鬼のたんじろう

大学生の頃、ワシには「鬼のたんじろう」と呼ばれる知り合いがいた。

でも、多分ワシが馬鹿だからだとは思うが、どうして「鬼」だなんて言われているのかわからなかった。

「あの、たんじろう君はどうして鬼だなんて言われているのかな?」

と、友人に尋ねると、

「は?オメーそんなこともわかんねえの?馬鹿だなオメエ。」

やっぱりワシが馬鹿だからわからなかっただけみたいだ。

一方のたんじろうは、聡明で勤勉で、皆に分け隔てなく優しく、尊敬され、信頼され、慕われていた。

おまけにたんじろうは快活な美男子で、多くの女性から熱い視線を浴びていた。

しかしたんじろうは調子に乗って女遊びをすることもなく、学校やアルバイトが終わると、いつも颯爽と帰宅しているようだった。

きっと家で資格の勉強でもしているんだ、とか、いやいや実家住まいのたんじろうは家事の手伝いを頑張っているんだ、とか、どうせこっそり裏で女遊びしてんだろ、とか、たんじろう君がそんなことするわけ無いじゃないのよ!てめえさらっちまうぞ、とか、皆があーだこーだと噂していた。

あんなに優しく好青年なたんじろうは、どうして鬼だなんて呼ばれているのだろう。

どうしても気になったワシはある日、たんじろうの帰り道をつけていった。

何かしでかすのではないかと見張っていたが、本当に真っ直ぐ家に着いた。

鬼の理由を諦めきれなかったワシは、「ただいまー」と家に入るたんじろうに続き、「お邪魔しまーす」と入った。

たんじろうは自室に荷物を置くなり、別室へ向かった。

ついて行った先は、やけにガーリーなお部屋で、そこには高校生くらいの女の子がいた。

きっと妹さんだろう、と思って見ていると、突然たんじろうが妹さんに怒号をあげた。

「オイコラたんじろう!!てめえまだ宿題終わってねえのか!!宿題は兄ちゃんが帰ってくるまでにやらなきゃいけねえっつったよなあ!!」

「お兄ちゃんごめんなさ」

妹さんが言い切る前に、たんじろうの鋭いボディーブローが妹さんの腹をえぐった。

妹さんは呼吸が止まりながらうずくまってしまった。

たんじろうが鬼である理由がついにわかった。

たんじろうは、妹に鬼のように厳しい男だったのだ。

お兄ちゃんではなく、鬼いちゃんだったってわけ。

ワシは納得ついでにたんじろうに質問してみた。

「たんじろう君。さっき、妹さんのことを『たんじろう』と呼んでいたけど、どうしてだい?たんじろうは自分じゃないか?」

すると、たんじろうは爽やかに答えてくれた。

「ああ、妹の名前は『妹・オブ・ジ・たんじろう』って言うんだけど、ちょっぴり長いだろう?だから家族はみんな、略して『たんじろう』って呼んでいるんだよ。」

なるほど、とワシは頷いた。

さらに質問してみた。

「たんじろう君は、どうしてそんなにも、たんじろうに厳しくするのかな?」

たんじろうは優しい笑顔で答えてくれた。

「ははは、決まっているじゃないか。かわいい妹が大学受験に成功して欲しいからだよ。」

なるほど、とまた頷いた。

たんじろうは、たんじろう想いのナイスガイだったってわけだ。

たんじろうのお母さんが、「たんじろう、たんじろう、ご飯よ〜」と呼ぶまで、たんじろうのボディーブローは続いた。

流石に長居しすぎたなと思い、晩御飯を頂いてから帰ることにした。

あまり口に合わなかったので、一口食べてあとは残して家を出た。

ワシは「鬼のたんじろう」と呼ばれる所以をついに知ることができた。



翌日、友人に言った。

「あの、たんじろう君が鬼呼ばわりされる理由は、妹さんに鬼のように厳しいからだって知ってた?」

「は?オメエ知ってるに決まってんだろ。たんじろうの妹の名前が『妹・オブ・ジ・たんじろう』で、略してたんじろうって呼ばれてることも、たんじろうの母さんの料理がオメエの口に合わないことも、お前以外みんな知ってたわ。馬鹿だな、オメエ。」

うーむ、やっぱりワシは馬鹿だったみたいだ。

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