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「ふつう」よりも行きたいところへ

「ふつう」という虚像

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社会人1年目というと、2012年だからもう7年前になる。地元の私大文系に進学し、リーマンショックや震災の余波をくぐり抜け、それなりに就活をしていくつかの内定を貰った。

地元の営業事務の正社員に決まり、大学を出たら就職して結婚、というルートの第一関門を突破したことにホッとした。学生の頃のわたしはなぜだか就職し、数年後に家庭を作るという人生を「ふつう」だと思い込んでいた。そして「ふつう」の人生設計通りにいけるのだろうと信じていたし、なによりそれが自分のしたい生き方なのかどうかすら疑わなかった。

かくして就職した職場は実家から自転車で15分、男性社員が約30人、女性社員が2人、同期の女子がわたしともう一人。社長と、経理の奥様、息子の常務という絵に描いたような中小企業だ。

入社してはじめて向き合った働きかたのこと

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入社してしばらくした頃、社長との面談で「女の子は腰かけだから結婚したら辞めるよね」という趣旨のことを言われてびっくりした。よくよく考えたら、先輩社員は二人とも未婚だ。

またしばらくした頃、定時を大幅にオーバーした時間にミーティングが組まれた。はじめての残業だったけど、当然のように残業申請のやり方を教えられることはなかった。そもそもタイムカードがないのだから、出勤時間を管理していなかったのかもしれない。

ある日会社カレンダーを見ると、6月から8月の土曜日が全て出勤日になっていた。聞けば、夏はある商品の繁忙期なので公休が週に1度なのだと言う。おまけに去年は毎日22時過ぎまで仕事をして、日曜も半日出勤していたと聞いて、さすがに面食らった。

そんなの、激務の会社に比べればなんでもないという人もいるだろう。就活したときにきちんとリサーチしなかったのが悪いと言われればそれまでかもしれない。

結婚をするまでしか続けられなかったとしても、残業代や休日手当がもらえなかったとしても、はじめに聞いていた条件と全然違う!と憤っていたとしても、やりたくて仕方のないことだったら続けていたかもしれない。でも、わたしは自分の働きかたや生きかたよりも、表面的な条件のみを見て就活をしていたのだと、そのときようやく気がついた。

新卒という幻想

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結果から言うと、わたしはその会社を辞めた。その会社への未練ではなくて、人生で1度しか使えない新卒きっぷを捨ててしまったのだということを悔やんだ。

その後、とりあえず就活をやり直そう、と出戻った学生時代のバイト先で社員になり、人に恵まれて働くことの楽しさややりがいを知ることができたのは幸運だったとしか言いようがない。社会人1〜2年目に過ごした職場のおかげで、新卒きっぷへの未練はすっかりなくなっていった。

それからいろいろなことがあったけれど、最終的には見ず知らずの土地に引っ越してギャラリーを手伝うことになってしまうのだから、何が起こるかわからないものだ。そして、それも不可抗力によって思いがけない形で区切りを迎えて、いまはまた名古屋に戻って書くことを仕事にしている。

いまでも思う。

あのとき、2度と手に入らない新卒きっぷを早々に捨ててしまわなかったら、新卒入社というポジションを守るために先のない仕事を続けていただろう。守るべきものが何もなくなった後だったから、思い切って不安定だけどやりたい仕事へと飛び込んで行けたのだ。

学生時代にした就活はいまやっていることにほとんど繋がっていないけれど、紆余曲折を経て、書くことだけは辞めていない。

社会人になってからというもの、仕事もほかのことも継続性がないのがコンプレックスだった。それでも、結局好きなことに関しては離れられずにいるということをときどき考える。そして、飛び込みたいところへは勢いよく飛び込んでしまうのだ。

「ふつう」よりも行きたいところへ

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社会人1年目のわたしへ。就活もそれなりに頑張ったけど、結局30歳近くなってもまだ働き方を模索しています。けれど、それはどの会社がいいだろうということではなくて、どんな働き方がいいかとか、どんな暮らし方をしたいかとか、家族一緒に過ごすにはどうしたらいいかとか、もっとおおきな生き方の模索。

あの頃のわたしが気がついてもいなかった、いろんな生き方の選択肢に触れて、おかげではじめて悩むことができている。正解はないし、自分の人生のロールモデルもない。就職や結婚をしたら目の前の問題から逃れられるわけでもない。仕事やキャリアを考えることは、暮らし方や生き方を考えることとほとんど同じことだと気づくまでにずいぶんと時間がかかった。

もうすぐやってくる30代、どんな働き方をしていくだろう。わたしは、周りの人と一緒に幸せになれる働き方をしたい。その方法については手探りだけど、ようやくわたしなりの働くことの目的が見えてきたような気がしている。

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