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ポランスキーてめえ、またしても出版業界の内輪ネタで生煮えのぬるいスリラー映画観させるんじゃねーよ、という話

前から観ざるを得まいて、と思っていた映画なのでようやく今さら観てきたわけなんだけど、今回は、ポランスキー、おまえ、いい加減にしろよ! こういう生ぬるいスリラーに出版業界ネタを使うんじゃねぇよ!とドツきながら帰ってきました。

とりあえず、2010年公開の『ゴーストライター』でわりと真面目にレビューしたコラムがこちらになります。

でも今回は、「また奥さん(主役のデルフィーヌ役のエマニュエル・セリエ)出してきたんか」とか、エヴァ・グリーン、007以来だけど、一段といい女になっているな、うほ!ぐらいな感想しかもう出ませんよ。

ご存知かもだけど、ローマン・ポランスキーといえば、アメリカではあの悪名高きシャロン・テート惨殺事件を起こしたチャールズ・マンソンのカルトが思い出されるわけで(テートは出産間近の胎児ともども殺されたが、その父親がポランスキー)、ポランスキーはその後、13歳の少女をドラッグ漬けにしてレイプしたとして起訴されてアメリカから逃げ、以後ずっとヨーロッパで映画を撮り続けている。

個人的には、事実婚状態のガールフレンド、ミア・ファローの養女と関係を持ち、挙げ句の果てにはしれっと結婚しているウッディー・アレンと並んで「作品をどうのこうの言う前に、人間としてそれってどうよ?」ということでボイコットしたい映画監督なのだが、ポランスキーの場合、被害者だった少女が成人して後、彼を許すと発言しているのでこれ以上蒸し返すのもどうか、という微妙な位置にいるんで、とりあえず、今回もその辺はひとまず横に置いておくものとするw

で、このD'après une histoire vraieなんですが、英語版のBased on a True Storyというそのまんまでなんの工夫もないタイトルもどうかと思うし、日本語版の「告発小説、その結末」というのも湊かなえ過ぎませんか?という感じがして、好きになれない。映画ポスターに使われている、2つの手でひとつのペンを走らせている絵はけっこうヤバイ二人の関係をうまく捉えていて好きだったんだけど。

冒頭のシーンで、自分の人生に限りなく近い“小説”(日本だと私小説になるだろうけど、英語圏ではメモワールにはならない)がバカ売れして、いろんな女性(男性もチョロっと出てくるけど、私のゲイダーがビンビンに反応しているw)が「このストーリーに救われました」「大ファンなんです〜」と嬉しそうに著者にサインをしてもらっているが、著者は同じことの繰り返しで疲れてて、担当編集者に「早く終わらせて」と耳打ちしている、というシーンがあるんだけど、これってアメリカのブック・エキスポでも、フランクフルト・ブックフェアでもよくある光景なので、とりあえずその臨場感におお!となったわけ。

その後にさらに担当編集者に促されてパーティーに顔出ししたらイタリア語版のジジイ編集者が「一緒に踊ってください」と懐いてくる、なんてエピソードも「あるある!」って感じでww でも今回、ポランスキーになんの必然性もない「name dropping ひどすぎる!」と怒りたくなったのは、主人公の夫で文芸批評家の男性が、「ジョーン・ディディオンとジョン・デリーロとインタビューのアポがとれたから、ちょっくらアメリカに出張してくるわ」とか「ロンドンではイアン・マキューアンに会うよ」「代わりにジェームズ・エルロイをインタビューできることになってね」などと電話で言ってて、2作目が書けずに悶々としている主人公を置いて行ってしまうところかな。

やっぱり、リテラリー・エージェントみたいな、「中の人だけど門外漢」という立場の人間からすると、自分の人生を下敷きにした「自伝っぽい小説で一発当てた」作家というのは、2作目に苦しむわけですよ。ということで、批評家のダンナから諭されるもデルフィーヌはもう2年もぐずぐずと次作の構想を練ったりリサーチしているんですな。日本の作家だと、どんなにデビュー作が売れてもこういう余裕はないよね。

そんなところに現れるのが「エル(彼女)」という名前のミステリアスなファン。彼女も物書きの端くれ(ゴーストライター!ポランスキーてめえ、前作の職業使い回しするなよ)で、デルフィーヌの原稿に対しても鋭いツッコミを入れてくる。ITやSNSにも明るくて色々世話を焼いてくれる。原稿を読み込んで率直な意見を言ってくれる。作家としての方向性を考えてくれる。それが嬉しくて、つい頼っちゃって、自分のアパートに住まわせちゃうわ、行きたくない出張講演に代打として送り出すわ、ズブズブの関係になってしまう2人。

パソコンのパスワードを教えちゃって、勝手にメールの返事をされるわ、鍵を渡しては昔の日記を読まれるわ、おまけに階段転げ落ちて骨折して生活面でも頼りっぱなしになってきて、これはこのままエルの術中にハマって、人生乗っ取られるんだろうな、次の本も彼女がゴーストライターになるオチかい!ついでに夫も略奪かな?と思っているところに急展開の兆し。デルフィーヌったら、自分のストーリーが書けないからって、エルの壮絶な過去を聞き出してそれを書いちまおうという、こちらもしたたかな女だったというところで、どう転ぼうと(溝に落っこちようと)彼女に同情する気持ちがなくなるわけです。

で、2人で滞在している田舎家でネズミが出る(あるいは出てない)。時々キレて怖い面をみせるエルが異常なほどのネズミ恐怖症(何があったんだ?)。この後、エルが作ったご飯を食べて食中毒になったデルフィーヌがゲロゲロする場面が続き、スープだのココアを無理やり飲ませようとするエルが一瞬、般若みたいな表情を見せ、怖さがマックス。(でも殺鼠剤買ってくるところでオチは読めるよね。)

その後のクライマックスやラストがつまんなさすぎと言うか、消化不良でこっちのお腹がピーピー言ってゲロっちゃいますよ、みたいな展開だったので、ポランスキー、おまえの映画はビチグソだ!もう見ねえぞ!というのが感想です。結局、エルどうなったんだよ? 本がそんなに売れたなら印税払ってやれよ。それはそうと、あの嫌がらせ手紙出してきたのはエルだったのか?

ところで、内輪な話をすると、最後のシーンで出てくるブックフェアのフランス館、懐かしいです。あそこは4時以降のアポだと優雅に赤ワイン片手に商談してて、6時までみっちりアポこなしてイングリッシュのブースに飛び込んだもののビールにありつけずに泣いていた昔の自分が哀れになりますw(これはランダムハウスに移ってから、多少解消されたけど)

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