ショートショート 完全アウェー

「お前今、お年寄りを馬鹿にしただろ!」
と二十歳ぐらいの男にそう声を荒げられた、
御年おんとし八十歳の僕は、
「なんだ若僧!」
と応戦していき、
戦闘ポーズをとっていく。

とったらば、
二十歳ぐらいの男に
容赦なく石を投げつけられたので、
「最低か貴様!」
なんて怒鳴る僕は、
その攻撃を必死に腕でガードするしかない。

そうすると、
二十歳ぐらいの男は、
「誰が最低だ!」
と怒鳴り返してきまして
「お年寄りを馬鹿にするお前こそが
最低だろ!」
なんて言ってきたのだ。

言われた僕は、
「僕だって、お年寄りな訳だが!」
と訴えるのだけど、
二十歳ぐらいの男ときたら、
「それがどうしたって言うんだ!」
と返してきて、
「お前がお年寄りを馬鹿にしたのは許されない事実だろ!」
なんて言ってきた。

言ってきて更に、
錆び付いた鉄パイプを持ち、
襲いかかってくる。

一体いつの間に鉄パイプを持ってきたんだ。
さっきまで投石してただろ。

と、そんな疑問を持った今、
そんな疑問と共に鉄パイプで容赦なく殴りつけられていく。

それに対して、
僕は必死に腕でガードするしかない。
八十歳相手になんてことを……。
非常に非情な事態だ。

だが、このままやられる八十歳ではない。
このままやられっぱなしじゃ腹が立つ。
なので僕は、襲いかかってくる鉄パイプを恐れずに掴んでいく。
そして掴んだ今、
「オラァ! クソガキ!」
ってな具合に鉄パイプごと二十歳ぐらいの男を投げ飛ばそうとしていく訳だけど、
二十歳ぐらいの男は、
もうすでに鉄パイプを放しており、
今は僕の目にレーザーポインターを当ててきている。

であるが故に、
僕は直ぐ様、目を逸らし、
「なんて野郎だ!」
なんて言うと、
「悪魔みたいな奴だな!」
とも言い、
「いや最早、悪魔だ! お前は!」
と断言してやった。

だがその瞬間、
「悪魔はお前だろ! クソジジイ!」
なんて声が飛んできまして、
何やら辺りが騒がしい。

見回してみると、
そこには大勢のギャラリーが存在していて、
僕と二十歳ぐらいの男を取り囲んでいた。

一体いつの間に取り囲んだんだ。
さっきまで辺りには誰もいなかったのに。

てか、
「悪魔はお前だろ! クソジジイ!」
ってなんでだよ。酷くないか?

と、そんな不満を持った今、
そんな不満を持つのがおかしいのかと言うくらいに僕は罵声を浴びせられていく。

僕の味方をしてくれる声が
ひとつたりともない。
完全に悪者扱いをされている。

ギャラリーの中にいた、
幼い女の子には、
「早くくたばれジジイ!」
なんて罵声を浴びせられて、
とても気分が悪い。

なので僕は透かさず、
その傍らにいた、
その子のお母さんに、
「教育がなってないぞ!」
と注意していき、
「子供に
口汚い言葉を言わせるんじゃないよ!」
と叱りつけていく。

そうすると、
その子のお母さんは、
「すいません」
と謝ってきまして、
「ちゃんと言って聞かせます」
と約束してくれたんだけど、
それも束の間、
その子のお母さんは、
「お兄さん頑張って」
と、お兄さん、
つまり二十歳ぐらいの男を応援していき、
僕には、
「ご臨終願います」
と願ってきた。

いや本当に改めて、
アウェー過ぎるだろと思わざるを得ない。
だが逆に、闘志が燃え上がってきた。
二十歳ぐらいの男をぶちのめしてギャラリーを黙らせてやる。

そう闘志をたぎらせる僕は、
鉄パイプを振りかざし、
「覚悟しろよ、小僧!」
と凄んでいく。

が、二十歳ぐらいの男から苦情が入り、
「武器を使うなんて卑怯だろ」
と言われた。

ギャラリーもそれに同調し、
「そうだそうだ」
ってな感じで、
「正々堂々やれ!」
だとか、
「嘆かわしいジジイだ」
だとか、
「武器を使うなんて恥ずかしくないのか」
だとか、
やんややんや批判が収まらない。

その批判に対し僕は、
「最初に武器を使ったのはアイツだろ」
と思って仕方がないんだけど、
どうせそれを言ったところで、
どうせ僕が理不尽に責められるのだろうから、ここは批判を仕方なく受け止め、
仕方なく武器を捨ててやった。

そして不服ながらも、
「これでいいだろ」
と言い放った僕は、
「かかってこい!」
と声を大にし、戦闘ポーズをとっていく。

が、また二十歳ぐらいの男から苦情が入り、「まだ目があるだろ。今すぐその目を潰せ。
それが嫌ならアイマスクをしろ!」
と言われた。

言われたけれども、
「流石にそれはないだろ!」
と僕は猛反発していく。

しかし、
二十歳ぐらいの男に付いているギャラリーがそれを許してくれるはずもなく、
「呼吸で相手の位置を
感じればいいだけだろ……」
だとか、
「ビビってんのかよ、ジジイ!」
だとか、
「ちょっとは余裕を見せてくれよ」
だとか、
ギャーギャーギャーギャー圧力を掛けてくる。

そこで、
「くそったれ!」
と思いながらも、
「分かったよ」
と腹を決めた僕は、
ギャラリーの圧力に屈してやり、
ギャラリーが投げ込んできたアイマスクを装着してやった。

これで相手の望んだ状態だ。
僕は、
「これで満足か?」
と聞いていく。

そしたら二十歳ぐらいの男は、
「いやまだ、んー、まぁいいだろう」
と渋々納得し、
「本当は手を縛りたかったところだが、
それではただのいじめになってしまいかねないからな」
なんて言ったのだ。

その声を聞いた僕は、
「もう十分いじめだろ!」
と憤慨するのだけど、
その瞬間、
その声を聞いた二十歳ぐらいの男に、
「黙れ! 被害者ぶるな!」
と逆に憤慨されてしまった。

いやでも、普通に考えて僕は被害者だろう。
この場の人間は、
そうは思わないだろうけどさ。
酷い話だよ、全く。

そんな酷い話の続きはと言うと、
四方八方から石を投げつけられている気がしたし、自転車で一回、はねられた気がした。

なので、
流石にアイマスクを取ろうとする訳だけど、「外したら負けだぞ。
信じられないくらいの負けだぞ。
嫌がらせの電話が頻繁にかかってくることになるぞ。家のポストには、虫の死骸や何かの部品が大量に投入されちゃうかもだぞ。
それでも外すのか」
なんて誰かの声が聞こえたので、
一瞬、躊躇した。

したけど、
これ以上痛めつけられるよりはマシだと思い、アイマスクを瞬時に外していく。

すると、
目の前には両手を広げて、
「落ち着け、みんな!
お年寄りは大切にするんだ!」
と叫ぶ二十歳ぐらいの男がいた。

だが、
過激化しているギャラリーは、
もう止められそうにない。
カッターやナイフ、
チェーンソーといった物を持って
僕に襲いかかってくる。

その時、
「じいさん逃げろ!」
と二十歳ぐらいの男に言われたのだけど、
それが僕の最後に聞いた言葉となりました。

ご臨終です。 

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