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幼なじみの咲月#3【ご褒美】

咲:ねえ、もっと

・・・・・・

・・・・・・

咲:まだやめないで

・・・・・・

・・・・・・


玄関先でもうどれくらいこうしているだろうか。

ふにゃふにゃに緩みきった顔を眺めつつ、色素の薄い髪を繰り返し撫でる。

咲:えっへへへへぇぇ

咲月があんまり嬉しそうにしてるのでやめ時が分からない。

話は少し前に遡る。




ー-----

ピンポーン

抑揚の無い音が2週間ぶりの来客を知らせる。

咲:〇〇ー、来たよーご褒美ぃー




〇:第一声がそれか・・・

咲:へへへええ

モニタ越しにそんなやりとりをしてから、無事に赤点を回避した咲月を自宅に迎え入れる。


咲:〇〇ー、久しぶりっ!!

〇:ちょ;;声でかいな

今にも飛びついてきそうなのをギリギリ我慢してる様子におかしくなってしまう。

咲月に尻尾があったらぶんぶんまわってるんだろうなあ

そんな事を考えていると自然と右手が伸びていた。

頭にぽんっと触れるとびっくりして固まる咲月。

咲:ふぇっ;;;;

〇:あぁぁ、悪い;;;

無意識に手を出してしまった。

慌てて手を引っ込めようとすると両手で押さえられる。

咲:待って、やめないで

〇:え、ああぁ・・・

・・・・・・

・・・・・・

という事で冒頭の件に戻る。





〇:えぇっと・・・・

〇:もうそろそろいいか?

咲:もうちょっとだけ///お願い///

上目遣いでそんな事を言われて断れるわけがない。

〇:分かったよ;;;





咲:〇〇の手すっごく気持ちよかった///

〇:そか;;;

咲:ふふ、ご褒美いっぱいもらっちゃった///

咲:テスト頑張ったねって、ご褒美に頭撫でてほしかったの

赤点回避したらご褒美って話はしていた。

咲月の事だから無茶苦茶な事は言ってこないだろうとは思ってたけど、予想よりもだいぶ控えめで可愛いらしい要求だ。

〇:ご褒美ってそんなんでいいのか?

咲:うん。すっごい満足!!

ほんとに嬉しそうだからいいんだろうけど、さすがになんかなぁ・・・



〇:たまには外に飯でも食いに行くか?

咲:え、だって;;;まだ彼女じゃないのに

〇:だからご褒美って事でさ

咲:いいの?

〇:ああ、何食べたい?なんでもいいけど

咲:じゃあ駅からここ来る途中の中華屋さん行きたい!!

〇:ん?

咲:分かる?

〇:ああ、そういえばあったっけ

普段あまり意識した事はなかったが、いわゆる町中華ってやつだ。

咲:いっつも気になってたんだ―

咲:さっきもめっちゃいい匂いした

〇:えっと・・・いいのか?そこで

咲:うん、行きたい!!




------

カラカラと入口を開けると、店外に漏れていた独特の香りがより一層強まって食欲を刺激する。

遅めの昼だったので、店内はお店のご夫婦とカウンターにお客さんが数人という感じで落ち着いていた。

奥のテーブル席に案内され、壁に貼られたメニューに目を向ける。

咲:わあぁ、なんか楽しいぃー。メニューいっぱい

〇:そうだな・・・

店内を見回す咲月が楽しそうで、やっぱりたまには一緒に外に出るのもいいなあなんて考えてしまう。



注文を済ませてからあらためて店内を観察すると、ひと際存在感を放つビールサーバーが目を引く。

客の手の届く近さに違和感を感じるが、機能美を追及するとこういう配置になるのかもしれない。

そのうえ宣伝効果も抜群だ。酒呑みであれば思わず注文していたなんて事になるんだろう。

ちゃんと意味があってこの場所に置かれてるんだろうなぁ。



咲:お酒飲む?

〇:え?

咲:見てたから

〇:いや、別に飲みたいわけじゃないから

咲:いいの?我慢してない?

〇:してないしてない、普段からそんなに飲まないし

咲:そういえば〇〇がお酒飲んでるとこ見たことない

〇:そりゃ咲月の前では飲まないよ

咲:えー、飲んでほしい

〇:なんでだよ;;;

咲:〇〇って酔っぱらったらどうなるの?

