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小笠原一人旅【旅行記:4日目/後編】

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7月8日 土曜日

【4日目 後編: 夜の片隅で】

① 夏の夕日

宿に戻ると16時半。
シャワーを浴びて、夕日の時間までポメラで旅行記を書く。
この旅ではほんと色んな場所で書いてるけれど、昼間に海を眺めながら書いていることが圧倒的に多い。
あんなに素敵な景色を見ながらこんなえない文章を書けるのも、ある意味才能だと思う。

今日は晴れているから、夕日で有名なウェザーステーションは昨日よりも人が多そうだ。
一眼を肩からかけ、少し早めの17:45に出発した。

長い長い急な登り坂。
道中、昨日ツアーで一緒になった一人旅の女性が汗をかきながら自転車を押しているところに遭遇。
なんか原付乗って楽してて悪いな〜と思いながら挨拶をして、また上で~といったんお別れした。

昨日とはうってかわって、まだ日の入り30分前だというのに結構な人数が集まっている。
空いている場所を見つけて座ったら、隣がたまたま例の昼スーパー&とびうお桟橋で出会った短髪イケメン女性だった。

藤原「あのう、一昨日の21時半頃とびうお桟橋にいました……?」

思い返してみると非常にストーカーっぽい。
でなきゃ高木刑事か少年探偵団である。

「あ! いました~! えっなんで!?」

「……私、隣にすわってたかも……(もじもじ)」

我ながらきもい通り越してこわい。

「そうだったんですね! すごい偶然!」

さわやかな笑顔がまぶしすぎるぜ。
ちなみにお姉さんは仲の良いご友人と二人旅のようだった(迷探偵藤原調べ)。

と、ここで先ほど追い抜いたツアー女性が到着。

一緒に昨日のイルカの動画を見返すなど、なんやかんや大騒ぎしながら日の沈むのを待った。

太陽が海に近づくにつれ、今日こそは水平線に沈むかなーグリーンフラッシュ見られるかなーと、まわりにいる人たちが色めき立つ。

期待した通りにならないと辛いので、私自身は割と悪い予想をしておくタイプなんだけれども、これだけいい天気だと正直ちょっと期待しちゃう。

結果、水面近くに雲が帯状に広がっていて水平線に沈む夕日(通称、海ぽちゃ)は見られなかったんだけども、そこにいたみんなが、

「でもこれはこれで、すごくきれいだよね」

と話しているのがとてもよかった。
雄大な景色の中にいると、自然とおおらかで前向きな気持ちになれるのかもしれない。

太陽の姿がすっかり見えなくなっても、なんとなく余韻なのかその場所に長く留まっている人が多かった。

なかなか暗くはならない。
そんな中、まだ青さを保ったままの空に一番星が出る。

「二番星が出たら帰ろうかな」

と、隣の女性が言う。
実にエモーショナルである。

結局19時過ぎまでウェザーステーションにいて、私は原付、彼女は自転車なのでその場で解散した。

「じゃ、またどこかで」

って、いい挨拶だな。

なんかエモい気分だったのに、帰り道その女性の自転車が爆速で坂を下っていくから笑っちゃった。
少なくともチキン原付の私よりだいぶ速くて、後ろ姿を一瞬で見失った。

小笠原は今回が3回目という一人旅の先輩。
帰りの船でまた会えるかしら。

② 夜の海と水のない川

宿に戻ると、すっかり暗くなっていた。
時刻は19時半。

大の酒好きの私が、昨日今日と飲みに出かけもせず酒を一切絶っているのは、何を隠そう星空観察のためである。

昨日は薄い雲が広がっていたけれど、今日は星が綺麗に見えそうだ。

毎度おなじみ父島パンフ(無料)に、

「父島は、環境省から『星が最も輝いて見える場所』に認定されています」

と書いてあるし、同じく父島パンフ(ヘビロテ)に、コペペ海岸は「近くに民家がないため、夜はスターウォッチングに最適」ともあるので、これは約20分かけてコペペまでドライブしない手はない。

いいですか。
これが正しい離島での過ごし方ですよ!
時代はデジタルデトックスですよ、みなさん!!

