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【遠月 バイトの卒業】

懐かしい未来の夜

一日だけのはずだった。


2022年、7月7日 七夕の日にもともとアルバイトしていた京都の割烹料理屋(じき宮ざわ)の料理人さん(泉さん)と、京都の銀閣寺付近にあるFarmoonのオーナーシェフ(まさよさん)コラボレーションイベント「星まつり」がFarmoonで行われた。

有り難いことに、私はそのイベントのお手伝いとして関わることができた。

その日私は、素朴で温かくて、懐かしい感覚になるのと同時に、この瞬間を生きている実感をし、そして未来へ響く音を聞いた。




高校時代に親からもらった「アリスの美味しい革命」という本は、全米で最も予約の取れないレストラン「シェ・パニース」のオーナー、アリス・ウォータースの料理哲学が載っていて、私のバイブルでもある。その影響もあって、大学では食の学問領域をコーディネートする研究をし、特にスローフード哲学(アリスはスローフード運動の提唱者)と食のアクティヴィズムを専門とする教授の元で学んだ。Farmoonにいると、なぜかそのアリスを感じた。空間や周りの人の感覚が、私が本で見ていた、あの料理哲学に似ていた。というか言葉では表すにはもったいない気持ちになった。そこでまさよさんに「アリス・ウォータースってご存知ですか」と聞くと、「もちろん!キッチンで働いたこともあるよ」とのこと。私は驚きと感嘆に満ちた心境になった。


さらに、Farmoonで「ざら茶」を使って茶粥を作ったりブレンドティーを作ったりしていたことも私の中でぐわっと心を寄せられた要素の一つだ。ざら茶は津和野町という土地で昔から飲まれてきたマメ科カワラケツメイのお茶である。
地域みらい留学という制度を利用して高校時代を3年間島根県の津和野町で過ごした私にとっては、第二の家の味である馴染み深いものだった。しかも、私が高校時代にお世話になった方からご購入されているという。


私はもうその場でまさよさんに、Farmoonに関わり続けたいです!お願いします!と言った。もう少し言葉を選んで、丁寧に伝えるべきだったなあと今となっては恥ずかしい。



そして、この七夕の日から大学卒業までここでアルバイトさせてもらった。



大きな愛で接してくださったまさよさん、スタッフの皆、Farmoonを通じて関わった方、ありがとうございます。

home sweet homeな、ざら茶の茶粥



Farmoonでは、美味しいものを食べて他者と心が重なり合ったり、感情や記憶を五感で共有したりする場面に出会い、私も体験した。そして文化の多様性と継続には、顔が見える関係であることが重要だと学び、そしてその世界に参加し対話することで自分の根っこの部分を取り戻すことができると思った。過去との連続性、記憶との連続性、人と人との繋がりであるすべてが重複して絡み合ったかけがえのない文化。そして目の前にある季節の食材。
何を大切にするのか、その判断をするための学びがあった。



まさよさんの審美眼によって作り出される、料理、空間、空気感は、陽だまりのような温かい優しいハグと、凛とした美しい宇宙がかけ合わさったようだと私は感じている。まさよさんは常に受け身で、これを作りたいから手に入れるのではなく、目の前にある食材からメニューを決めていく。採れたての野菜は目に見て美しいなと思うし、季節で変わる食材の美しさに心が動く。一瞬一瞬を豊かな時間として紡いでいるまさよさんの近くで働けた私は、本当に幸せものである。



まかないのときにも、私のときめきレーダーはいつもMAXで、「わ~~!」とつい踊りたくなる料理を用意してくださり、熱い対話とともに過ごす時間が私にとってかけがえのない時間で、大好きすぎて机にへばりつきたい気分に何度なったことか。まさよさんのまかないで、世界を旅した気分になったり、大原の土地の恵みとパワーを感じたり。瞬間的に魔法が起こり、私の心に触れる食体験であった。



キッチンでみんなで作業をするのもすごく心地よい気分になった。作業中にまさよさんは料理に使う野草や蕾などを少しかじらせてくれて、それで自然の苦みや甘酸っぱさを知った。癒やされたり旬の変化の儚さを感じたりして、刺激された。



私は、あの七夕の夜からFarmoonでたくさんの気づきを得た。



人の機微を読み、純粋に人を想い、感じて動くこと。

心の好きに従って、食べるを 愉しみ、考え、学び、継ぎ、創造すること。


愛溢れるFarmoonでの日々はとても濃くて、幸せだった。

また、戻ってきたい、大好きな場所である。


素敵な御縁に感謝。



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