幼なじみの咲月#2 【線引き】
咲:うんっしょ、うんっしょ
妙な掛け声とともに咲月の感触が伝わってくる。
咲:ねえ、どう?
〇:ん・・・
咲:気持ちいい?
〇:あー、うんうん・・・
話している間も細い指が首と肩回りを行ったり来たりする。
気持ちよくないわけではないが圧倒的な細さと軽さからなのかマッサージとしては正直物足りない。
咲月には悪いんだけど・・・
咲:うんっしょ、うんっしょ
それよりも咲月がずっと一生懸命なのが可愛くて笑ってしまう。
〇:くっ;;
咲:ねぇー、笑ってんじゃん
〇:いやいや、気持ちよかったよ。ありがとな
咲:もぅー
ぷくぷくと口を膨らませる。
マッサージの終わり方はいつもだいたいこんな感じだ。
なんだかんだ毎回咲月の申し出を受け入れてしまうのは、こういうやり取りに楽しさを感じているからだろう。
やってもらってばっかりで悪いなーと思い、オレもやろうか?と提案した事もあったが、
あっ;;それはちょっと無理かも//////
って顔を真っ赤にして全力拒否された。
オレも咲月に触れるのは緊張するし、色々考えてしまいそうなのでいいんだけど。
咲:ごめんね〇〇
〇:ん?
咲:今はあんまり気持ち良くないかもだけど
咲:いっぱい練習して、いっぱい上手になって、いーっぱい気持ちよくしてあげるからね
〇:変な言い方すんなっ;;;
咲月は5歳年下の幼なじみで、毎週末オレの一人暮らしの部屋に遊びに来る。
と、これだけの情報だと誤解を招きそうなので、一応言っておくがつきあってるわけじゃない。
私が〇〇の彼女になるんだから・・・
最初に言われたのはいつだっただろうか。
咲月はいつだって真っすぐに気持ちをぶつけてくれていた。小さいころからずっとだ。
そんな咲月に先日自分の気持ちを伝えた。
咲月の事は好きだけど、まだ高校生だし、そういう風には見れないと。
悲しませるのは本意ではないが、咲月の為にも区切りをつけないとと思ってそう伝えたんだが・・・
高校生だからダメってことね、じゃあ卒業まで我慢する!!
という事になった。
とんでもない拡大解釈なんだが、咲月の気持ちに一度真剣に向き合う必要があると感じたのは事実で・・・
週末に遊びに来る事についてはOKをだしたというわけだ。
咲月の中では高校卒業と同時に彼女になって、泊りに来る気満々だ。
まあその辺の詳しいところは前の話を読んでもらうとして・・・
〇:たまにはどっか出かけるか?
咲:ええ!まだ彼女じゃないのにデートは申し訳ないよ;;;
〇:いや、デートなんて言ってないんだが;;;
これがよく分からないところだ。
咲月のぐいぐいくるとこと遠慮するとこの線引きが未だに謎だ。
近くのスーパーに食材の買い出しに行ったり、オレの用事に付き合ってみたいのは多少あるが、
半日くらい一緒に過ごすのに、いつも大抵部屋から出ない。
オレとしては咲月と過ごす時間が心地良いので構わないんだが。
あまりにも何もしていないというか、なんというか・・・
わざわざ時間と電車賃をかけて来てる咲月に申し訳ない気持ちはある。
それでも昼くらいに咲月が来て、帰りは車で家まで送っていく。
そんな休日がオレの中で当たり前になっていた。
咲:送ってくれてありがと・・・また来週行ってもいい?
