【読書】石田浩・有田伸・藤原翔「人生の歩みを追跡する: 東大社研パネル調査でみる現代日本社会」

「人生の歩みを追跡する: 東大社研パネル調査でみる現代日本社会」という本を読んだ。パネル調査のデータを基にした分析についてまとめられた1冊である。パネル調査とは特定の回答者に対して何年にもわたって繰り返しアンケートに答えてもらうという形の調査であり、調査対象者の数年にわたる変化を追跡できるという点で貴重なデータである。おそらく書籍にまとめられているのはデータから分かることのほんの一部であり、もっと面白い知見も眠っているのではないかと思う。あとがきを読む限り著者は調査データを共有して皆で分析していこうという立場であるので、おそらくどこかにデータがアーカイブされているのではないか。パネル調査のデータの分析は難しそうな気もするが、この本に載っていない知見が発掘されることを祈る。

読んで面白かったポイントは、子どもを持つ前後で給与がどう変化するかということである。出産というイベントの前後の変化というデータはまさしくパネル調査が得意とする所である。分析結果は興味深く、出産がもたらす影響は男女によって異なっていたのである。女性の場合は子どもを持つと給与の伸び率は低下する一方、男性の場合は伸び率の変化は見られないようである。この結果が示唆するのは、夫は子が産まれてからも通常通り仕事をしているのに対して、妻は子育てに力を入れる一方仕事の休暇をとっているということであろう。このことは夫が育児をサボっているということを意味しているとは限らず、本当は育児休暇をとりたいのに取得させてもらえないということを意味しているのかもしれない。いずれにせよ、男女の不平等のようなものがデータで示されているのは興味深いと思った。

力作という印象であった。

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