走れ上松メロス(浅野浩二の小説)「走れメロスのような小説です」

植松聖は在日朝鮮人である。
彼は朝鮮学校を出て私設汲み取り屋になった。
日本には、まだトイレが水洗式でない地域があり上松聖はバキュームカーで、そういう地域を回って便壺の糞尿をバキュームカーで汲み取った。
彼は発達障害なので朝鮮学校の発達障害児クラスに入った。
上松は下手糞な小説を書いていたが将来は芥川賞をとって小説家になれると確信していた。
上松は小説を書くと、それをクラスの皆に読ませた。
上松の書く小説は、つまらなく内容のないものなので誰も褒めなかったが上松は極度の誇大妄想狂なので誰も褒めなかった。しかし彼は、
「どうだ。オレ様の小説は素晴らしいだろう。あっははは」
と高笑いして自慢していた。
それ以外でも上松は何事につけ態度がデカかった。
そのためクラスの誰にも相手にされなかった。
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上松と同じ朝鮮学校の発達障害児クラスに佐藤京子という生徒がいた。
彼女も発達障害だった。
佐藤京子は上松に好感を持っていた。
クラスの誰にも相手にされないのに自信満々で威張っている上松が佐藤京子には頼もしく見えたのである。
ある時、佐藤京子は上松の所に行った。そして、
「上松くん。お友達になってくれない」
と言った。上松は、
「おお。いいぜ」
と言って二人は付き合うようになった。
といっても二人の関係は対等ではなく、上松が、佐藤京子に「あれ買ってこい」「あれをしろ、これをしろ」と命令するだけだった。
しかし、佐藤京子には、それが自信に満ちた男のように見えて「素敵。なんて堂々とした人なのかしら」と映って彼女の上松に対する想いは募るばかりであった。
上松も自分に従順な佐藤京子を嫌いではなかった。
というより上松の好きな女性のタイプは自分に忠誠を尽くす女だったので上松は佐藤京子が好きだった。
それに佐藤京子は発達障害で頭は悪いが、とても美人だった。
なにせ韓国女性アイドルグループのNiziUに入らないかと誘われたほどなのである。
上松と佐藤由美子は朝鮮学校を卒業した。
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卒業後。
佐藤京子は「上松くん。結婚して」とプロポーズした。
上松は「おお。いいぜ」と答えた。
上松と佐藤京子の結婚式が教会で行われた。
白髪の牧師が聖書を開いて佐藤京子に向かって厳かに言った。
「佐藤京子。汝、この男を夫とし、その健やかなる時も、病めるときも、喜びのときも、悲しみのときも 富めるときも、貧しい時も、これを愛し、これを敬い、これを慰め、これを助け、その命ある限り真心を尽くすことを誓うか?」
牧師が言った。
「誓います」
京子は顔を火照らせて言った。
次に牧師は植松聖に向かって厳かに言った。
「植松聖。汝、この女を妻として娶り、その健やかなる時も、病めるときも、喜びのときも、悲しみのときも 富めるときも、貧しい時も、これを愛し、これを敬い、これを慰め、これを助け、その命ある限り真心を尽くすことを誓うか?」
牧師が言った。
「おう。誓うぜ」
上松は言った。
二人はエンゲージリングを交換し合った。
これで二人は正式に結婚した。
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結婚後、上松は個人経営の汲み取り屋になった。
日本には、まだトイレが水洗式でない地域があり上松聖はバキュームカーで、そういう地域を回って便壺の糞尿をバキュームカーで汲み取った。
しかし、それだけでは生活が苦しいので上松の嫁となった上松京子もスーパーのレジで働いた。
上松は不愛想な朝鮮人で日本人を嫌っていたので町の人に会っても挨拶せず横柄な態度だったので町の人からは嫌われていた。
そのため上松は町の人から村八分にされていた。
妻の京子は心の優しい謙虚な人間だったので、一軒一軒まわって、土下座して「主人が横柄な態度をとって申し訳ございません。どうか主人のワガママな態度を許して下さい」と泣いて言った。
「あなたは、いい人だな。あなたのような、いい人がどうして上松なんかと結婚したんだ。あんなヤツとは別れて、もっといい人と結婚したらどうだ?」
