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小笠原一人旅【旅行記:5日目(最終日)/前編】

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7月9日 日曜日 父島最終日

【5日目 前編: きっと世界の終わりもこんな風に味気ない感じなんだろうな】

①  朝日と夕日

3時30分、今日もアップルウォッチのアラームが鳴る。

人生、二度あることは三度あるという。
毎回これを読んでくださっている変人のあなた方におかれましては「どうせまた起きないんだろ」と呆れていらっしゃるかもしれない。

しかし昨日は22時に寝たので余裕の目覚め。
天気予報も晴れだし、ここで起きない手はない。
三度目の正直の方である。
ギャップ萌え〜(使い方が違います)

不敵な笑みでアップルウォッチのスヌーズを解除。
もう君がいないと朝も起きられない(デジャブ)。
そんなこんなで結局ガジェットに頼り切っているのでありますけども。

顔を洗い、改めてパンフレットの地図を確認する。

朝日の見えるポイントまでは原付で15分強。
まだ一度も通ったことがない道を行かなければならないけれど、この旅で見違えるくらい方向音痴の改善した私ならたぶん大丈夫でしょう。

すっぴんノースリワンピース姿に、念のため日焼け止めだけ塗って外へ出る。
辺りはまだ暗い。ヨシ!

原付に乗って風を受けると、少し肌寒かった。
朝だから気温が低いのか、それともノースリが悪いのか。
自作の「放射冷却のうた」をでかい声で歌うことによって体温を上げる工夫をする。

説明しよう。
私には日頃から即興で作った鼻歌を歌う癖がある。
「そんな歌あるん?」と聞かれて「いや、今作った」みたいなやりとりを繰り返すうち、家族にも(どうせそれも勝手に作ったんやろ)と思われているようで「また変なうた歌っとるわ」と言われることがあるが、そういう時に限ってちゃんとしたアーティストの楽曲だったりする。

思い出せるところで言うと、SEX MACHINEGUNSの「みかんのうた」などがその一例で、ある日化粧しながら、

「みかんみかんみかん!!!」

と、サビを絶叫していたところ、いくら説明しても実際に曲を流すまで実在すると信じてもらえなかった。
なんだかオオカミ少年の気分である。

時を戻そう。

いつも私が通っているのは島の西側の湾岸通りだ。
なぜならば、父島のビーチは全部その道から行けるから。
けれども、残念ながら朝日は東から登る。

ちなみに日の出日の入りの方角を、この歳になっても「バカボンの反対」と覚えている私である。

旭平展望台は、島の中央東側を縦断する夜明道路という非常にそれっぽい名前の道の、北寄りに位置する。
(我ながら方角言えてるのしゅごい)

小笠原ではビーチからの日の出、というわけにはいかなそうだけれど、名前に旭がついているところからして期待大だ。

時刻は4時前。
製氷海岸へ曲がる道の少し先を左に折れて、夜明道路に入る。
徐々に空が明るくなってくる。

道は合っている自信があるものの、いかんせん現在地がわからないところが不安。
まさか標識見逃してないよな〜そろそろかな〜と思って原付を走らせていると「工事中 車両通行止め」の看板が。

んなぁ~
(一本道なのに……?)

近くに座っていた工事担当(たぶん海外出身)の方がおっしゃるには「5時マデトオレナイヨ」とのこと。
4時41分の日の出を見に行くのが目的なので、5時に開くのを待っていたのでは間に合わない。

ウソダドンドコドーン!

夜明けがどんどん近づいてきて焦る私。

……っ。
そんなものじゃ憧れは止められねぇんだ!

