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セミから救ったおはなし

友だちとボイスチャットでわいわい話している途中、その話し相手の友だちにも聞こえるくらいの女性の悲鳴が聞こえた。お隣の奥さんだ。ベランダのドアを開け閉めする音とともに。あまりに大きくて友だちも、夫も私もびっくりして様子をうかがっているとなになに、窓を開けたときにセミが入ってしまったようだった。

セミと私たち夫婦

夫はセミが大の苦手だ。でも私たちが今住んでいるアパートには毎年夏に鳴るとベランダや廊下にたくさんのアブラゼミが落ちていたりとまっていたりする。しかも夫がそばを通るとなぜか突然飛び立ち夫に向かってくる(夫談)という。夫はセミたちが夫を殺そうと思っていると思い込んでいる。

私はセミが大好きだ。目の前を飛ぼうものならわしづかみ。掴んでいる間ぎゅーっと押してはジージー言うのを楽しむ。クマゼミのいる地域で育ったので、最近この東京でも時々クマゼミの声が聞こえるようになってテンションが急激に上がっている。クマゼミ取れたらステータスだ。だが残念ながら身近に飛んできてくれるのはアブラゼミのみ。ミンミンゼミも美しくて好きだ。あまりにクマゼミと離れていたせいか、ミンミンゼミの方が今は見た目は好きかもしれない。

夫の話すエピソードのひとつとして、以前羽化に失敗したセミを見つけて私に教えてくれた時、まだその現場にもたどり着いていないのにはなしを聴いた途端私は号泣しだしたらしい。思い出せないエピソードだが、今聞いてもなにか胸に暑いものがこみ上がり、今まさになんかつらい。

そんなわけでこの時期のごみ捨ては私の仕事になる。もし私が持ちきれないゴミの量だったら夫が後ろから箒をかまえてついてくる。私がまず廊下や階段にいるセミをみつけ捕まえ現場をクリアーし、夫に通ってもらう。殺しはしない、ちゃんと外にはなってあげる。飛べない子は土の上にそっとおく。コンクリの上で死ぬなんてなんだか寂しいじゃない。

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