〇:ん?そんな変わらないぞ、多少口数が多くなるくらいだな

咲:見てみたいなぁ

〇:飲みません

咲:えー、我慢しないでよおー

また上目遣いで言ってくる。


〇:だから我慢してないし、飲んだら咲月を送れなくなるだろ;;;

咲:え、優しい///きゅんっ////

〇:いや、きゅんっじゃなくて;;

咲:私電車で帰るから大丈夫だよ

〇:とにかく飲みません

咲:えぇぇー--、酔っぱらった〇〇見たいー

〇:なんだよそれ;;;

咲:あ、じゃあ私が二十歳になったら一緒に飲んでくれる?

〇:それはまあ、いいけど

咲:やった、嬉しい

文句言ったり喜んだり忙しいやつだ。



咲:最初のお酒って何がいいのかな

〇:強くないやつならなんでもいいんじゃないか?

咲:二十歳の誕生日もお泊りかー、楽しみだなぁー

はあ・・・

〇:あ、でもほんとにいいのか?オレで

咲:ん?

〇:いや、初めてのお酒っておじさんとおばさん楽しみにしてんじゃない?

咲:そういうもんなの?

〇:まあ分かんないけど

咲:大丈夫。パパもママも〇〇の事大好きだし

〇:いやそれ大丈夫な理由になってないぞ

咲:だって私の初めては全部〇〇にもらってほしいんだもん///

〇:変な言い方すんなっ;;;



〇:とにかくオレはその後いつでも付き合うからさ。最初のお酒は親にしときな

咲:えぇぇー-、〇〇とがいいのにぃぃー-

〇:咲月から誘われたらたぶん嬉しいと思うぞ

咲:んぅぅー、じゃあ一応聞いてみる

渋々といった感じで口を尖らせる。

咲月とのこういうやり取りも久しぶりだ。いつもの休日って感じで悪くない。




咲:ねえ、〇〇って酢豚好きなの?

〇:ああ、けっこう好きだけど。咲月は?

咲:私一回も食べた事ないかも・・・

〇:そんな事あるか?

咲:うん。〇〇が酢豚好きなのも知らなかった

〇:オレも咲月が酢豚食べた事ないの知らなかったけど・・・

〇:味見する?

咲:えっ;;;いいの?

〇:全然いいぞ

さつきの変な反応が気になりつつ、お皿を咲月の方に近づける。

咲:えぇっ、違う違う;;;そーじゃなくって;;;

〇:ん?

咲:あーんって////してくれないの?////

〇:は?

顔を赤くしてそんな事を言う。


咲:だって・・・ご褒美できてるんだよ////


〇:いやいや;;;


咲:ご褒美////


ここは引き下がらないのか・・・

いまだにグイグイくるとこと遠慮するとこの線引きが・・・

〇:分かったよ;;

だいぶ恥ずかしい気もするが、こういうのは早く済ませてしまうのが吉だろう。

咲:あぁぁー--////

無防備に開いている咲月の口内が視界に入る。

白い歯の間から微かな舌の動きと喉の奥がチラチラ見えてしまって、いけない事をしている気分になる。

色々考えすぎないようにしながら、自分の箸が咲月の口の中に入っていく様子を見守る。


咲:んうっ、美味しい!!




〇:そか////

咲:もっと前から食べとけばよかった

〇:まあ好きなものが増えてよかったな

咲:これ作れるかな

咲:ねえ、今度酢豚作ったら食べてくれる?

〇:咲月が?

咲:うんっ!!私っ!!

余りにも清々しい返事が逆に不安を募らせる。

〇:料理するんだっけ?

咲:ううん、全然!!

・・・・・・

咲:なんかできる気がする!!

・・・・・・

咲:ほら料理って愛情と勢いでしょ!!

こわ・・・


〇:えっと;;;せっかくだから今度一緒に作るってのはどうだ?

咲:そんなのいいの!?スぺイベだぁぁ//////

ふうぅ・・・とりあえず事故は回避できそうだ。


咲:あ、こっちも味見する?

