【読書】恩田陸「黒と茶の幻想(下)」

恩田陸「黒と茶の幻想(下)」を読んだ。上巻は割と好印象であったが、下巻も好印象であった。故に、この一連の物語は自分にとって面白いものであったと言える。以下、ネタバレを含みます。

この1冊は、男女4人が森(屋久島っぽいところ)を歩きながら話す、ただそれだけの物語である。話の中に謎があり、4人で話し合いながらその謎を解決する。さらに、ここでの謎は4人の人間関係と密接に関わっているため、話しながらかつてのもつれた人間関係を思い出さざるを得ない。

では、なぜ4人は森を歩かなければならなかったのか。この1冊において、森が意味するものとは何なのか。そのヒントとなりそうな文章が、小説の最後(P366)に書かれていた。

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「あたしたちは森の中を歩く。地図のない森を、どこへ続くか分からない暗く果てしない森を」

「あたしはこの森を愛そう。木々を揺らす風や遠い雷鳴に心を騒がせながらも、一人どこまでもその森を歩いていこう。いつかその道の先で、懐かしい誰かに会えるかもしれないから。」

「あたしたちはそれぞれの森を歩く。誰かの森に思いをはせながら、決して重なり合うことのない幾つもの森を、ついに光が消え木の葉が見えなくなるその日まで」

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こう書かれると、本作における森とは人生の暗示だったのではないかと思わされる。4人は森を歩いた先に奇妙な形をした木を見たり、また4人のうち1人が森から脱出(飛び降り)しようとする。それでも4人は無事に森から生還し、別れていく。

学生時代は毎日会うことが友人たちとも会うことが稀になり、そして1人また1人と少なくなっていく。それぞれの人生を歩みながら、いつか交差する日には思い出話や近況について楽しく語り合いたいものである。


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