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高知県の人口から考える2

先日の投稿では、高知県の人口減少について高知県や国立社会保障・人口問題研究所の統計を引き合いに出しながら論じてみた。

今回は、人口減少の要因、すなわち結婚の数(婚姻数)や、結婚の増加を図る上で重要と思われる男女比のバランスについて考えてみたいと思う。

いくら少子化対策として子育て支援を拡充し出生率を改善しても、婚姻数が少なければ出生数が大きく増えない。つまり、人口減少に歯止めをかけることができないからだ。男女比のバランスを取りあげたのは至極単純な理由で、異性の相手が十分いなければ出生につながる結婚の数を増やすことが出来ないからだ。

1. 高知県の女性の生涯未婚率

高知県の人口減少を考える上で重要な指標がある。それは全国の中でも目立つ生涯未婚率の高さだ。生涯未婚率とは、以下のように定義される。

生涯未婚率: 50 歳時点で一度も結婚をしたことのない人の割合

様々な事情で未婚でも子どもを持つ家庭も存在するが、今の日本においては結婚した後に子どもを授かる家庭が主流であるため、人口の自然増に繋がる出生数の増加を図るためには、まず婚姻数、特に出産適齢期の女性による婚姻数を増やす必要があるが、この点において高知県には厳しい現実がある。

以下の記事において、独身研究家でコラムニストの荒川和久氏が2020年の国勢調査をもとにした生涯未婚率を推計している。それによれば、高知県の女性の生涯未婚率はなんと全国1位の20.3%。2位は東京都20.1%、3位は北海道19.2%、4位は大阪府18.5%、5位は京都府18.4%。ちなみに男性の生涯未婚率も28.0%と全国で5番目に高い。

出典: 週刊女性Prime記事
https://www.jprime.jp/articles/-/23101?display=b
出典: 週刊女性Prime記事
https://www.jprime.jp/articles/-/23101?display=b

男性の生涯未婚率上位には、高知と同様、人口減少や過疎化の問題に直面している東北地方の県が並ぶのに対して、女性の生涯未婚率には東京や大阪など大都市を有する都道府県にまじって高知県が登場するため異様に感じる。

なぜ高知県はこれほどまでに女性の生涯未婚率が高いのか。同記事の中でニッセイ基礎研究所の人口動態シニアリサーチャー、天野馨南子さんは以下のように分析している。

「結婚が集中する年齢は20代後半。そうした若い女性の多くが故郷を離れ、東京などの都市部へ移り住んでいます。実際、高知県ではコロナ前の10年間で男性の1・5倍の女性が県外へ流出超過しているのです。適齢期の女性がいなくなるわけですから、当然、新規の結婚が発生しづらくなります。

出典: 週刊女性Prime記事
https://www.jprime.jp/articles/-/23101?display=b

後述するように、若い女性は、特に高知県の過疎地域において極端に少なくなる。そして、男女比のバランスが崩れ男性に対して女性の数が少ないため、周囲には候補すらいないという現実がある。

国立社会保障・人口問題研究所は、2021年に「現代日本の結婚と出産-第16回出生動向基本調査報告書-」を発表した。同報告書によれば、25-34歳の結婚意思があるのに結婚しない独身者にその理由をたずねたところ、「適当な相手にまだめぐり会わないから」の選択率がもっとも高かった。男性は43.3%、女性は 48.1%もの人が適正相手の不在を理由に挙げている。

国立社会保障・人口問題研究所「現代日本の結婚と出産-第16回出生動向基本調査報告書-」https://www.ipss.go.jp/ps-doukou/j/doukou16/JNFS16_ReportALL.pdf

本調査は全国調査であるため、必ずしも高知県の実態を表しているとは言えない。しかし、ミクロな情報や後述する高知県の人口統計を見ていると、さもありなんと思えてくる。

実際、いの町在住の知人から聞いた話では、室戸市(人口: 10,708人)に住む男友達が女性に出会うことが全くないため、「いの町(人口: 20,302人)は女性が多いだろうから紹介して欲しい」と頼まれたらしい。統計的に見れば、彼の行動は正しいと言えるのかもしれない。2023年12月1日時点で、室戸市は20-39歳までの女性人口が407人しかいない。一方、いの町は1,284人と3倍以上いる。