車を降りる前のいつもの確認事項だ。
〇:ああ
咲:やった・・・
安心したように微笑んで車を降りる。
ガラス窓に鼻がつくんじゃないかと思うくらいに顔を近づけて、
咲:〇〇大好き、んぅー、さつきっちゅっ///////////
いつもの必殺技をくらってしまう。
ウインクアンド投げキッスというのはアイドルがカメラに向かってやるもんだと思ってたんだが、
リアルにするのはこの世で咲月だけなんじゃないだろうか。
咲月がやったら可愛いに決まってるんだけど、どう反応するのが正解なのか分からない。
〇:はいはい;;;じゃあな///
いつものように平然を装いなんとも思ってないような返事をして、咲月が三歩下がってからゆっくりとアクセルを踏む。
左折する前にバックミラーに一瞬目を向けると両手をブンブン振っている咲月。
〇:早く家入れよ;;;
・・・・・
・・・・・
〇:また来週か・・・・
助手席の空いた車内で呟くのもいつもの事だ。
咲月を送り届けて家に帰るといつも目を向けてしまうものがある。
部屋の隅でちょこんと鎮座しているカウントダウンカレンダーだ。
「咲月の卒業まであと 日」
咲月が勝手に置いてったもので、正直どういう気持ちで扱っていいのか分からないし、
どうせ気付かれないだろうと思って最初のうちは放置しておいたんだが・・・
^^^^^^
^^^^^^
咲:ねえ、またカレンダーめくってないじゃん
口を尖らせながら1週間分の数字をめくる。
〇:よく分かるな
咲:だって私の部屋にもあるもん
〇:あるのかよ;;;
咲:いい?こういうのは習慣にするのが大事なんだよ
咲:私は毎朝起きたら〇〇の事考えてめくってるよ
それはだいぶ恥ずかしいな/////
咲:だから〇〇も毎朝私の事を考えながらめくってよ
咲:そしたら忘れないでしょ
指をピンと立てて迫ってくる。
近いな;;;顔が//////
〇:わ;わかったよ;;;
このやりとりを毎回やるのも都合が悪い。
次は咲月が来る時に1週間分まとめてめくっとくかなんて思ってたはずなんだが・・・
いつのまにか毎朝歯ブラシを咥えながらカレンダーをめくるのが習慣になってしまった。
こうやって心も部屋も浸食されていくのかもしれない。
そう思ったんだが意外にもカウントダウンカレンダーと魔除けの歯ブラシ以外に咲月の私物が増えるような事は無かった。
意外な事はそれだけではない。
一応オレは咲月の彼氏候補生みたいになっているわけだし、おはようとか、おやすみとか毎日連絡がくるのかと思っていたけど
週末の時間が担保されているからか頻繁にやりとりする事は無かった。
5歳離れているとそういう感覚もギャップがあるのかもしれない。
その分会った時の咲月のテンションというかエネルギーは物凄くて、学校での出来事やらなんやらをとにかく楽しそうに話す。
平日が長く感じるのは誰にも共通する事だと思うが、そんな事もあってよりいっそう週末を強く意識するようになった。
ーーーーーー
咲:でさ、テスト範囲出たんだけど、ほんとにえぐくて
学生にはそーいうのがあるよなーなんて、懐かしく思いながら聞いていたんだけどいつもより真剣な咲月の表情が気になる。
〇:なんか大変そうだな
咲:うん、ちょっとやばいかも
咲:次、赤点とったら留年もあるからって先生に脅されてるの
〇:脅しって;;;
留年は少々大げさに思えたが、咲月なら・・・・あり得るな・・・
〇:本当に大丈夫か?
咲:うん、頑張るけど・・・
咲:過去一のピンチかも・・・
〇:そうか・・・
〇:オレで教えられるなら、見ようか?
咲:えぇ!!そんな悪いよ、〇〇が勉強教えてくれるなんてスペイベすぎるけど;;;
咲:迷惑かけたくないし自分でやるから心配しないで;;
予想はしていたがやっぱり断られる。
本当に咲月の線引きは謎だ。
「卒業するまで色々我慢する。ただし卒業後は・・・」
そーいう制約と誓約でもしてるんだろうか・・・
〇:とにかく来週は来るのやめたほうがよさそうだな
咲:えぇぇえぇえええー;;;;;
〇:ちょ;;どした;;;
思いの外大きいリアクションに戸惑う。
〇:落ち着けって;;;
咲:うう・・・テストの事言わなきゃよかった・・・
〇:いや、そんな事言ったって留年はまずいだろ;;;
咲:あ、うん・・・
咲:わかってる・・・
・・・・・・
・・・・・・
咲:留年するような彼女やだよね
・・・・・・
・・・・・・
咲:えっと・・・
・・・・・・
・・・・・・
咲:ごめん・・・なんでもない・・・
言葉を抑え込むように口をきゅっと結んで俯く咲月。
・・・・・・
・・・・・・
〇:咲月・・・
・・・・・・
〇:思ってる事言ってみ
・・・・・・
〇:別に我慢する事ないから
咲:・・・ほんとに?
