んっちゅっ・・

唇に触れる柔らかすぎる感触とやや大袈裟なリップ音。

和：朝だよ、おきておきて

ハイスペック幼なじみの聞き慣れた声。

和：おはよ、〇〇大好きだよ

まだ日の浅い彼女から放たれる愛の言葉。

和：はい、ぎゅぅぅー

五感の全てが犯される甘すぎてヤバいハグ。

起き抜けの頭でも一日のピークが目覚めとともに訪れている事は分かる。

最近はもっぱらこうだ。

〇：なぎ/////////

和：ん、なあに？

2度目のキスになりそうなくらい近い距離まで強すぎる顔面がずずいっと寄ってくる。

〇：いつも言ってるけど///

〇：普通に起こしてくれると助かる///

和：嫌だった？

〇：嫌ってわけじゃないけど；；；

幼なじみだったなぎと彼氏彼女の関係になったのは2週間ほど前、いつもの神社での突然の告白だった。

ーーーーーー

和：どうしたら私と付き合ってくれる？

和：これからは毎日好きって言います

和：毎日手繋いで帰りたい

和：毎日ハグとかキスとかしちゃったり

和：今日の分のチューしよ

淀みなく放たれるパワーワードと悪魔的な吸引力に吸い寄せられるように足を踏み出していて・・・

まだ自分の中でも気持ちが整理しきれていないのに・・・

頭では分かっていても距離がどんどん縮まって・・・

鼻のてっぺんが触れる・・・

・・・・・・

・・・・・・

「カアァァァー－！！！」

和：きゃあっ；；；

〇：うわっ；；；

遠くからこっちを見ていた元相方の急接近アンドカットイン。

全身をビクンと跳ね上げて驚いたなぎに満足したのか、黒々とした目でこちらを見据えた後にわさっと飛び立っていった。

・・・・・・

・・・・・・

堂々と田舎町の空を舞う姿が黒い点に変わるまで見送った後に、今の状況をようやく思い出す。

正面を向くと口をパンパンに膨らませてこちらを睨み上げるなぎ。

和：どこ見てんの？

〇：あ、えっと；；；

和：私の事忘れてた？

和：もぉ、いいとこだったのにぃー

和：すっごい邪魔されたぁー

・・・・・・

・・・・・・

たしかに・・・完全にキスする流れだったな///

残念な気持ちと助かったという気持ちが内在して、なんと言ったらいいのか困惑していたんだが

和：んもぉ、なんなのあの子

あの子って・・・

いつまでも口を膨らませているなぎが可愛すぎて耐えられなくなってしまう。

〇：くっ

和：え、なんで笑ってんの

〇：いや、なんでって

〇：くっくくく

和：ねえ、チューは？

ブレーキの外れたなぎの言動も行動も全部が面白くて

〇：くくくぅっつ

和：んもお

〇：ごめんごめん

和：続きは？

〇：っくくく

和：もぅ、明日は絶対するからね！！

幸か不幸か絶妙なカットインのせいで、すっかりそういう雰囲気ではなくなってしまった。

ーーーーーー

そんなやりとりの後のいつもの帰り道。

オレの一歩先を無言で歩くなぎに声をかける。

〇：なあいつまで怒ってるんだ？

・・・・・・

〇：なぎ？

・・・・・・

和：別に怒ってないよ

・・・・・・

和：邪魔が入ったのは〇〇が悪いわけじゃないし・・・

・・・・・・

和：怒ってないけどさ・・・

足を止めて俯いたまま振り返る。

和：ずっと大好きだった〇〇との初めてのチューだったのに・・・

うっ；；；

そんなふうに真っすぐ言われると、なんだか悪いことをした気分になる。

まさかなぎとこんな話をする日がくるとは思っていなかった。

そういえば一緒に帰り道を歩くのも久しぶりだ。

今までは意識してそれを避けていたけど、これからはそうする必要はないんだよな。

そう考えると長年自ら嵌めていた枷が外れたようで、心と身体が軽く感じた。

和：ねえ、チューはまた今度でいいけど

和：私と付き合って・・・くれる？

さっきまで怒っていたのに急に不安そうに見つめてくる。

そういえばそのへんも曖昧になってしまったんだった。

なぎに突然気持ちを伝えられて、オレも勢いでずっと好きだったと言ってしまった。

お互いの気持ちは確認できているとはいえ、釣り合わない現状が変わったわけではないんだが

和：ダメ？

オレはこの顔に昔っからめっぽう弱い。

〇：・・・いいのか？オレで
和：〇〇がいいっ！付き合ってくださいっ！！一生のお願い！！

幼なじみが食い気味で放つノールール甚だしい一生のお願い。

〇：なぎ・・・さすがに使いすぎだろ