政府の方針を見ていると、少子化対策として合計特殊出生率に注目し子育て支援を拡充する動きが目立つが、高知県に限って言えばもとの母数である婚姻数が絶対的に少ないため、出生率を大きく改善しても人口増加には大して寄与しない。その認識があるためか、高知県は高知県であいサポートセンターを通して地道に男女の出会いや結婚をサポートしている。マッチングイベントなども頻繁に開催しているので、興味ある方は以下のリンクから参考にして欲しい。

2. 15歳-44歳以下の人口(高知県全体)

少子化問題を解決し人口減少を食い止めるには、出生数を増やすしかない。そしてそのためには、婚姻数をまず増やす必要性があるということをここまで確認した。

それでは、高知県において、将来子どもを持つ世帯になる得る15-44歳以下の人口はどのくらいいるのだろうか。また、この年齢層における男女比のバランスはどうだろうか。

なお、この年齢幅に絞ったのは、合計特殊出生率が計算対象とする女性が15歳以上49歳以下であること、そして現実的に考えて未婚から妊娠に至るまでの時間を考慮すると、現時点で45歳以上の場合、出産に至るケースは多くはないことを想定したからである。

まず、高知県全体の15-44歳の人口(5歳階級別)と男女比を以下の表にまとめてみた。

表1: 高知県庁HP「高知県推計人口」より筆者作成
https://www.pref.kochi.lg.jp/soshiki/121901/t-suikei.html

上記の表とその他のデータを組み合わせると、気づけることがいくつかある。

  • 段階的に男女共に人口が減少している。例えば40-44歳は男女合計で37,562人いるが、25-29歳はその66%の24,620人しかいない。

  • 一方、15-19歳の人口と20-24歳の人口では一見健闘しているように見える。しかし15-19歳の区分に入る県内高校生は県外への大学進学で一気に減少(社会減)するし、県外から県内の大学へ進学した大学生のインパクトが大きいことを考慮する必要がある。

  • 高知大学(国立大学)の情報によると、2023年度の入学者数1,109名のうち、実に76%の842人が県外出身者である。実際のデータではないが単純計算で842人 x 4学年 = 3,368人が県外出身者ということになる。

出所: 高知大学2024入学案内(デジタルパンフレット)
https://www.d-pam.com/kochi-u/2312201/index.html?tm=1#target/page_no=64
  • それでも卒業後に県内に就職してくれたらと思うが、甘くはない現実がある。同大学の情報によると、令和3年度の卒業生の県内就職率は約3割、逆に言えば7割は高知県の外で就職している。私が経営するホテルでも大学生がアルバイトで活躍してくれている。しかし全員が就職希望地は県外だ。未曾有の全国的な人手不足で引く手数多だろう。

出所: 高知大学2024入学案内(デジタルパンフレット)
https://www.d-pam.com/kochi-u/2312201/index.html?tm=1#target/page_no=64
  • 15-19歳と20-24歳の人口についてまとめるとこうだ。

    • 15-19歳→県外の大学に進学する県内の高校生と県内の大学に在学中の県外出身の大学生の一部を含む

    • 20-24歳→県内の大学に在学中の県外出身の大学生の一部を含む。

    • よって、年齢が上がるごとに減少が見込まれる。

  • さて、グラフに再度目を向けてみると、男女比(男性1に対する女性の比率)が年齢を追うごとに低下している印象を受ける。15-24歳は高校生や大学生の影響が大きいので、それらの影響を排除し得る25-29歳の区分を見てみよう。男性1に対して女性は0.9しかいない。30-34歳の区分の0.97と比べると数値がさらに低下している。県外への大学進学後に高知に戻る女性が男性に比べて少ないからだろうか。また県外出身者で高知の大学に進学した人のうち相対的に女性は県外での就職を選ぶ割合が多いのだろうか。それとも一度県内で就職したものの、途中で県外に流出する女性が多いのだろうか。この真因については分からない。

高知県全体の15歳-44歳の人口について、実際の人口統計をもとに分析してきた。高知県では明らかに若年層ほど男性に比べて女性がいないことを確認した。しかし、男女比を見ていると、高知県全体では極端にバランスが崩れているようには見えない。

ここで次に生じる疑問は、これが高知県全域で同様の傾向かどうかということである。自治体別に見たときに、どのような状況になっているのだろうか。

3. 15歳-44歳以下の人口(自治体別)