と町の人は聞いた。
「わ、私。発達障害なんです。主人と同じように。私も知能障害でない普通の男の人と付き合ったこともあります。でも私は発達障害なので何をやってもドジを踏んでしまって、バカヤロウ、このウスノロ、と叱られ続けられて、つらかったんです。私は足し算も引き算も出来ず九九も覚えられませんでしたから。でも同じ発達障害の夫となら、叱られることがありませんから、私、幸せなんです」
と上松京子は泣きながら言った。
「そうですか。可哀想に。あなたは健気な人だ」
と町の人は京子をなぐさめた。
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ある春の日曜日である。
「ねえ。あなた。××神社でお祭りがあるわ。行きましょう」
と京子が言った。
布団の上に寝ころんでいた上松は、「おお。いいぜ」と不愛想に言った。
二人は家を出て××神社に行った。
××神社では色々な出し物をやっていたので二人はそれを見た。
午後5時にお祭りは終わった。
「あなた。お腹が減ったわね。食事しましょう」
と京子が言った。
「おお。いいぜ」
と上松は不愛想に答えた。
二人は近くの中華料理店に入った。
店には誰もいなかった。
上松はメニューを見ていたが、
「オレはラーメンセットにするぜ」
と言った。
ラーメンセットはラーメンとチャーハンのセットだった。
「じゃあ私もラーメンセットにするわ」
と言った。
「おい。親爺。ラーメンセット二人分だ」
上松は厨房にいる親爺に言った。
「はいよ」
10分くらいして親爺はラーメンセットを二人分、テーブルに運んできた。
「うわ。美味しそう。いただきます」
二人はチュルチユルとラーメンセットを食べた。
「美味しかったわね」
食べ終わって京子はニコリと微笑んだ。
金を払って店を出ようと二人は立ち上がった。
そしてレジの所に行った。
京子は、ラーメンセット500円の二人分の1000円札をレジに出した。
そして店を出ようとした。
すると。
「お客さん。料金が足りませんよ。ちゃんと料金を払って下さい」
と言ってきた。
えっ、と京子は驚いた。
「ラーメンセットは500円ですよね。二人分ですから1000円で間違いないのではないでしょうか?」
京子は聞き返した。
「ちゃんとメニューの料金を見たのですか?」
と親爺は聞いてきた。
「ええ。見ましたよ」
そう言って京子はメニューを持って来て開いて見せた。
メニューにはラーメンセット500円と書いてある。
「ほら。間違いないではないですか」
京子は自信をもって言った。
「やれやれ。これが見えないんですか」
と言って親爺はメニューの最後のページを開いた。
最後のページの一番下には非常に小さな字で「料金は朝鮮人は2倍」と但し書きが書かれてあった。
「あんた達は朝鮮人だ。だからラーメンセットの料金は1000円だ。二人分だから、合計2000円だ。さあ。残り1000円払ってもらおうか」
京子はあわてて財布を取り出して中を見た。
財布の中には51円しかなかった。
「おう。そうかい。それじゃあ家に行って1000円、持ってくるぜ」
上松が横柄な口調で言った。
そして二人は店を出ようとした。
すると頬にキズのあるガラの悪い男たちが、3人、出てきた。
おそらくヤクザだろう。
「おっと。待ちな。お前たちがちゃんと1000円、持ってくるという保障はないぜ。何か抵当を置いていってもらうぜ」
そう言われたが抵当になるような物はなかった。
「じゃあ、この女を抵当としてあずかっとくぜ。2時間以内に1000円、持って来な。そうしないと、この女を遊郭に売り飛ばすぜ」
ヤクザが言った。
「く、くそー。わかったぜ。2時間以内に1000円、持ってくるぜ。それまで嫁には手を出すな」
そう言って上松は店を出た。
そして家に向かって走り出した。
上松は村八分にされているので、1000円、貸してくれ、と言っても貸してくれる人はいない。
上松は走りに走った。
家までには、かなりの距離がある。
上松は普段、先天性内反足なので、すぐにハアハアと息が切れた。
その姿を見た人々は、「おい。発達障害の内反足の朝鮮人が走っているぜ」と言って、あっははは、と笑った。
これは、オレを困らせるために町のヤツラが仕組んだ事だと発達障害の上松は気づいた。
