごめん〜忘れた

の繰り返し。


これはヤバいかも...

やっぱり
サウジアラビア人の彼の感覚では
借りたものは確実に返すという常識はないのかも知れない...

なあなあにされないように
こりゃしっかり言わなきゃ!!!

と変に意地になった私は

語学学校のスタッフの中で唯一の日本人
アユミさんにこのことを相談しました。

絶対に返してほしいんです!
このままうやむやにされちゃうのなんて絶対イヤ!
だって日本だったら絶対返すじゃないですか!?
常識でしょ!?!?

と、久しぶりに日本語で話せて
(語学学校では原則、英語以外は禁止!休み時間も含めて!)
まくし立てるように言いました。


分かった
私からメールしてみるね
と言ってくださったアユミさん。

私をCCに入れて

あれはSunoのとても大事なscissorsなの
だから返してあげてね

って

とても丁寧な長文で送ってくださいました。


それでもやっぱり返ってこないハサミ。


登校したら朝イチで

ハサミは?
ごめん忘れた

がもはや挨拶のように日課になっていました。

(はなから返す気なんてこれっぽっちもなくて
その場しのぎにsorryと言ってるだけなんじゃ...)

という疑念も湧いてきました。



3週間くらい訴え続けたでしょうか。

そうこうしているうちに
彼の帰国の日が近づいてきました。

サウジアラビアまで持ってかれちゃったら
もう絶対返してもらえないじゃん....。

同じクラスの日本人のお兄さんにこぼしたら

そんなに思い入れのあるハサミだったの?
もういいんじゃない?ハサミひとつくらい。
よくあることだよ。

と言われました。


別にハサミに思い入れはないけど
死んだおばあちゃんの形見とかそんなのじゃないけど
ただの100均で買ったハサミだけど

うやむやにされて流されて
泣き寝入りするのが悔しかったの。

日本人はお人好しだから
テキトーに対応しとけばいけるっしょ
みたいに思われるのが歯痒かったの。



そしてとうとう彼の最後の登校日がやってきました。

この日の授業が終われば
彼は飛行機に乗ってサウジアラビアへと帰っていきます。

ドキドキしながら教室に入ると
彼は私の顔を見てハッと何かを思い出し

So sorry
So sorry
(まじゴメン、まじゴメン)

と私がまだ何も言わないうちに謝りました。
本当に申し訳なさそうに。

ああ
今日も忘れちゃったんだ。
もうダメか。
残念だけど諦めるしかないな。
これからは
簡単にものを貸さないようにしよう。
と思いました。


毎日私たちのやりとりを見ていた
同じクラスの日本人のお姉さん
(この方も私と同じすのさんというお名前)

2つあるから一個あげるよ

と言ってご自身が持っていたハサミをくださいました。

大変だったね、と言って。

申し訳なかったけど
ありがとうございますと言って受けとりました。


その次の週
彼の居なくなった教室に
いつものように登校すると

彼と仲が良かったサウジアラビア人の女の子が
私の席にやってきました。

これ、オメッド(彼の名前)から。

そういって渡されたのは
なんと新品のハサミ!!!!

まだ透明のパックを開封していない
おそらくトロントのショッピングセンターで買ったであろう
どでかいハサミ。

彼は最後の最後に私や私のハサミのことを思い出し
自分の帰国前に新しいものを買って
同郷のクラスメイトにことづけておいてくれたのです。


私は感激して
Thank you
Thank you
と何度も言いました。

彼によく伝えてね、とも言いました。



彼はきっと
ずっと気にしていてくれたんだと思います。


返そう返そうと思いながらも
忘れ続けてしまい

それでも帰国直前に
こうまでして返そうとしてくれた。
(私があまりにしつこかったからというのもあると思いますが...)


日本人じゃないから
物の貸し借りはルーズなのかも
なんて安易に偏見を持っていた自分を
深く恥入りました。

と同時に
とても温かい気持ちにもなりました。


諦めずに訴え続けたことも
自分の成長になったし
どこの国の人だからこうだというものでもないという
新たな気づきにもなりました。


この時のハサミは
思い出とともに大切にとっていて
今でも大事に使っています。

左がすのさんから 右がオメッドから


すのさん
オメッド
本当にありがとう。

またどこかで
会えるといいね。


ハサミにまつわる思い出のお話でした🌸

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