結論から言えば、高知市を除けば、中山間地域と呼ばれる過疎地域の状況は自治体によって結構異なっている。

絶対数を見れば人口減少の厳しさを一様に感じる一方、男女比、特に若年層の男女比を見れば希望が湧いてくる自治体も少なからず存在する。特に20代の男女比が均等、あるいは女性が上回っている自治体が存在し、なぜこのような状況になっているのか、もう少し踏み込んで分析してみると、人口減少に対する打ち手も変わってくるのかもしれない。

さて、まず下表をご覧いただきたい。高知県の自治体別の全人口、15-44歳の人口(男女別)、そして男女比(男性=1とした場合の女性の割合)をまとめてみた。

表2: 高知県庁HP「高知県推計人口」より筆者作成
https://www.pref.kochi.lg.jp/soshiki/121901/t-suikei.html

なお、恣意的に男女比が0.9以上の自治体を青色、逆に0.8未満の自治体を黄色でハイライトしてみた。これは婚姻数を上げることが出生数を上げるために大事だという議論をしているためで、そのためには男女のバランスが重要だという認識に立っているからである。一部の地域内では、結婚したくても出来ない(結婚以前に適齢期の異性に地域内で巡り会えない)現実がある。

まず、人口という絶対数で確認すると、総人口以上に高知市へ人口が一極集中している。総人口665,114人のうち48%の317,521人が高知市在住だが、15-44歳に限ってみると174,899人のうち52%の92,597人が高知市在住である。しかも男性(51%)より女性(55%)の方が当該数値が高い。

男女比はどうだろうか。高知市は男女比が1.01だ。つまり、男性に対して女性が若干多いということである。さらに高知市に隣接し人口が1万人以上を超える南国市や、人口が1万人以上を保っている宿毛(すくも)市や土佐清水市でも0.9を維持している。

しかし注目すべきは、それ以外の自治体と思われる。過疎地域の中でも状況が大きく異っているからである。例えば、室戸市は男女比が0.66と県内で最も低い。15-44歳の男性が10人いたら同世代の女性が6人ちょっとしかいない。室戸の男性が異性を探すために、室戸市内の友人ではなく他の市町村の友人にお願いするのは合理的な行動と言える。

一方、男女比が実は1.0を超える、すなわち男性より女性が多い過疎地域の自治体が存在する。大豊町1.04、佐川町1.04と15-44歳の女性人口が男性人口より多い。

次の章では、もう少し細かく20代に焦点を当ててみたい。なぜなら20歳未満だと、高校卒業や大学進学を機に地元を離れてしまう可能性が高い。また、婚姻に繋がる可能性が最も高い世代に注目したいからである。

4. 20-29歳以下の人口(自治体別)

以下の表では、先ほどの表と同じ枠組みで、20-29歳の人口(男女別)、そして男女比(男性=1とした場合の女性の割合)を自治体別にまとめてみた。

表3: 高知県庁HP「高知県推計人口」より筆者作成
https://www.pref.kochi.lg.jp/soshiki/121901/t-suikei.html

ハイライトは同じ条件にしている。(男女比が0.9以上の自治体を青色、逆に0.8未満の自治体を黄色でハイライト)

まず、人口という絶対数で確認すると、高知県全体の51,203人のうち55%の28,308人が高知市在住である。男性(53%)より女性(58%)の方が当該数値が高い。15-44歳の年齢層に広げた時よりも男女ともに傾向が強く出ており、特に若い女性ほど都市部の高知市へ集中していると言えそうだ。

男女比はどうだろうか。まず高知市はほとんど状況が変わらない。男女比は0.98とほぼ20代の男女比が均等である。ただし、20代に絞っているので、先述した大学生の影響が強く出ていることには留意する必要がある。(高知大学は主に高知市にキャンパスがあり学生の大半が高知市に居住している)

次に、その他の自治体に目を向けてみると、男女比が一層いびつな自治体が散見される。例えば西部に位置する大月町では15-44歳の男女比の割合が0.70だったが、20-29歳の男女比でみると、その割合が0.39まで低下する。実数を挙げると、男性132人に対して女性は52人である。

同様に、東部にある室戸市は15-44歳の男女比の割合が0.66だったが、20-29歳の男女比が0.43に下がる。室戸市の場合、特に20-24歳の男女の人数が異常と思えるほど差があるため、比率が極端にいびつだ。上記の表にある20-29歳のうち、20-24歳の室戸市の人口は128人、そしてそのうち男性が109人、女性はなんと19人しかいない。この理由は一体何なのだろうか。