ってことで、完全通行止めではなく徒歩なら通れるというから、本当に原付は通れないのかと一応たずねてみた。
あんまり日本語わかんなかったらしく、少し道を先へ進んでトンネルの工事をしている日本人のお兄さん方に聞いてくれている。

結果、ふつうに「原付はいいいすよ~」とのことだったので、お礼を言って通り抜ける。
朝早くからほんとにお疲れ様です、そしていろいろありがとうごぜえます。

みなさんのご厚意により、無事に4時過ぎには旭平展望台に到着。
日の出の4時41分まで貸し切りで、ものすごく美しい朝焼けを堪能した。
憧れ、止まらなくてよかった。
山の中なのでめちゃくちゃ蚊に刺されましたけどね……。
行かれる際は虫除けスプレー必須。

そういえば朝やけと夕やけって、リアルタイムで見ているときは別物なんですよ。

気分のせいかな。

希望にあふれてだんだん明るくなる空と、一日に幕を下ろすように暗くなって行く空。
そのときは確かに、朝やけは朝やけの色をしているし、夕やけは夕やけ色で、それらは全然違う表情をしている。

だけど、あとから空を切り取った写真で見ると全然見分けがつかない。

なんかこれってふしぎ。

蚊に刺されたところがかゆいしそろそろ帰るか、と思ったけど、時はまだ4時45分。
5時まで通行止めという道をもう一度お邪魔するのはさすがに憚られる。

夜明道路を南下すれば、かなり遠回りになるものの街まで戻る道に繋がっていることを地図で確認し、せっかくなので通ったことない道で帰ろ~と、来た道と逆方向にバイクを走らせる。

途中、国立天文台やJAXAの何かの施設(パラボラアンテナみたいなのがあった)を横目に見ながら夜明道路を抜けて、無事に帰宅。
さすがにもうこれで、父島を完全に掌握したといってもよいでしょうよ。

ところで、今日は15時発のおがさわら丸に乗って小笠原にばいばいする日である。

現在5時すぎ。
この島にいられるのもあと10時間。

だがしかし、今は少しねむる。。
(頼んだぞ、朝ごはんの民たち……)

優しい音楽とともにひたすら風景の映像を流しているだけの早朝テレビ番組をつけっぱなしにして、眠りについた。

②  ラストシュノーケル

7時前、起床。

快晴。
夜干しした洗濯物を取り込む作業もだいぶルーティン化してきた。
今日も水着に着替えて寝起き15分で出発。

最終日なので、行ったことのない場所へ行こうと境浦海岸へ向けて原付を走らせる。

境浦海岸は街から10分もかからないし、大通り沿いに駐車場やバス停があって、アクセセスしやすい。
だがしかし、そこから徒歩でだいぶ坂道を下るので注意されたし。
それでも舗装されている分、釣浜よりはいいのかもしれないけれども。

境浦の特徴は、何と言っても沈船である。
濱江丸というかつての軍需物資輸送船を沈めてあり、その周りが漁礁となっているという。

そもそも私がダイビングのライセンスを取ろうと思ったのは、映画タイタニックの冒頭の潜水艇のシーンを見て衝撃を受けたから。
沈船って、なんてロマンがあるんだろう。
廃墟とかもそうだけど、人々の営みの記憶が垣間見える人工物のなれの果て、最高すぎる。

シュノーケルでそれが体験できるとは~

アラート0の境浦。
早速沈船目指して泳ぎ、サンゴに侵食されたように朽ちかけた大きな船のまわりを一周。

軍需物資輸送船ってことは、戦跡でもあるわけで。
役目を終えて、こうして美しい海の中で魚たちのすまいとなっているのってどんな気分だろう。
哲学者サルトルは「物は人間と違って目的が存在よりも先に決まってる」って言ってたけど、そうやって生まれたあとに、本来の目的じゃない風に変化することも美しいというか、芸術ってそういうもんだよな、なんて変に感慨深くなったりする。
自分の息の音しか聞こえない世界にいると、そういうことも考えがちになるのよ。てれてれ。

まあそれはいいとして、ロクセンスズメダイの幼魚が群れになっていっぱい泳いでて、めちゃくちゃかわいかった。
小指の爪くらいの大きさしかないのに、おとなのミニチュアみたいにみんな身体にちゃんとしましまがあるの!

二時間くらいのんびり泳いで、この旅すべてのシュノーケルを終えた。
ありがとう、小笠原の海。

帰るなりシャワーと洗濯をすませ、外に干す。
この分だとすぐ乾きそうだ。

そのあと、昨日のお弁当やさんで無限ピーマンからあげ丼なるものを買って、扇浦海岸でシーカヤックをする人たちを眺めながら食べ、ちょっと感傷的な気分に浸りながらこれを書いているのである。

後編はこちら


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