〇:ああ・・・
咲:会いに来れないのやだ・・・
咲:だって・・・
咲:ほんとは毎日会いたいんだよ・・・
咲:毎日〇〇の事考えちゃう・・・
咲:会えなくてもおはようとか、お休みとかいっぱい連絡したいけど
咲:まだ彼女じゃないのにダメかなって・・・我慢してる
咲:わがまま言って嫌われたくないし・・・
咲:いつもお邪魔してるけど、ほんとは迷惑に思ってたらどうしようって・・・
咲:〇〇にとっては私はいつまでも子供なのかなって・・・
咲:だって私、彼女らしい事何もできてないんだもん・・・
申し訳なさそうに思いを吐き出す咲月を見て色々と納得する。
そうだったのか・・・
やっぱり我慢してたっていうか、オレが考えてる以上に咲月の中で色々考えてバランスをとっていたんだろう。
そういう事なら迎えに行く事や、お出かけするのをかたくなに断っていたのも納得できる。
もう既に咲月のいない週末なんて考えられなくなっているのに、そういう自分の気持ちを伝えた事は無かった。
そのせいでずいぶん不安にさせてたんだなあ・・・
申し訳ない気持ちと目の前の咲月を愛おしく思う気持ちが飽和する。
〇:あのさ・・・
〇:我慢のしすぎは身体によくないぞ
咲:へ?
〇:これからはオレが毎日連絡していいか?
〇:おはようとかおやすみとか;;;
咲:えぇ、いいのっ??
〇:驚きすぎだろ;;;
咲:だって、そんな事言ってもらえるって思ってなかった
〇:・・・不安だったよな、ごめん
咲:ぜ、全然;;そんな事ないよ;;;だって私が勝手に・・・
〇:あのさ・・・咲月・・・
〇:カレンダーめくるのが一年長くなるのはオレも困るんだよ/////
咲:え・・・
咲:ねえ、それって・・・
咲:ちゃんと待っててくれるってことだよね?
咲:卒業まで/////
〇:まあ、そういう事だから;;;;;
〇:なんでもかんでも我慢しないでいいからな;;;
咲:ほんとにいいの?
〇:ああ;;
急に近づいた距離にドキッとしてしまう。
咲:じゃあ赤点回避できたらご褒美くれる?
〇:ふっ、それハードル低くないか?
咲:私にはだいぶ高いもん!
胸を張って自慢げに言う咲月。
〇:分かった、分かった。それでいいよ
咲:やった!じゃあがんばるっ!!
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咲:送ってくれてありがとう、来週は会えないけどテスト頑張るからね
いつものように咲月を家まで送り届けた車内で名残惜しそうに言う。
〇:ああ、頑張ってな
咲:ほんとに毎日おはようとか送ってもいいの?
〇:いいぞ、もちろん。オレも送るから
咲:うん、嬉しい
咲:ねえ、〇〇・・・
咲:来週会えないから、ぎゅうってしてもいい?
〇:へ?
予想外のアプローチにたじろぐ。
〇:えっと;;;;そういうのはまだ早いんじゃ;;;
咲:するよ///
〇:ちょ;;;
心の準備が;;;
咲月の細い指がゆっくりと近づいて・・・
ハンドルから外された左手がぎゅうっと両手で握られる。
え!!!
あああ;;;;;;
てっきり抱き着かれるのかと思って焦ってしまった。
オレの手を大事そうに握ったまま、お祈りでもするように目を瞑る。
徐々に力が抜けていく両手が離れた後にぱちっと目を見開く。
咲:これで頑張れそうっ/////
〇:ああ;;;そっか;;;
咲:今日もありがと
咲:〇〇大好き/////んうぅーー、さつきっちゅっ/////
いつもより近距離でくらう必殺技の効果は絶大で、
〇:は、はいはいぃっ/////
平然を装った返事がちゃんとうわずった。
【続く】
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