推し短歌(モモコグミカンパニーさん、あのさん、たかはしほのかさん、カネコアヤノさんへ捧ぐ)+ 推し俳句

「推し短歌」という企画を見つけたとき、ぜひとも応募したいと思った。最近は俳句の方に手応えがあり短歌はスランプ気味だけれど、むしろそこから抜け出すのにちょうどいい機会とも捉えられる。ぼくにとって厳密に〈推し〉と呼べるのはモモコグミカンパニーさんただひとりなわけだけど、ぼくは自身が使う〈推し〉という言葉の範囲を意図的にかなり狭めているので、この企画の意図するであろうところの「推し」に該当する人は他にもなん人かいる。締切までまだ余裕はあるし、その間に「現場」に行く予定なんかもあるからとにかく挑戦してみよう。

そんなかんじで詠みはじめてみたのだけれど、しばらくしてこれはなかなか残酷な企画であることに気づいてしまった。ぼくの場合「推し」と呼べる方はことごとく歌手であり、しかもみずから作詞も手掛けられているのだ。歌詞だとか曲名だとかの引用をしてしまった場合などとくにそうだが、彼我の才能の差に否応なく打ちのめされてしまう。もちろんそこにはぼくなりのエッセンスを加えて詠み込んでいるつもりだが、それがむしろ対象を矮小化してしまっているのではないかという疑いをみずから抱かざるを得なくなってしまうのだ。

そういうわけで一時は応募を諦めようかとも思ったが、この残酷さも含めた「推し短歌」なのかもしれず、また、なかにはその彼我の差への想いを詠み込むことができたかもしれない歌もあるし、その差を縮めるためにはここで諦めてどうするとの思いもあったため、ともかく応募してみることとした。

なお、モモコグミカンパニーさんへの一首目とカネコアヤノさんへの一首目は、本企画が発表される前に詠んだものである。

モモコグミカンパニーさんへ捧ぐ二首

足の指ひとつひとつを宝石にしてく気付いてくれぬかもでも/ヘッドフォンよりもスピーカーで聴いたあなたの声のほうが近くて

一首目はりさきさんのエピソード(*1)に、ぼく自身が小説のお渡し会に参加したその前夜の気持ちを重ねて詠んでいる。二首目は初のソロ曲「うそつき」(二〇二三)を聴いた印象を詠んだ。

あのさんとあのファン・I’s ファンへ捧ぐ三首

推し色のシャツと汗とが脱ぎがたき夜ぼくたちはたしかにいたね/生き尽くした今日知らず知らず連れ帰った青虫よ「ぼく」らの子供/声に出し言いはしないが、きみも低気圧に痛みを感じることが、

一、二首目はいづれもあのさんがギター・ヴォーカルをつとめる I’s のライヴ帰りを詠んだものである。二首目についてはももさんのエピソード(*2)に着想を得、I’s の「青虫」(『永遠衝動』〈二〇二三〉所収)の歌詞とあのさんの過去の投稿(*3)における〝生き尽くす〟という表現を参照して詠んだ。

たかはしほのかさん(リーガルリリー)に捧ぐ一首

無人駅の案内板にギター一本で書いた「ユートピア行き」

ほのかさんが無人駅でおこなった配信弾き語りライヴと楽曲のユートピア的な印象を詠んだ。

カネコアヤノさんに捧ぐ四首

夏晴れのバイパスを往く月曜日カーステレオと野音の記憶/あの人の手はしっとりとしていたという夢すらも羨ましくて/この秋の最初のコーデュロイを穿きカネコアヤノに会いに行くんだ/座席数二百足らずのシアターの底に「孤高」の J-50 よ
(*4)

一首目は「カーステレオから」を参照している。三首目は〝クローゼットの中で一番気に入ってるワンピース来ていくね〟という「エメラルド」の歌詞と対比して読んでいただきたい。いずれも『祝祭』(二〇一八)所収。二首目はわからないさんの投稿(*5)を元に詠んだ。四首目は金沢 21 世紀美術館のシアター 21 での弾き語り公演の印象を詠んだ。

おまけ(推し俳句)

モモコグミカンパニーさんに捧ぐ四句

アタリメ焼く炉端汝は遠く近し/紀伊國屋サインに並ぶ汗よ我/ボロ手帳捲る弓手よ野分立つ/桃の毛を撫でながら行く陽射し道
(*6)

リーガルリリーに捧ぐ一句

月青き街よあなたの住む街よ

リーガルリリーのメンバーが生まれ育った街との距離(滋賀―東京)と、楽曲のユートピア(無い・場所)的な印象とを思い詠んだ。

カネコアヤノさんに捧ぐ一句

涼風やギブソンと黒いワンピース

大阪城野外音楽堂における公演の光景を詠んだ。

夏フェスの三句

夏フェスぞトリ待つ右腕の痛き/夏フェスの腕輪を切りて置くチェスト/エアコンは OFF 配信のフジロック

  1. 1684944818517184512、@muffin3373、X、2023 年 7 月 29 日。現在非公開。〝足の指を宝石にして〟という表現はりさきさんの投稿からの引用である。

  2. 1702327927856418990 & 1702328430724005891、@0904momo0904、X、2023 年 9 月 14 日。

  3. あのさんの X の投稿はすぐに削除されることが多く、この投稿も例に漏れず削除済みである。

  4. J-50【ジェイ・フィフティー】はギブソンのアコースティック・ギターである。

  5. 1693076440215106015、@yasasimugicha、2023 年 8 月 20 日。

  6. 烏賊はモモコさんの好物。「汝」の読みは「な」。モモコさんは左利き。


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