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幼なじみの咲月#1【我慢できない】

咲:これでよしっと!!

洗面所に立てられた2本の歯ブラシを見て満足そうに笑う。

◯:何それ?

咲:何って歯ブラシだよ

◯:それは分かる。誰のだって話

咲:私のに決まってるじゃん

◯:いらないよね・・・

咲:えぇ、お泊まりの時とか・・・

◯:泊めません

咲:けち・・・

不満そうに頬を膨らます咲月。

◯:いいから持って帰んなさい。使う事無いんだから

咲:じゃあ使わなくていいから、置くだけ置いといて

◯:はあ?

咲:魔除けっていうか・・・虫除けっていうか・・・

◯:いや、意味がわからん

咲:初めての一人暮らしは危険がいっぱいなんだよ!!

◯:はあぁ?

咲:◯◯みたいなカワイイ系男子は肉食女子に即捕食されちゃうんだからっ!!

◯:カワイイって;;;オレいくつ年上だと思ってんだよ;;;

咲:5歳しか違わないじゃん

◯:いや、5歳しかって;;;

確かに世にいる年の差カップルからしたら5歳差は大した事無いのかもしれないが、家が近所で子供のころからずっと知っている5歳の差は大きい・・・


話は数時間前に遡る。

社会人生活も徐々に慣れてきて、諸々の事情もあり実家と職場の間ぐらいで一人暮らしをする事に決めた。

朝一で動いて、引っ越し業者の方を送り出して程なく、インターホンが鳴る。

なにかの勧誘とか営業とかだろうか。

警戒しながら応答ボタンを押すとまだ馴染みの無い部屋に、馴染みのある明るい声が響く。

咲:◯◯ー、来たよー

◯:咲月?

咲:◯◯ー

カメラ越しにニコニコと手を振る咲月。

咲:引越しの手伝いに来たー

◯:ていうか、住所・・・母さんに聞いたか・・・

咲:うん!◯◯の事よろしくねーって

はあぁ・・・

そんなこんなで押しかけ手伝いにしっかり手伝われて、ある程度荷ほどきを終えた。

荷物が多いわけではなかったが、初めての一人暮らしで実際に助かったのは間違いない。

そろそろ休憩するかと思ったところで、洗面所でごそごそやってるなーって思って、様子を見に行くと

咲:これでよしっ!!

ビッと指さし確認でご満悦の咲月。

という事で、冒頭の件に戻る。


◯:そんなのいらないからな;;

不自然な2本目の歯ブラシを指さして、片付けを促す。

咲:誰か部屋に呼ぼうとしてる?

〇:は?

咲:今彼女いないでしょ;;いないよね?

〇:まあ、いないけど・・・

咲:私が〇〇の彼女になるんだから・・・

真っすぐにオレを見据える咲月に、思わず言葉を飲む。

5歳年下の咲月とは家が近く、同年代が近所にあまりいなかったのもあって小さいころはよく面倒をみていた。

年も離れているのでオレは可愛い妹みたいな感覚でいたんだけど、咲月はいつだってオレに真っすぐに好意を伝えてきた。

私が〇〇の彼女になる!!って最初に言われたのはいつだっただろうか。

その度に咲月が大きくなった時に彼氏がいなかったら、立候補するかなーなんて笑ったりしていた。

大人になったらパパのお嫁さんになるみたいな類の、所謂若気の至りというやつだと思っていたんだが、
まさかこれだけ長期間拗らせるとは・・・

高校時代に初めてできた彼女と一緒にいた時に、当時小学生の咲月に会った事があった。

その時の咲月の表情は忘れられない。

顔を歪めて、軽い挨拶をしたら逃げるように走っていった。

彼女からは、あの子絶対〇〇の事好きだよね、なんて言われたりした。

程なくしてオレは彼女から別れを告げられるんだが、咲月の目を見て何か思う所があったらしい。

まあ、昔の話だが・・・



咲:ねえ聞いてる?

ノスタルジーに浸って、今の状況を忘れていたらしい。

咲月にじーっと見られていた事に気づく。

咲:もう私子供じゃないよ

〇:・・・・

咲:5歳差なんてなんでもないじゃん

〇:いやいや;;;高校でいい相手見つければいいだろ;;;

咲:私は彼氏がほしいわけじゃないの、〇〇がほしいんだよ!!

〇:あのな;;;ほしいって;;;

年下の幼なじみからの情熱的な言葉に困惑する。

これが同い年だったらこんなふうに悩まなかったんだろうか。


それでも・・・

悲しませるのは本意じゃないけど、咲月の為にもはっきりしておかないと

〇:咲月・・・

・・・・・・

〇:咲月の事はもちろん好きだし、好意を持ってもらえるのは純粋に嬉しいよ

〇:でも、咲月はまだ高校生だし。そういうふうに見る事はできない・・・

・・・・・・

・・・・・・

〇:だからごめん

・・・・・・

・・・・・・

咲:わかった

・・・・・・

・・・・・・

咲:私の事は好きだけど、高校生だからダメって事だよね

〇:んっ?なんかちょっと違うな;;;

咲:じゃあ卒業するまで付き合うのも、お泊りするのも我慢するっ!!