上松は走りに走った。
走れメロスのように。
やっとのことで家に着くと上松は豚の貯金箱を叩き割った。
それは妻の京子が、へそくり、としている物だった。
1000円札があった。
上松は1000円札をポケットに突っ込むと急いで家を出た。
「京子。待っていろ。すぐに行くからな」
上松は心の中で言った。
そして中華料理店に向かって走り出した。
それを見た町の人々は「おい。内反足の朝鮮人が走っているぜ」と言って、あっははは、と笑った。
上松は下駄履きだったので走っているうちに下駄の鼻緒が切れてしまった。
切れた時、上松は足首を挫いてしまった。
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その頃、ラーメン屋では京子はパンティー一枚でテーブルの上に乗せられていた。
京子は乳房を見られないように両手で胸を覆っていた。
「ははは。おまえの夫は先天性内反足だ。どう頑張っても2時間以内に1000円もって戻ってくることは出来ないだろうぜ」
そう言ってヤクザ達は京子の髪をいじった。
ヤクザの一人が京子の体に触ろうと手を伸ばすと、
「触らないで。あの人はきっと戻ってきます。私は夫を信じています」
とキッパリと言った。
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上松は片方の下駄の鼻緒が切れてしまったので片足は裸足で立ち上がった。
そして内反足の足でヨロヨロと走った。
裸足で走ったので足からは血がにじみ出した。
捻挫した足首の痛みに耐えつつ。
しかし、ついに力尽きて上松は倒れてしまった。
(すまん。京子。オレはもうダメだ。オレを許してくれ)
上松は心の中で、そう言った。
しかし3分くらい、うつ伏せになっているうちに、上松の心に、あきらめてはいけない、京子はオレを信じて待っている、オレは何としても愛する妻を守らねばならない、という強い思いがこみ上げてきた。
上松は歯を食いしばって立ち上がった。
片足が裸足で血をにじませながら内反足の足でヨロヨロと覚束ない足取りで歩き出した。
何回か、つまづいてしまうこともあったが上松は四つん這いになっても這ってラーメン屋に向かった。
初めは上松を笑っていた町の人々も上松に対する気持ちが変わっていった。
「上松。頑張れ。ラーメン屋はあとちょっとだ」
と応援した。
その応援は上松を力づけた。
上松は上着を脱ぎ、ランニングシャツを脱いで、ランニングシャツを裸足の足に巻きつけた。
そして道端にあった棒切れを持って、それを杖にして必死になって走った。
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「頑張れ。上松」
回りの人々は、みな、上松を応援した。
上松は力の限り走った。
ようやくラーメン屋が見えてきた。
ヤクザ達が腕時計を見て、「さあ。もう1時間59分だ。もう、お前の夫は来れないな」と言った時だった。
ガチャリ。
ラーメン屋の戸が開いた。
上松が息も絶え絶えに入って来た。
入るや否や上松は倒れ伏した。
「さ、さあ。約束の1000円を持ってきたぜ」
そう言うや否や上松はポケットから1000円札をヤクザ達に差し出した。
「あ、あなた」
上松の妻の京子はパンティー一枚の姿でテーブルの上から降りて夫を抱きしめた。
「京子。オレを殴ってくれ。オレは一度、心がくじけそうになって、お前を見捨てようと思ってしまったのだ」
上松はすまなそうに言った。
「いいの。あなた。あなたも私を殴って。私も一度あなたは約束を守ってくれないのではないかと疑ってしまったの」
京子は泣きながら言った。
上松も妻を力強く抱きしめた。
それを見たラーメン屋の親爺やヤクザ達も晴れがましい思いになっていた。
「上松。すまなかった。お前の態度がデカいから、お前に意地悪をしたんだ。お前は約束を守るいい人間だ。悪質な意地悪をした俺たちを許してくれ」
ラーメン屋の親爺が言った。
こうして町の人々は上松を村八分にすることをやめた。
上松と妻の京子は町の人たちと仲良く暮らしている。



2024年2月1日(木)擱筆

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