今じゃ街でさっぱり見かけなくなったお風呂屋さん、またの名を銭湯。それでも、まだ元気に営業しているところもある。俺はそんな銭湯の壁面を飾る銭湯絵とかペンキ絵と呼ばれる絵を描く職人。銭湯絵の代表は富士山。美しい富士山を見ながら湯につかるのは、日本人の性に合っているのかもしれない。

ある日、銭湯絵を更新する話がきた。逆さ富士を描いて欲しいとのこと。そう言えば、あまり見たり聞いたりしたことがない。めでたいもののはずなのに、描かれないのは構図的に難しいからだろう。俺は考えてみた。

銭湯の壁は広いが、逆さ富士を描くには上下対称に描かねばならない。つまり、キャンバスが半分となる。湖面に映る富士山の一部だけ描くにしても、今までのように、雄大な山の姿をバーンとはいかない。俺は考えた。毎日、七転八倒するくらい考えた。

そして、はたと思いついた。

ここは銭湯、風呂屋じゃないか。風呂の水面に映れば、逆さ富士になる！

［405字］　　　博士出番無し

逆さ富士は、晴れていて水面に波が立たない等、いろんな条件が揃わないと見られないので、運が良いことの象徴らしいです。お風呂屋さんでも、ジャグジー風呂だと逆さ富士は見られないでしょうが、普通の大きな浴槽ならば、入浴しながら水面に富士山を見ることができるはず。（たくさんの人が入っていたらダメだけど）
小さい頃、お風呂屋さんに通っていたことを思い出しながら書きました。クラスにお風呂屋さんの子も二人いたし。誰もいない開店前の脱衣場で大きな鏡を見ながら遊んだこととか、番台に登ってみたりとか… 楽しかったな。

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