〇:なんでそーなるっ;;;

咲:でも遊びに来るのはいいよね?

〇:いや、男の一人暮らしの部屋にってよくないだろ;;;

咲:大丈夫。パパもママも〇〇の事大好きだし

〇:そーいう事じゃなくて。付き合ってるわけでもないのに;;;

咲:じゃあやっぱり今すぐ彼女にして!!

やりとりは昔のそれとさほど変わらないはずなのに、今の咲月はもう子供に見えなすぎて困る。

小さい頃から何度も気持ちをぶつけられて、咲月もそのうち勘違いだと気づくだろうと高を括っていたけど・・・

ここまで続くって事はオレが思ってたよりも深刻だったのかもしれない。

いったいどうしたらいいんだろうか・・・

・・・・・・

・・・・・・

咲:〇〇?

・・・・・・

・・・・・・

咲:ねえ

・・・・・・

・・・・・・

咲:怒った?

・・・・・・

・・・・・・

咲:迷惑?

・・・・・・

・・・・・・

咲:なんか言って・・・

〇:え?

咲月の悲痛な声で、自分が険しい表情をしていた事に気付く。

顔を上げると、不安そうな表情の咲月と目が合う。

・・・・・・

・・・・・・

咲:ほんとに迷惑だと思ってるなら、遊びに来るのも我慢する

・・・・・

咲:嫌われちゃうのは嫌だから・・・

〇:咲月・・・

咲:でもさ・・・

咲:これからも好きでいるのはいいよね?

涙を浮かべる咲月の愁いを帯びた表情に内蔵をぐわっと掴まれる。

咲月はいつだって真剣だった。

昔から知っている近所の年下の女の子。

ずっとそう思っていたけど・・・

咲月の真剣な気持ちに一度向き合う必要があるのかもしれない。

今は自分の気持ちもよく分からないけど、

少なくとも咲月にこんな顔をさせたいわけじゃない。


〇:わかったよ・・・

少しでも安心させたくて咲月の頭に手をポンと乗せる。

咲:えっ!!

〇:遊びに来るのはいいって事な

〇:泊まるとかは無いし、門限までには車で送ってくからな

咲:えぇっ!!送ってくれるの?

〇:当たり前だろ

〇:ここ駅から遠いし、来るの大変だったろ

咲:嬉しい

咲:ずっと助手席乗りたいなーって思ってた/////

!!!

うわっ;;なんて顔するんだ。

そんなに真っ直ぐ感動されても//////

〇:安い中古車ですけど;;;

咲:〇〇の車の助手席がいいの//////

いけない事を考えてしまいそうで、咲月と目を合わせる事ができなかった。




ーーーーーー

咲:送ってくれてありがとう

〇:いや、こっちこそ引越の手伝いありがとな

咲:うん/////

家に着いたのにモジモジして、車から降りようとしない咲月。

〇:どした?

咲:だって勿体ないんだもん。次いつ乗せてもらえるか分かんないし

恥ずかしそうに口を尖らす咲月が可愛くて笑ってしまう。

〇:ぷっ、別にいつでもいいよ

咲:ほ、ほんとっ!!?

〇:あぁ、遊びに来るなら迎えに来るし

咲:えぇっ、彼女じゃないのにそれは悪いよ;;;

〇:別に気にしなくていいけど

咲:い、行くのは自分で行くから、帰りはお願いします/////

急に畏まって、頭を下げる咲月。

グイグイくるとこと、遠慮するとこのギャップに笑ってしまった。



ーーーーーー

翌週の休みの日、昼前にインターホンが鳴る。

咲:〇〇ー、来たよー

〇:あー

いつでも遊びに来ていいなんてつい言ってしまったが、

付き合ってるわけでもない年下の幼なじみと家で何をするのが正解なんだろう。

何もしないのも気まずいだろうし・・・

〇:えーっと、せっかくだからどっか出かける?

咲:えっ;;;そんなのいいの!?

〇:なんだよ、その反応

咲:だって;;;まだ彼女じゃないのに

〇:まだって・・・変なとこ気にするよな

咲:卒業まで色々我慢しなきゃいけないのに、そんな優しくされたら我慢できなくなっちゃうよ;;;

咲:だっ、だからまだデートは我慢する!!!急すぎて心の準備が出来てないし;;;

〇:ははっ、なんだよそれ。別にいいけどさ

〇:まあデートじゃなくてオレが出かける用事に付き合うとかだったらいいんだろ?

