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小笠原一人旅【旅行記:4日目/前編】

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7月8日 土曜日

【4日目 前編: 海が好き】

①   知らない間に三途の川、渡る

7月8日 土曜日 

午前3時30分、アラームが鳴る。

目を開ける。

……知らない天井だ。

いったん目を閉じる。

うん、民宿やな。

今日の予報は晴れ。
だが起きられず。
無念。

二度寝も2日目ともなると、自分自身の不甲斐なさにも慣れているので、特に言い訳することもない。
しかも、わざわざ一度起き上がってベッド下で充電中のアップルウォッチを手に取り、7時にアラームをセットし直す余裕すらある。
じゃあ起きろよって話である。

7時前。
アラームの鳴る10分前に、またもや朝ごはん民たちのおかげで目を覚ました。
にんげんめざまし。

寝起き早々、性懲りも無くiPhoneの電源を入れようと試みる。

「動け、動け、動け、動いてよ!」

「モニター反応なし。生死不明。」

「iPhone 14proMAX、完全に沈黙。」

「くっ、ここまでね・・・・・・」

一通り脳内劇場を繰り広げたあと、さすがに諦めがついた。
とはいえ目に入ると辛いので、大きな鞄の中にそっとしまう。

さて。

今日はまず、島の人に聞いた絶景ビーチ「コペペ海岸」へ向かいたいけれど、強制デジタルデトックス中の私にグーグルマップ先生の助けは借りられない。
もはや行きの船内観光案内でいただいたパンフレットたちだけが頼りである。
紙の文化、生き残っててくれてほんまおおきに。

「父島」

と表紙に大きく書かれたパンフの中に、簡単な地図が載っていた。
うんうん、なるほどなるほど。

って、そもそも方向音痴なのにこんなざっくりした地図でわかるかーい!!!!
難易度たかいわーーっ!!

完全に自分のせいなのに、ちょっとだけ地図のせいにした。悪いとは思っている。

外に出ると、小笠原の本気を見せつけられた。
まだ8時前なのに、快晴で太陽燦々紫外線じりじり。
昨日のツアーで手の甲がまっかっかに日焼けしてしまったので、シュノーケル用のグローブをつけて原付に乗る。

残念ながら観光協会は営業前だったので、原付を借りた小笠原観光に寄ってみる。

受付にいた古田新太似の方に、
「詳細な地図ないですか」
と尋ねると、島の地図はこの世に父島パンフしか存在しないゼという驚きの回答であったので、こりゃ困ったと、それならばとコペペ海岸への行き方を聞いてみた。

「この道まっすぐ行って、扇浦海岸超えると左手に標識あるのでその通り行けば大丈夫ですよ」

お兄さんねぇ、そりゃ並みの人間ならその説明で十分かもしれないけど、あたしゃドの付く方向音痴ですよ?
その情報だけで辿り着くなんて無理があるってもんですよォ~~

と思ったけれど、さすがにこれ以上人様に迷惑をかけると来世でミジンコに生まれ変わりそうなので、お礼を言って原付にまたがった。

完全に自分のせいなのに、ちょっとだけ古田新太のせいにした。悪いとは思っている。

正直、製氷海岸より先の道はまだ行ったことがない。
どきどきしながら低速でトンネルを抜け、境浦海岸を右に見てまたトンネルを抜け、街から走ることおよそ15分、ようやく扇浦海岸を発見。

きょろきょろしながら走行していると、あった、コペペ海岸の標識!
そこから左に逸れる道に入り、突き当たりまで行くと無事に駐車場に着いた。

ありがとう~古田さーん!
あんた最高だよォ〜

グーグルマップなしで目的地へ到着できたことで、私はなんだかものすごい偉業を達成した気になっていた。

鼻息荒く原付を停めて、シュノーケルセットを手に海岸へ降りる階段へ向かう。

段上から広くコペペ浜を見渡す。

・・・・・・なんかもうね、思わず息を吞むとはこういうことなんだろうなーと思った。

まっさきに頭に浮かんだのは「楽園」という言葉。

仮にも作家を自称しておいて、そんなチープな表現はないでしょうよーと自分でも思うけれども、楽園でなければ天国よ、ここは(頭悪そう)。

(えっ、私知らない間に死んじゃった?
そんで天国来ちゃった?
地獄行きしか身に覚えはないけど天国でFA?
まあいっか、ここがあの世ならなんでも……)
↑景色眺めながら本当にこんなふうに思った

