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「そこに山があるから」だなんて、一度も思わなかったけど

「人生で打ち込んだことは何ですか?」

と尋ねられた時、僕はその一つに、高校時代に入っていたワンダーフォーゲル部を思い浮かべる。


知らない人がほとんどだと思うので説明すると、ワンダーフォーゲルとはドイツ語で「渡り鳥」を意味する言葉。渡り鳥のように、自然の中を旅する活動を指す。

ワンダーフォーゲルは文字数が多いので、以下ワンゲルと略します。実際によくこう略されます。

主な活動は登山なので、山岳部と同じような部活だとイメージしていただければ大丈夫ですが、山岳部と違うのは沢登りをしたり夜間歩行をしたりと、より活動の範囲が幅広くなるところ。雪山でスキーをすることもありました。

マイナーな部活だと思っていたのですが、僕の大学にもワンゲルがあって、意外と認知度はある部活なのかなと思っています。野球部とかサッカー部に比べれば、存在感がかなり薄い部活ですが。



そのワンゲルなのですが、僕はこの部活に高校時代、とにかく打ち込んだ。正直なところ、この部活にここまで真剣に取り組むとは、自分でも予想してなかった。

没頭できる何かに出会うのって、案外偶然なんだなって思う。

入部を決めた理由は「自然の中で生活をしていると、視力が回復しそうだから」と、本当にしょーもないもの。高校受験で視力が低下したことを、当時とても気にしていた。



そんな軽いノリで入部したワンゲルですが、入部した後に登山大会というものがあることを知ります。

天気図や読図、登山に関する知識のペーパーテストなど、いろんな項目の合計点数で順位が決まります。

それらの項目の1つに、山登りのタイムを競うものがあります。ほんとに単純なタイムレースのようなもの。山を早く登ったやつが勝ちという、明快な戦い。

僕はこれに高校時代、熱中していました。




入部して最初の方に、学校の裏山を18kgぐらいの荷物を背負って登り、スタートから頂上までのタイムを計測します。僕らの高校は、これを「歩荷」と読んでました。荷物が歩いているように見えるから、この名前がついたのかな?

最初にこの歩荷のタイムを測られるのは、山登りの体力があるかの適性を見るためなんでしょう。

1分おきに1人ずつ順番に校門から出発して、細い田舎道を挟み、裏山に入山していきます。頂上までは本当に個の戦いで、「ファイトー」という声援なんてものはなく、しんどくて辛い山道を孤独に登っていきます。



何も分からないままこの歩荷をやらされて、仕方なく登っていくわけなのですが、あることに気づきます。

僕より先に出発した人たちを、どんどん抜きまくっていたのです。ごぼう抜き。そして息を切らしながら、山頂に到着。タイムを見てみると、同学年で2番目のタイムが出ているではありませんか。

