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幼なじみの蓮加#1【登校】


「お兄ちゃん、起きて。遅刻しちゃうよ」

今日も蓮加に起こされて家を出る。
最近はもっぱらそうだ。

「行ってきまーす」
2人で電車に乗って、高校に通う生活ももう1カ月ほどになる。

「シオリさん、おはようございます」
『おはようございます、久保先輩』

「おはよう、2人とも相変わらず仲いいねぇ」

『いやいや、腐れ縁ですから』
「ぶーー、なにその言い方」
これでもかというほど頬を膨らませている。

蓮加とは家が近所で親同士が知り合いだったことから、
昔からよく一緒にいた。
まあ、ほんとの兄弟みたいな感じだ。

蓮加はいつも「お兄ちゃん」となついてきたし
中学に入ってからもその感じは変わらなかった。
オレはなんとなく恥ずかしくて距離をとるようにしていた・・・

高校に入ってからはさすがに会う機会は少なくなっていたが、
蓮加も同じ高校に入学する事になったのだ。

入学式の日にわざわざ家まで制服を見せに来て、
「じゃーん! どう?高校生の蓮加。これからまた一緒だね」
といった彼女はすっかり美少女になっていた。

『そうだね・・・』

「ぶー、それだけー?
 似合ってるよーとか、綺麗になったねーとかないの?」

本当はすごく可愛いし、大人になったと思ったが、
気の利いたセリフは言えなかった。

それからしばらく会う事はなかったが、
新学期が始まって1カ月ほどたった時、昼休みに廊下で蓮加に会った。

「あっ、お兄ちゃん」

『おぉ、蓮加そろそろ学校慣れた?』

「うん、大丈夫・・」

笑顔ではあったが、いつもの蓮加で無いことがオレにはわかった。
ちょっと先行ってて、友人にそう告げると
『蓮加ちょっと時間いい?』

「うん、いいけど」

自販機で蓮加の好きなジュースを買って中庭の階段に腰かけた。

『ここけっこうお気に入りの場所なんだ、静かでいいでしょ』

「そうだね。急にどうしたの?」

『蓮加最近なんかあった?オレでよかったら話してみてよ』

蓮加は一瞬驚いた表情を見せたが、すぐに目を潤ませた。

だめだ、ここで泣いたらお兄ちゃんに迷惑かかっちゃう。
なんとか涙をこらえようとしていたら、ふいに頭にポンとされた。

「大丈夫だよ、話せる?」

なんでこの人はわかるんだろう
大好きな優しい表情で言われて私は泣き出してしまった。
お兄ちゃんは少し驚いていたけど校舎側から見られない様に
壁になって私が落ち着くのをずっと待ってくれていた。

しばらくして落ち着いてから
私は人生で初めて朝の満員電車で痴漢に会い、
怖かったが誰にも相談できずにいた事。
毎朝電車に乗るのが不安な事をお兄ちゃんに話した。
驚きつつも落ち着いた表情で聞いてくれた。
小さいころからずっと好きだったお兄ちゃんに
こんな事を言うのはすごく恥ずかしかったけど
気づいてくれた事が本当にうれしかった。

いじめとか友人関係で何かあったのかと思っていたのだが、
予想外の事実に驚いた。
蓮加に怖い思いをさせた奴は絶対許せない、
オレが守らないと、と思った。
幼馴染として。

『蓮加、明日から一緒に登校しよう』

「えっ!」

中学の時になんとなく距離をおかれている事を感じていた私は
お兄ちゃんに無理させてるんじゃないかと心配だった。

「でも、そんな迷惑かけられないよ」

『なにいってんだよ、じゃあ明日8時に家の前でいい?』

「いやでも・・・」

『いや?』

「ううん、そんなわけないよ。でも・・・
 ほんとにいいの?」

『当たり前だろ』

「ありがとうお兄ちゃん・・・」

やっぱりお兄ちゃんは優しいな、
でもちょっと申し訳ない・・・
でも一緒に登校できるのはうれしい・・・
いろんな感情があふれて大変だったが
そこからお兄ちゃんと一緒に登校する生活が始まった。

最初は蓮加がお兄ちゃんの家の前で待ってる感じだったが
3日目には私に気づいたおばさんが「ちょっと入って待ってて」と
お茶をだしてくれた。

お兄ちゃんは寝起きが悪くて、蓮加が毎日ちょっと待つ感じ
痴漢の事は心配かけるだろうからって、
親にも言ってないしお兄ちゃんも黙ってくれているみたい。
きっかけはどうあれ、一緒にいられるのは結構うれしい。

『いつもごめん、おまたせ』
と言って2階からおりてくるお兄ちゃんを
みることができる。

電車は時間を少しずらして反対側の端っこに乗るようにした。
もちろんお兄ちゃんと一緒だからあれから痴漢にあってないし、
少しずつ不安も薄れてきた。
ただ結構車内はいつも混んでいるのでお兄ちゃんと密着する事があって
心臓によくない。
この間なんて壁ドンみたいな格好になって
心臓の音がきこえてしまうんじゃないかと不安だった。
1年近くあまりあっていなかったけど、お兄ちゃんはすっかり大人びた高校生になっていた。

一緒に登校するようになって蓮加も少しずつ
不安がなくなってきているのがわかる。

最初は恥ずかしい気もしたが、
事情が事情だけにそんな事をいっている場合じゃなかった。
2度と怖い思いはさせたくないし、蓮加を誰にも触らせたくない。
多少恥ずかしいくらいがなんだという話だ。

ただ電車の中はいつも混んでて蓮加と結構密着する。
あらためて彼女の成長を感じてしまう。
身体つきとか表情とか、それが毎日オレの心臓にはよくない。
この間なんて急ブレーキの時に壁ドンみたいな格好になってしまい
「お兄ちゃん、大丈夫?」
と上目使いに至近距離で言われ、
正直可愛すぎて死ぬかと思った。
彼女は幼馴染の兄みたいに慕ってくれているのに・・・



移行できずすみません。
続きはアメブロで。


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