……夜風が涼しい。
ほんと気持ちいい。
夏の夜のバイク最高。
ちょっと中型免許取ろうかなって気の迷いも出るくらい。

道にだれもいないし、対向車とも全然すれ違わないし、エンジン音でごまかしながら大声で歌なんか歌っちゃってさ。

てへぺろ。

コペペ海岸は本日三度目なので、道に迷う心配もない。

スムーズに駐車場に到着して、ゴキゲンに鼻歌歌いながら原付のエンジン切って、すんっとライトが消えた瞬間、ヒュッって口から心臓飛び出すかと思った。
人は本当に驚いたとき声も出ない。

えっ、暗すぎん…?
えっ、ちょま……(汗汗)←ドン引き

((しかも全く音しないし静かすぎてこえーっす))

い、いったんバイクのライト付けよう。

よし。
落ち着け。
考えろ。

ここは漆黒の闇に包まれた島の外れの駐車場。
車もバイクも一台も停まっておらず完全に無人である。
近くに民家もない(パンフ参照)。
これはやばい。
私、明かりになるもの何も持ってないぞ。

あ、そうだ確か民宿の部屋の鍵にちっちゃいライトっぽいのついてたな、っておーいっ!電池切れとるやないかーい!
絶対切れてると思ったけど!!

ふ、ふぇ。。
とりあえずヘッドライト消して目が慣れるのを待とう(ぶるぶる)。

……5分経過。

いや、びっくりするぐらい全っ然慣れんし。

これぞ一寸先は闇。

一応、暗順応には自信ニキだったんですけど。。

せっかくだから浜辺に降りたいけど、こんな暗闇の中階段降りるのはさすがに難易度高すぎるよ〜〜

駐車場の木々の間から見える星空だけでもめちゃくちゃ綺麗だし、もうここでよくない?

それからリアルに5分くらい、諦めるかどうか迷った。

—————考えるな、感じろ。

頭の中で声がする。

よし、わかった。
幸い、コペペ海岸に来るのは初めてではない。
地形は完璧に頭に入っている。
昼間に下調べ(結果的に)しといて良かったーー

ってことで、見えない階段を心の目で見つつ、しゃがんだ体勢でシャクトリムシのようにぞもぞと一段ずつ降りる。 
※誇張表現なし

どうにか渡り終えたなと判断し(それもわからんくらいガチで何も見えない)、左に曲がってこの先は確か橋があったぞと、落ちたら大けがだぞと、そんなことを思いながら渡り始めたら向こう岸からチラチラと小さな明かりが近づいてくる。
そしてさやかに聞こえる話し声。

人だ!!!!

私と同じこの時代に生きててくれてありがとう、知らない人!!!!

いやほんと、ほっとした。
私サイドはね。

相手からしたら、真っ暗闇に急に人影みたいなのが現れて、まさか人じゃないよな〜って思ってるうちにそれがゆらゆら近づいてくるんだから怖いわね。

「うわッ!!!
 びっくりした~~~~~
 おっ、おばけかとおもッ……」

「いやあすみません、スマホ水没で故障しちゃって。明かりになるもの持ってないんですよね、へへっ」

「そ、そう…ライトつけてごめんね。気をつけてね……」

あのときすれ違ったご年配の二人組さん、控え目に言ってありがたすぎた。

もしかしたら海岸まで無事辿り着けば他にも人がいるんじゃないか、と淡い期待を抱いたけれど、見事に人っ子ひとりいなかった。

……心細い。

おばけなんてなーいさ、おばけなんてうーそさ
あそこに誰か座って揺れているように見える影もきっとただの岩さ……(涙)

けれどそんな恐怖や不安も、砂浜に立って空を見上げたとたんに吹き飛んだ。

満天の星?

いや、そんなレベルじゃない。
絶対6等星まで全部見えてる。

あまりにも星が多すぎて、明るく輝きすぎて、かすかにでもはっきりと光る小さな星が残像みたいに目の中でちらちらゆらめいてしまうくらい。

なんだろう、すごすぎて上手い例えが思いつかないので、とりあえず仰向けに寝っ転がって夜空を眺める。

すぐに流れ星が流れる。
また流れる。

流星群かと思うくらい、数分に一つは流れるんだが。


父島にいたら何個でも願いごと叶いそう。

     草枕の 我にこぼれよ 夏の星
                                                               正岡子規

子規、わかる。
それな。

広い宇宙の夜の片隅で、星が最も輝いて見える場所で、優しい波の音を聞きながら、一人きりで夜空を見上げている。

あまりに、美しい時間だ。
こういう時間があるから、私は生きていたい。
まだ生きていてよかった。

     夏の浜 旅情をさらう 水無川 みなせがわ
                         藤原心の俳句 

水無川ってのは天の川のことらしいですぜ、お兄さん。
天の川は秋の季語らしいけどね。
神無月もだけど「何かがない」ということをアイデンティティにした言葉、風流で好き。

ところで昨日、カササギたちがのっぴきならぬ事情で来られなかったらしくてさ、さっき遅延証明持ってきて「今からなら橋作れる」って言うから、今日渡らせてあげておくれよ。

いい気分で宿に戻ってから急に思い出したんだけど、アップルウォッチにがっつりライト機能あったわーーーーーーーーーー

くっ。

【4日目  終わり】


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