白砂の浜辺+綺麗な海+青空なんて鉄板すぎて絵はがきにしても売れないレベルかもしれないけど、この浜はきっと他のビーチより砂地の浅瀬が多いから、水の色により透明感があって美しいんだと思う。

あと、両側の視界が大きな岩で遮られていて、その間から遠海が見えるの。
それがね、うまくフレームみたいな役割を果たしていてね、まじで絵画っすよお客さん。

でもこれはもうね、実際行かなきゃわかんないわ。

伝わんないわ、全然。

うん。

とりあえずみんな一回父島行っとこう。

「ロケーションは最高だけどシュノーケルは他のところの方がいいかなー」

という島の人の前評判通り、手前は砂地なのでサンゴや魚はちょっと少なめ。
ちょっと潜ってから上がって、ひとしきり一眼で写真を撮ったあと、誰もいない早朝の楽園をあとにした。

次に、お気に入りの宮之浜へ行ってみたけれど、今日は天気はいいものの、満潮に近い&けっこう風が吹いていて(アラート1)海中の状態があまりよくない。
そのせいか人もまばらだ。
この分だと海岸が同じ方向を向いている釣浜も微妙だろうな。

なんか風向き的に製氷海岸いけそうじゃね?
ってことで、来た道を戻って製氷海岸へ。

わっ、今日はまあまあ人がいる!
うれしい!

ここでなんと、前々日に居酒屋でたまたま見かけたお嬢さんを発見。

~再現VTR~

会計を済まそうとレジに向かった藤原、20代前半くらいの女性が店員さんとなにやら雑談しているのを後ろに並んで聞いている。

と思いきや、唐突に割り込む藤原。

藤「もしかして一人旅ですか!?」
お嬢「あっ、いえ、母と二人で来ていて・・・・・・」
藤「アッ。そうですか・・・(しゅん)」
お嬢「ふふ。一人旅なんですか?」
藤「実はそうなんですよ~へへっ」
お嬢「わあ、すごいですねっ」
藤「いやあ、それほどでもォ~」

~再現VTR:終~

てなわけで、

「あのとき出会った方ですよねー」

と製氷海岸で話しかけてみたら、優しいお嬢さんは覚えてくださっていて、これまた優しそうなお母様を紹介してくださった。
お母様から「与論島のマンゴーが美味しい」との情報を得たので、今度行ってみたい。