咲:う、うん/////

〇:じゃあ、お出かけは今度にするか

咲:・・・嬉しい/////

真っ赤な顔でこっちを見る咲月が可愛くてしょうがなかった。




咲:お部屋随分片付いたね

〇:そーだな、咲月の手伝いのお陰でね

咲:えっと;;;今日はなんか手伝える事ある?

〇:ん?

咲:ちゃんと〇〇に彼女にしてもらえるように頑張りたい!!

咲:卒業までに頑張って〇〇に相応しくなりたいのっ!!

・・・・・・

遊びに来るって言ってたのに、なんだか一生懸命な咲月が愛おしくなってしまう。

〇:そんなのいいよ

咲:えっ?

〇:自分の部屋だと思って楽にしててほしい

〇:休みなんだしさ

〇:頑張らなくていいし、変わる必要もない

〇:いつもの咲月のまんまでいてくれればいいから

・・・・・・

・・・・・・

あれ;;;なんか変な事言ったか?オレ

咲月の顔が真っ赤になってる事に気づく。

・・・・・・

・・・・・・

顔を伏せたままテトテト歩いて来たと思ったら、そのまま体がぴとってくっつく。

!!!

えっ;;;

顔を上げてオレの胸に手を当てたところで、自分で驚いたようにその手を引っ込める。

咲:あっ;;ごめん//////

咲:つい;;;好きが溢れちゃって//////

!!!

うわぁ、こいつ//////

咲:まだ彼女じゃないのに、おさわりはダメだよね//////

〇:おさわりって;;;

咲:あ、でも〇〇が私をさわるのは全然いいからね//////

〇:はあぁ!!?

咲:寧ろさわってほしい/////

〇:さっ、さわるかっ/////

咲:えぇぇー、じゃあさわってもらえるように色々がんばろー

自分の身体をペタペタ触りながらそんな事を言う咲月から、目が離せなかった。





咲:あ、そういえば今度うちに夜ご飯食べに来てって、ママが

〇:えっ!!

咲:なんか久しぶりにちゃんと会いたいからって。パパもママも〇〇の事大好きだから

・・・・・・

知った仲とはいえ、さすがに親として心配するのは当然だ。

さすがに色々食い違いがあるとまずいから、今の状況をちゃんと説明した方がいいだろう。

って何をどう説明するんだ?

咲:大丈夫。まだ付き合ってるなんて言ってないよ

〇:ああ

まだって言うのが、だいぶ気にはなるが・・・

咲:ちゃんとお付き合いを前提に遊んでもらってるって言ってるから

〇:いや、待て;;;それだいぶ変な感じに伝わってないか?

結婚を前提にと訳が違いすぎる;;;真剣さの欠片も感じないんだが;;;

咲:うーん、大丈夫だと思うけど。卒業まではプラトニック宣言してるし

〇:は?

親に何宣言しちゃってるの?この子は;;;

咲:だから卒業式の日はお泊まりだよって言ってある//////

〇:いや、待て待て;;;オレが全然ついていけてない

咲:そこで/////・・・そっちも〇〇に卒業させてもらうって/////

〇:はぁぁっ!!!そっちもって;;;何言ってんだよっ;;;

脳をフルで回しても追いつかないスピードで話が展開していく。

そもそもオレは咲月と付き合うなんて言った覚えは一切無いんだが;;;

パニックになっているオレを後目にモゾモゾと鞄から何かを取りだす。


咲:んー、ここでいいかな

そう言って本棚の上に勝手にそれを置く。

〇:何それ

咲:やっぱ歯ブラシだけじゃ弱いかなーって

〇:うん、だから何それ

咲:カウントダウンカレンダーだよ!!

咲:ちゃんと数えてきたから

咲:毎日私の事思ってめくってね

そう言って数字を合わせる。

「     」まであと415日

咲:ちゃんと我慢できるかなー

なんてニコニコしながら左端の空白に文字を書き込む。

「初めてのお泊まり♡」まであと415日

咲:これでよしっ!!

ビッと指さし確認でご満悦の咲月。

〇:いや;;こんなの部屋に置いとけるかっ!!

咲:ぶぅー!じゃあ//////こっちで/////

「初めてのエッ・・」まであと415日

!!!

〇:わぁ;;;やめろやめろっ//////

咲月の手からペンを奪い取る。


咲:ふふ、照れちゃって//////可愛いなぁー〇〇は//////

咲:ほんとは今すぐ手を出したいけど/////

咲:ちゃんと我慢するからね//////

真っ赤な顔でそんな事を言う咲月があまりにも魅力的で全身に熱が走る。




「咲月の卒業」まであと415日



我慢するのはオレの方だ。



【続く】



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