消毒用ジレンマ

人間というのは、疲れてしまう時がある。
そういう時は、細かいところに神経が行かなくなっている。
コップの水をこぼしたり、足をぶつけたり、コンビニで商品を持ったままお会計せずに店を出てしまったりする。

ワシは疲れて、頭がぼーっとしていた。
とりあえず、何か体力回復できる物を買おうと思ってコンビニに寄った。
入口の側に消毒用アルコールがあったので、ぷしゅ、と消毒した。
消毒したはずが、ぼーっとしていて、「あれ?消毒したっけ?」と思って念のためもう一度ぷしゅをした。
でもぼーっとしているので、また忘れてしまって、またぷしゅした。
ぼーっとしているままでは、何度でも消毒したことを忘れてしまう。
この状態を解消するには、何か体力回復できる物を買わないといけないのだが、買い物をするにはまず消毒をしなければならないというジレンマある。
そのため、何回も何回も消毒を繰り返すハメになり、入口の消毒液は空っぽになってしまった。
空っぽでは消毒しようがないなあと思い、まあ良いかと、消毒せぬままカゴを手に取り、買い物スタートした。

体力回復できるものと言えば、栄養ドリンク以外には考えられないンだわ。
そう思ってカゴに栄養ドリンクを入れた。
でもワシはぼーっとしていて、もう入れてあるのにもかかわらず、またカゴに栄養ドリンクを入れた。
ぼーっとしている状態を解消するためには、体力回復できるものを体内に入れなければならないが、それをするには、まず購入しなければならないというジレンマある。
そのため、何個も何個も栄養ドリンクをカゴに入れるハメになり、栄養ドリンクコーナーは空っぽになってしまった。
空っぽでは購入しようがないなあと思い、まあ仕方ないかと、そのまま退店した。

すると、店員様が追いかけてきた。
「おうい、お客様。お客様は神様か?」
「なぜだ?違うに決まってるだろう。お客様はお客様だ」
「だって、店のものを勝手に取って出て行くなんて、神様くらい偉くないと許されないだろう?だからあんたは神様か?…っていう皮肉がわっかんねえかな?馬鹿」
「…あんた、馬鹿か。神様ってのは、人々から勝手にものを奪っていくどころか、施しを与えるサイドの奴だろう」
「あっ、たしかに!」
「はぁ…もう行ってもいいか?」
「またお越しくださいませ〜」

ワシは重いカゴをぶら下げて歩いていた。
ん、なぜこんなに重いカゴをぶら下げている?と気づいた。
ぼーっとしておるので、少し考えてもよく思い出せなかった。
ひとまず、せっかくこんなに沢山の栄養ドリンクがあるので、一本だけ飲むことにした。
口に近づけたとき、ものすごく消毒用アルコールの臭いがきつかった。
なんじゃこりゃと思ったが、とりあえず飲み干した。
それにしてもこんなに消毒液臭の強い栄養ドリンクはあり得ないと思い、怒りも沸々とわいてきた。
販売元に、クレームを入れてあげることにした。
「はい、こちら栄養ドリンク販売カンパニーの栄養一(さかえよういち)でございます」
「はいどうもです、こちらクレーマーでございます。あのさ、一個言っていい?」
「どうぞです」
ワシはまだぼーっとしているので、クレームをつけてやろうと思ったのに、何を言うか忘れてしまった。
「…えと、その…」
「もじもじせずに言うていただきますようお願いいたします」
「はい!あの、クレーマーなのにクレームの内容を忘れてしまいまして、ごめんなさい!」
「うん。これからはもっと意識を高く持ってクレーマーしてください」
電話を切られてしまった。
まあいいやと思い、もう一本栄養ドリンクを飲んだ。
そのとき、消毒用アルコールのきつい匂いがした。
なんじゃこりゃと思い、クレームをつける必要があると思って電話した。
「はい、こちら栄養ドリンク販売カンパニーの栄養子(さかえようこ)でございます」
「はいどうもです、こちらクレーマーでございます。あのさ、一個言っていい?」
「はいです」
ワシはまだぼーっとしているので、クレームをつけてやろうと思ったのに、何を言うか忘れてしまった。
「…えと、うーん…」
「もじもじせずに言うていただきますようお願いいたします」
「はい。クレーム内容を忘れたので、またの機会にお願いします!」
「しゃんとせえよ」
電話を切られてしまった。
まあいいやと思い、もう一本栄養ドリンクを飲んだ。
そのとき、消毒用アルコールのきつい匂いがした。
なんじゃこりゃと思ったが、体力が回復してきて、頭が
シャキッとしてきた。
とりあえずクレームを入れなければならないので、電話した。
「はい、こちら栄養ドリンク販売カンパニーの木村栄養太(きむらえいようた)でございます」
「はいどうもです、こちらクレーマーでございます。あのさ、一個言っていい?」
「あの、さっきからクレーマーを名乗っておきながらクレーム内容を忘れるということを約2,394回くらい繰り返す人がいて迷惑してるんですが、あなただよね?」
「えっ、ワシったら、そんなことをしてたのですか?いけない」
「はあ。クレームの内容だけでなく己の蛮行も忘れるとは。もう二度とクレームをしないでください、資格なし」
「はい、すみません…」
ワシは怒られてしょんぼりしてしまった。
とりあえず元気を出す為に栄養ドリンクをしこたま飲んだが、栄養ドリンクだけでは、心の元気はなかなか取り戻せないことがわかった。
大人しく自己啓発本でも読むか、そう思って帰宅した。

早速、自己啓発本を開くと、「クレームの内容を忘れるクレーマーになってしまうのがこの世で一番ダメ!そうなるともう救いようがない!」と書かれていた。
ワシは、まじかぁ〜と思った。
落ちるところまで落ちたなぁと思ったら、涙がぽろろと落ちた。
それでも、多分明日はまたやってくる。
たくさん泣いて疲れてしまったので、とりあえず体力回復できるものを買いにコンビニに向かうことにした。

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ワシのことを超一流であり続けさせてくださる読者の皆様に、いつも心からありがとうと言いたいです。