アラート0の本日の製氷海岸のコンディションは、前回と比べると格段によかった。

波がおだやかで透明度も20~30mある。
赤灯台の方までのんびり泳いでみたら、テトラポットに沿って枝珊瑚がずーっと広がっていた。

だがしかし、今日もハンマーには会えず・・・やはりダイビングするしかないか、無念。

②  センチメンタルの午後

風向きが南風に変わって波が出てきたので、いったん昼休憩にしようと思って街へ戻った。

ロッキンチキンという出店みたいなお店で、タコ飯とからあげ4つを購入。

「今日は暑いね~」

「晴れるとやっぱり陽射しが全然違いますね! いい天気だし、これからコペペでお弁当食べようと思って」

「おっ、最高だね~。南風だから、もしシュノーケルするなら宮之浜がいいかもね」

「そうですね、午前中は微妙だったんですが。風向き変わってきたので午後から宮之浜再チャレンジしてみます!」

みたいな会話をして、おべんと持ってコペペ浜へ向かう。

2回目なので、途中の景色を見る余裕もあった。

境浦と扇浦も海綺麗だな~~
原付、めっちゃ風気持ちいい~~

なんて思いながら走ってたとき、ふいに涙が出てきた。

スマホ、壊れたってことは、やっぱりトーク履歴も消えちゃったのかな。

大切な人とのやりとり、思い出も全部。

すぐに、
(でも、私の胸の中にちゃんとある。大丈夫、いつでも鮮明に思い出せるくらい、しっかり全部残ってる。それで十分。)
と思い直したけれど。

こういう立ち直りの早さは、自分でも割と気に入っている。

これがこの旅唯一のセンチメンタルだった(現時点)。


コペペ海岸は朝と違って、海水浴客で賑わっていた。
きらきら輝く海を眺めながら、さっき買ったタコ飯を食べる。

はぁ~。
なんて贅沢で幸せなひとときなのでしょう……。

そのとき聞き覚えのある声がして振り向くと、なんと昨日ツアーで一緒だった方々だった。
ほんと世間は狭いな~。

お腹がいっぱいになったし、風向きも相変わらず南風なのでシュノーケルしに宮之浜へ向かう。

いや、一日に何回行くねん。
などとお思いでしょうか。
日中は、食べてる時間以外ほぼ潜っております。

宮之浜は思った通り、朝とは全然別の顔をしていた。

海ってほんと、風向きとか日の光とかで全然表情違う。
それがなんとも魅力的だ。

すごく安定していて安心できる人より、ちょっと不安定で何考えてるかわかんない人に惹かれちゃう。
それが女心ってやつでしょうか。
知らんけど。

泳ぐこと10分……まさかのまたサメ。←変に語呂がいい
しかも今日は気付くのが遅くて、5mくらいの至近距離にいる。

君さあ、ネムリブカくんさあ。

前回会ったあと調べたら「日中は岩陰でじっとしている」らしいやん?
そもそも「昼間に岩穴などの海底で眠ったように休んでいることが多いことから」ネムリブカっていう名前ついたんやろ?

せやのになんで、こないだも今日も熱帯魚引き連れてめちゃくちゃ優雅に遊泳してはんの?
アイデンティティ崩壊してはりますよ。
もう君、オキテルヨブカくんやんか。

まあ、今日は一見さんじゃないので、そう慌てることもなくふつうに一緒に泳いだ。
よく見たらおおきいお魚さんみたいでかわいいし、出会えてラッキーだと思おう。

途中、宮之浜でこんだけ綺麗なんだから、今釣浜なんて行ったらやばいんじゃない?

と、ついつい欲が出る。

思い立ったが吉日、原付を走らせて釣浜へ。

もう道に迷わない。
グーグルなんて無くても、紙地図さえなくても迷わない。
自信に満ちあふれている。
私、この島を完全に掌握した。 
※ほぼ一本道の、めちゃくちゃ単純な道路です

釣浜の駐車場から海岸へ向かうジャングルみたいな歩道、大変すぎて正直もう二度と降りることはないと思ってたんだけど。
いやはや人間の欲求というものはおぞましいですね。

階段近くにいる大きなヤドカリたちが、めずらしい来訪者に驚いて、足を引っ込めるはずみで次々と崖下に転落していく。
たぶん少なくとも10くらいは落ちてった。
なんかすまん。

今日も釣浜に人はいない。

でも海の中は、最高のコンディションだった。

水深10mくらいの、広く珊瑚礁に囲まれた場所で、なぜだか急にとてつもない開放感に襲われる。

シュノーケルを口から外し、海の中で大の字になって、しばらく優しい波に身体を預けた。

海低に美しい網目状のコースティクスがゆらいでいる。
珊瑚礁の周りを、カラフルな熱帯魚たちがたくさん泳いでいる。
360°、見渡す限り透明な世界。

すごい、自由だ。

私、とてつもなく自由だ。

こんなに美しい世界で、こんなにも自由だ。

なんてことでしょう。

この旅一番の感動は、この瞬間だった(現時点)。

【4日目 前編、終わり】

後編はこちら

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