和：えっ

〇：何回目だよ・・・

和：なにが？

〇：なにがって；；；くっくくく

和：ええ、また笑うじゃん

〇：ごめんごめん；；；

和：んもぉ、真剣に話してんのに

そう言ってまたぷくぷくと頬を膨らませる。

そんななぎが可愛くて、面白くて、愛おしくて・・・

笑いをこらえつつ返事の代わりに手をそっと握った。

ということでその日のキスは未遂に終わっていたんだが、翌朝から冒頭でお届けした目覚めのキス、アンド愛の告白、アンド甘々ハグだ。

なぎのザ・ファーストチューリベンジはオレの寝てる間に履行されて、その後も毎日続いている。

初めてってそーいうことじゃないんじゃないのか？

贅沢な事を言っているのは重々承知しているが、とにかく毎朝ってのが精神衛生上よくない。

もちろん身体的にも色々と；；；

皆まで言うな。

分かっている。

文句があるなら自分で起きればいいだけの話だ。

だがしかし、

あえて一言言わせてもらおう。

オレは朝がとにかく苦手なのであるっ！！

ーーーーーー

ーーーーーー

△：なあ、今日女の子達とカラオケ行かない？

〇：行くわけないだろ

放課後の教室で悪友に声をかけられてお決まりの対応をする。

△：つれないなあ

〇：あのなぁ、部活だって分かってんだろ。・・・彼女もいるし///

△：分かってるよ、お前が親友より彼女を優先するやつだってことはな

〇：親友だったら誘うな

△：いやぁ、もう断られるの癖になってきたっていうか。寧ろ断られたくて誘ってるまである

〇：ドMめ

△：ふははは、ありがとう。照れるなあ

コイツはチャラ男を地で行くような奴で、オレと正反対なんだが妙にウマが合った。

なぎと付き合うきっかけになったのがコイツとのやりとりスタートだったってのはなんだか気に入らない。

まあ、多少感謝の気持ちが無いわけでも無いんだが・・・

△：しかしほんとにラブラブだよなあ。羨ましい

〇：ラブラブって；；言ってて恥ずかしくないのか？

△：なあ、なぎちゃんとどこまでいったの？

〇：はぁあ！！

△：毎朝手繋いで登校してるくらいだから、もうキスくらいしてんのかと

〇：す、するわけないだろっ///

こういうとこ妙に勘が鋭いんだよな；；；

本当は毎日っていうか、毎朝してるわけだし・・・

〇：あと学校来る時は手繋いでないぞ；；；

△：来る時は？

〇：と、とにかく；；；袖を持たれてるだけで//////

△：なんだそれ、ちゃんと手繋げよ。なぎちゃん可愛そうじゃん

〇：いや、さすがに手繋いで登校ってないだろ。朝は人目につくしさ

△：そうか？付き合ってんだからいいじゃん

〇：そうだけど・・・なぎがけっこうその辺アクセル踏みっぱなしだから・・・

〇：元々変な風に噂になって、ある事ない事言われてたからさ

〇：オレもそれに合わせちゃったらさすがに

△：・・・まあ痛いカップルだとか色々言うやつもいるかもなぁ

〇：オレはともかく、なぎが変な風に言われるのは嫌なんだよ

△：ふーん、ほんとは手を繋ぎたいけど、なぎちゃんの為に我慢してるって事か

〇：別にそういうわけじゃ

△：で、部活帰りはそう人も多くないし、手繋いで帰ると・・・

〇：わ、悪いかよ//////

△：別にー。気にしすぎだと思うけどな

〇：まあ・・・オレもそう思うんだけどさ・・・

△：それにしてもお前ってほんとなぎちゃんの事好きだよな

〇：なんだよ、それ。付き合ってるんだからそうだろ；；；

△：そうなんだけどさ。それだけ一人の事を大切に思えるってすごいなって思うのよ、オレなんかはさ

急に真っすぐな目をしてそんな事を言ってくる悪友。

△：なあ、なぎちゃんの一番好きなとこってどこ？

〇：は？

△：オレ、そういうのよく分かんないんだよなぁ

コイツは全女子をすぐ下の名前で呼べる社交性オバケみたいなやつだけど、

根は真面目だし女の子を傷つけるような事は絶対にしない。

今だってからかってるわけじゃなくコイツなりの悩みがあるんだろう。

〇：一番って結構難しいだろ///

△：そーなのか？

〇：いっぱいあるし///

△：ほう

〇：でもまあ、しいて言うなら

〇：・・・まっすぐなとこ・・・かな///

△：だってさ、なぎちゃん

ん？

このパターンってもしかして；；；

恐る恐る振り向くと、

なぎの強すぎる顔面がまっすぐ視界に飛び込んできた。

【続く】