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復讐

高校時代の部活の顧問が亡くなった。告別式を知らせるラインが届いたのは旅行中のことだった。私は彼女が大嫌いだった。いつも平気で声を荒げる人だった。理不尽な理由で、今思えば本当にどうでも良い理由で怒られたりした。けれど涙脆いところがあって生徒に好かれていた。私はそれすらも嫌いだった。話し方、飴と鞭の使い分け方、表情。先生を慕う人達は信者じみていた。

まずやってくれやがったと思った。折角の旅行が台無しだ。なんて事してくれているんだ。次に悲しむグループラインを冷めた目で見て、紋切り型の文を送信した。悲しまないことはこれからの人間関係に差し障る。

先生の前で泣いたことがある。屈辱だった。怒られたのではなく、寄り添うみたいな声色で私の精神領域を踏み荒らし、辛かったかと安直に聞き、答えられないのをいいことに同情し、自分の非力さを勝手に詫び、お前にも非があると最後にのたまった。先生の前だけでは絶対に泣きたくなかった。屈服したくない、支配されたくない、馬鹿にしないで、先生の基準で、勝手に哀れまないで。学校の小さな小さな部室の中で檻を作り、私たちを閉じ込めて、可哀想か可哀想じゃないかふるい分けた。今でも許していない。

先生の想像を超えたところで生きることが目標だった。先生にできないことを見て経験して楽しんで、あの軍隊みたいな部活のことをそんなことありましたねって、馬鹿だったなあって振り返りたかった。それが唯一の復讐だと思ったから。高校卒業の時に立てた目標は忘れていた。十分達成できていて目標のことを考える必要がなかった。でも目標を思い出して、復讐し続けることができなくなってしまってからずっと先生のことを考えている。

何で死んでしまうんだ。あなたは私の人生に今後一切登場せずに、私が進化していく様子をその、小さな小さな部室の中で見守っていてほしかった。悲しくない。全然悲しくないのに、ライン上では悲しまなければいけなくて、呪詛の言葉を頭の中で再生しながら、知らない街の喫茶店でぼろぼろ泣いた。

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