同級生や先輩、先生たちから「お前、山登るの早いな」と言われ、「そうなのかな…」と、なんと反応すれば分からず、人生初めての歩荷を終えました。


「なんか知らんけど、山登りは得意みたいだ」

学校帰りの電車の中、思わぬ特技を見つけた喜びで顔がホクホクしてました。だけど、水泳の方はてんでダメで、泳ぐ能力が山登りに全部持ってかれたのかもしれない。




その後は、どうやったら山登りのタイムを縮められるかに没頭した。

定期的に裏山で歩荷のタイム計測が行われるんだけど、自己ベストが次々に更新されていくのが快感で、練習に打ち込みまくった。

ワンゲル部が考案したメニューには、ランニングや坂道ダッシュ、近くの神社の階段でおんぶダッシュ、筋トレなどなど。

これらの練習メニューをこなしていくわけだけど、僕は自分の中であるルールを課した。2つのルール。それは、


  1. 限界を感じるまで、全力でやること

  2. ひとつめのルールを忘れないこと


これだけ。これを意識してやるだけで、どんどんタイムが早くなっていった。

その時の自分の限界を超えようとすると、自分の体がびっくりして「よし、この負荷にも耐えられるようにせねば」と、成長するからなのかな。

また、ちょうどその頃に成長期を迎え、身長も急激に伸びたことも重なって、タイムはさらに加速していった。


同級生の1人から「〇〇って、いつも限界突破するぐらいの勢いで練習しているよな」と、ついには自分のルールも見破られてしまった。

なんであんなにストイックになれたんだろうと今でも不思議に思うけど、胸を張って「打ち込みました」と言えるものであったことはたしか。

現在はイジられキャラであるが、高校時代にあんまりイジられなかったのは、ストイックさがあったからだと思う。

何かに必死に打ち込んでいる人は、舐められる雰囲気になりませんからね。




そんなこんなで部活にストイックに取り組んでいたわけですが、実のところ登山自体は好きではありませんでした

重い荷物を背負って9時間歩くなんてザラだし、お風呂も毎日は入れないし、テント泊も窮屈。炊飯器なんてないから、米炊きに失敗したシャリシャリのご飯を食べることも頻繁にあった。

山は不便極まりない。


夏休みはもっと過酷で、日本アルプスに位置する3000m近い山を登り、下界に無事帰還してこなくてはならない。5日間ぐらいかけて。

1年生の夏休みに行った白馬岳のことは、特に鮮明に覚えている。


https://ja.wikipedia.org/wiki/白馬岳
景色が最高だったよ!


白馬岳から下山していた時のことなのだが、前日の雨天のせいで山道のコンディションが悪かった。ところところ道が崩れていた。

なので、いつもより慎重に下山しなくてはならず、当初計画していたペースより明らかに遅くなっていた。

そして山行の疲労が溜まっていたからなのか、ひとりの子が足を挫いてしまった。幸運なことに自分の足で歩けるみたいだけど、痛みを庇いながらなので、歩くペースは当然、緩めなくてはならない。



その結果、テントを設営する麓まで降りるのに、なんと12時間もかかった!朝4時ぐらいに出発して、夕方ごろにゴールに着いた。

あの時のみんなの顔は、絶対に忘れない。この世の終わりみたいな顔だった。

「俺、今回の夏山をもってワンゲルやめるわ」と言う同級生も、数人出てきた。(最終的にはみんなやめずに、最後の大会まで力を合わせて頑張りました)

僕もやめたいとまでは思わなかったけど、「なんでこんな苦しい思いをしてまで、山に登っているんだろう」と感じていた。




また、クラスの子たちからにも、「なんで山に登っているの?」とよく聞かれた。

こっちが答える前に、別のクラスの子が「そこに山があるからでしょ〜」と揶揄してくることもよくあった。

山を登る理由に対しての返答に困っていたので、こういうふうに茶化してくるのは、ありがたかったんだけど。



高校3年間、たくさんの山に登ったが、山に登る理由は最後までわからなかった

眠れない時によく山に登る理由を考えていたけど、答えは自分の中で見つからなかった。おかげで、すぐに寝付けることができたけど。

「そこに山があるから」という理由で登ったことも、一回もなかった。「顧問に登れと言われたから」は何回もあるけど。でもこれは山に登る理由としては、不適切。


山に登る理由はわからなかったけど、がむしゃらに打ち込んだあの3年間は、自分の中でかけがえのないものになっている。

あの3年間で身につけた体力は長くまで残っていて、大学に入って久しぶりにランニングした時に、全然衰えてなかったことに驚いた。

そして体幹トレーニングしまくってできた腹筋も、いまだにうっすら残っている。長友の体幹トレーニングの本へ、あの時はお世話になりやした。

長い時間をかけて必死に身につけたものは、簡単には奪われないのかもしれないですね。



でも、入部の決め手になった「視力の回復」という目的は達成されなかった。

着実に視力は落ちていき、今ではコンタクトかメガネがないと、生活できないほどの近視。

山の力を持ってしても、ダメだった。うん、しょうがない。




ここまでの長文に付き合ってくださり、ありがとうございました。

素敵な週末をー。




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