〇:え・・・

炒飯をすくったレンゲが目の前に差し出される。

咲:はい、あーん

やっぱり・・・

咲:ご褒美////

ご褒美って;;;

咲:あーん

・・・・・・

咲:あぁーん

・・・・・・

咲:あぁぁぁーん

・・・・・・

これはやらないと終わらないやつだ・・・・





咲:めっちゃ美味しかったー

咲:お店のお母さん優しい人だったねー

咲:ふふ、お似合いのカップルって言われちゃったねー

咲:まだ彼女じゃないのにねー

咲:ふへへへ////

お互いにあーんみたいな事やってたからだろと思いつつ、咲月の嬉しそうな表情にこちらも頬が緩む。

〇:期末も赤点回避できたらまた来るか

咲:いいの!?

〇:ああ、美味かったし

咲:やった//////






終始ご機嫌な年下幼なじみと帰り道を歩く。

ふとビルのガラスに映る自分達の姿を見て思ってしまう。

5歳差って大きい差だとずっと思ってたけど・・・

咲月はもう子供に見えないし・・・

こうやって並んで歩いていたら誰がどう見たって・・・


咲:ねえ、聞いてる?

考えに耽っているとぱっと咲月の顔がアップで視界に入ってくる。

〇:ごめん、なんだっけ?

咲:だからぁー

咲:近所に歩いてご飯食べにいくのって、なんか同棲してるみたいでいいよねって言ったの//////

ふっ・・・同棲って

また突飛な事を言い出すなあと思いつつ、妙に納得してしまう自分がいた。

〇:・・・そーだな

咲:ええ、えぇっ;;;

思ってる事をそのまま口にしてみると目を見開いて変な声を出す。

〇:どした?

咲:・・・なんか・・・恥ずかしい////

〇:咲月が言ったんだろ

咲:そ、そーなんだけど;;否定されるって思ってたから;;

〇:急に恥ずかしがられても困るんだが

咲:あ、うん;;;




・・・・・・

・・・・・・



相当恥ずかしかったんだろうか。

咲月と過ごしていて沈黙がここまで続く事はあまり無い。

〇:咲月?

さっきから俯いたままの咲月に声をかけるとゆっくりと顔を上がって・・・


咲:あのさ・・・〇〇

咲:手つなぎたいっていうのは・・・

咲:ダメ・・・

咲:だよね・・・

咲:まだ彼女じゃないし・・・



本日何度目かの上目遣いに内蔵をぐわっと掴まれる。



咲:ごめんねっ;;今の無しっ;;;

咲:困らせたくないし;;;

咲:さすがにちょっと欲張りすぎだよね;;;



ここはグイグイこないのか・・・

咲月の線引きがいまだに、以下略・・・


はあ・・・

咲月の事だから計算でやってるわけはないんだけど・・・

これはずるいよなぁ・・・



咲:あっ;;;

左手をきゅっと掴むと声が漏れてこちらをじぃっと見つめる。

咲:〇〇・・・

〇:どした////////

咲:ふふ・・・なんでも////////

咲:ふふふ////

咲:ふふふふ////

突然ぴょこぴょこ跳ねながら腕をぶんぶんと振りだす。

〇:おいっ;;;

咲:遠回りして帰ろうよ////

〇:はいはい////


咲:ふんふふーん、ふふ・・・

上機嫌で鼻歌まで歌いだす。

さっき子供に見えないって思ったばっかりだけど・・・

こういうとこはまだ子供っぽいというか・・・咲月っぽいというか・・・

それでもこんなに幸せそうな咲月を見られるのは、悪くないというか寧ろ・・・

咲:あ、部屋戻ったらサプライズがあるんだー

〇:へぇー

咲:楽しみにしててね、〇〇

パッチンパッチンとゆっくりめのウインクをたっぷりと繰り返す。

こんだけ何度もやられると少々胃がもたれるなぁ。

もちろん可愛いに決まってるんだが・・・





〇:なあ、咲月

咲:ん?

〇:サプライズって先に言っていいのか?

咲:あぁぁぁーー!!!

〇:声でかいな;;;

咲:今の無しっ;;;忘れてっ;;;;

〇:はいはい;;;

まるで意味の無いこんなやり取りでも、咲月と一緒だと悪くないんだよなぁ////


【続く】




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