一方、人口減少が進んでいる過疎地域において、若年層でも男女比のバランスが均等を保っている地域はあるのだろうか。それがあるのである。例えば、越智町は1.11、佐川町は1.04と15-44歳の女性人口が男性人口より多い。絶対値で見ても、越知町は総人口が2倍以上ある室戸市と20-29歳の女性人口が110人と同じである。また、高知県東部にある奈半利町、田野町、安田町も人口自体は少ないながら男女比が1.0と均衡を保っている。(※ いずれも男女の20-29歳の人数がちょうど等しいが、偶然である)

過疎地域で若年層である20代の男女比が均等、あるいは女性の方が男性より多いというのは興味深い事実だ。ここから先は仮説の域を出ないが、以下の3つの自治体がなぜ20代の女性が相対的に多いのかを考えてみたいと思う。

越知町(1.11)、佐川町(1.04)、日高村(0.98)
仮説(1) 地域おこし協力隊の制度を通した若年層の移住者が多く、地域としても移住者を積極的に受け入れている

「地域おこし協力隊の導入状況」(*1)によれば、上記の自治体では地域おこし協力隊の数が他の自治体よりも相対的に多い印象を受ける。例えば佐川町は34市町村の中で最も多い23人。日高村も19人と2番目に多い。ただし、その中の年齢別の内訳まではさすがに分からないので、20代の地域おこし協力隊が多いという風には断定はできない。

しかしいずれにせよ、これらの自治体は、人口減少に対する危機意識を持っていると同時に、地域として移住者を積極的に受け入れようとする意欲があるため、地域おこし協力隊の獲得に成功しているのではないだろうか。

仮説(2) エリアとして若年層に魅力がある地域になっている
上記の3つの自治体に共通するのは、いずれも仁淀川の流域にある自治体である。仁淀川はとても透明度の高い清流で「仁淀ブルー」を楽しみに多くの観光客が訪れるようになった。前回のnoteで記載したように、流域で若年層が喜ぶ自然アクティビティを提供する業者が増えたし、インスタ映えするスポットが沢山ある。

いつ見ても美しい仁淀川

この点において、仁淀川流域の6市町村とそれらの自治体が加盟する仁淀ブルー観光協議会が果たしている役割は大きいのかもしれない。同協議会はビジョンを以下のように規定している。

地域の方々とともに、「奇跡の清流、仁淀川」=仁淀ブルーというブランドを確立することで、多くの魅力的なコト・モノ・ヒトがある仁淀川流域に交流人口を創出し、地域経済が活性化されている。そのありたい姿を実現するため、仁淀ブルーを起点に、自然・歴史・文化・産業・食・人といったここにしかない価値に訪れる観光客等が満足し、仁淀川流域に、何回も訪れてもらえる魅力的且つ持続可能な観光地域づくりを目指していきます。

出所: 仁淀ブルー観光協議会HP https://niyodoblue.jp/

つまり、ビジョンとして観光消費の拡大や交流人口の創出を掲げ、仁淀川流域の観光プロモーションや仁淀ブルー体験博などのイベントを開催している。

しかし、実はそれだけでなく、若年女性の移住意欲を高めるという点で果たしている役割も大きいと思う。仁淀川流域にエリアとしての魅力を感じ、移住先として選んでもらっているということだ。

上記は私の仮説に過ぎないが、本稿のテーマでもある婚姻数の増加を図る上で重要な若年女性が実は一部の過疎地域においては相対的に多いという事実は注目されるべきだと思う。

4. まとめ

高知県の出生数を増やすためには、まず婚姻数を増やす必要があるが、高知県は生涯未婚率が高い。経済的な理由だけでなく、適正相手の不在という理由が大きそうだ。その意味で高知市以外の自治体、人口減少で特に15-44歳の人口が少ない過疎地域で婚姻数の増加を図ることは現実的に厳しいのかもしれない。

しかしそれも地域によって実情は大きく異なることが判明した。男女比のバランスが極端に崩れている自治体では結婚に至る確率が極めて低い(地域内に適性相手がほとんどいない)と思われる一方で、男女比のバランス、特に若年層の男女比が均等に保たれている自治体では交際や結婚の確率が相対的に高く、今後の移住促進を図る上でのヒントが隠されているのかもしれない。

(*1)高知県 中山間地域対策課 R5年12月1日時点)

https://www.pref.kochi.lg.jp/soshiki/070101/files/2022040600147/file_20231221485821_1.pdf


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